デビュー戦
埼玉2部リーグ第1節
清川高校 vs 浦和西高校
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原田「えー、とりあえずリーグの最初の4戦は、特に指示は出さねぇ。
各々、ない頭で考えてやれ。以上。」
(部員たち)(……こいつ、やっぱり好きになれる気がしねぇ)
原田「まあ、2部リーグなら圧勝してほしいもんだがな?」
挑発するような視線を宮下に送る。
宮下「……わかりました」
(……なめやがって)
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■ 試合開始
一ノ瀬が敵のプレスを外し、スッと足を振る。
縦への一閃。芝を裂くような速いパスが一直線に走った。
ボールは松井の足元に吸い込まれる。
松井(ここだ……!)
トラップして、すぐに顔を上げる。ペナルティエリアに空いたスペース。
迷わず蹴り込む――
松井「あっ……」
白い軌道がゴール前を裂く。
だが、そこに味方はいない。
虚しく転がるボールを、相手GKが拾い上げた。
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原田「……流石にこのレベルなら形にはなるな」
「だが⸻まだまだだな」
美里「何が“まだまだ”なの?」
原田「速すぎるんだよ」
「あいつ、スペース見つけて浮かれてやがった。FWの準備を見てなかった」
美里「じゃあ、あそこでちょこっと待ってFWを引き出せば良かったってこと?」
原田「まあ、そういうことだ。……自分で気付いてりゃいいけどな」
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宮下「カウンター来るぞ!!」
怒号がグラウンドを裂く。視線の先、敵の赤いユニフォームが一直線に突っ込んでくる。
宮下(抜かせねぇ!)
スパイクが土をえぐる。砂が跳ね、音が鈍く響く。
最後の一歩、宮下は体を投げ出した。
ズサァッ!!
ボールが足に当たり、横に弾き飛ぶ。
砂煙が夕陽に舞い、宮下は泥だらけで立ち上がった。
肺が焼けるほどの息切れ。それでも、顔は上げたまま。
宮下(……俺がやる。やってやる)
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その後も宮下は走り続けた。
クロスには頭から飛び込み、CKはことごとく弾き返す。
守備の砦――その背中は、味方に勇気を与えていた。
原田「おーおー、気合い入ってんねぇ」
美里「宮下君、めっちゃいい感じじゃん!」
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■ 前半終了
スコア 0-0。
原田「おいおい、俺は圧勝しろって言ったよな?
なんだよ0-0って。このままじゃ、後半も思いやられんな」
宮下(俺は守ってんだ。文句ねぇだろ)
原田「まあ、期待せず観とく。好きにやれ」
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■ 後半
時間だけが過ぎていく。
清川の攻撃はパスこそ回るが、最後で崩せない。
宮下「カウンター!!」
敵のスピードスターが一気に駆け抜ける!
宮下(来いよ……抜かせねぇ!)
ズサァッ!!
ボールが弾き飛び、敵は無様に転んだ。
部員たち「ナイス宮下!!」
「キャプテンやべぇ!!」
宮下(……まだだ。最後まで守る)
美里「宮下君、監督の条件クリアしそうだよ?」
原田「まあ見てなって。断言してやるよ。あいつは必ず、この4試合で3失点以上する」
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■ アディショナルタイム
松井(……せめて一点でも)
一ノ瀬が静かに足を止める。そして顔を上げた。
低く速いパスが芝を裂き、松井が必死で追う。
松井(まだだ!)
相手DFが突っ込む。
ドスッ!! 足を刈られた。
笛「ピーッ!!」
「フリーキックだ!!」
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全員の息が止まる。
ゴール前の空気が、張り詰めていた。
ボールを置いたのは一ノ瀬。
呼吸を整え、ゴールを睨む。
助走――シュート!!
ズドンッ!!
ネットが大きく揺れた。
スコア 1-0。
試合終了のホイッスルが響いた。
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部員たち「よっしゃあああああ!!」
宮下は腰に手を当て、空を仰いだ。
宮下(……守った。やってやったぞ)
ベンチ脇。
美里「やったぁ!新チーム初勝利だよ!!」
原田「………」
ポケットに手を突っ込んだまま、ただピッチを見つめる。
美里(無視?!)




