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Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


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7/20

一条雅也。

 真琴(まこと)久遠(くおん)湖月堂(こげつどう)を後にした。


 六月初夏の日差しが降り注ぎ、額にうっすらと汗が滲む。

 空の青さも、新緑の瑞々しさも、今日はいつも以上に鮮やかに感じられた。

 胸に居座っていた小さな澱のようなものが、すっと溶けていくのを感じる。


 ――うん、上手くいってよかった。

 絶対に、いい企画にしよう。


 湖月堂のご夫婦の笑顔を思い浮かべながら、真琴は改めて心の中でそう誓った。


「よかったですね。すぐに理解していただけて、正直驚きました」

「うん。久遠くんが言ってくれたからよ。あのまま進めてたら、お互いに遠慮したままだったと思う。ありがとうね」

「いえ……でも、すごいですね。ああいう関係」

「そう?長い付き合いだからかな。それに、私自身あのお店のファンだし。新作も美味しかったなぁ」


 そう言いながら、真琴は紙袋を軽く揺らした。


「ちゃっかり、自分の分も買ってますしね」

「これは私とチームのみんなの分。みんな頑張ってくれてるからね」


 実際、残業続きの日々だ。それでも誰一人弱音を吐かずについてきてくれている。


「じゃあ、次。あと一件いくわよ」

「はい」



 十分ほど歩いた先に現れたのは、十六階建ての高層ビル。

 今回の企画に協賛してくれる企業。いつもお世話になっているありがたい存在。

 けれど……。


「神崎さん?」

「あ、ごめんごめん、大丈夫。今日は挨拶だけだから」

「はい」


 受付を済ませ、最上階へ向かう。

 社長室の前に立つと、真琴は一度深く息を吸った。


 エントランス前で、真琴はふと足を止めた。


「あのね、社長……一条雅也(いちじょうまさや)社長なんだけど。ちょっと変なこと言うかもしれないけど、気にしないで」

「……はぁ」


 意味が分からない、という顔の久遠に、真琴は小さく苦笑する。

 悪い人じゃない。ただ、少し……いや、かなり癖がある。


「社長、神崎です。失礼いたします」


 ノックをして扉を開けると、穏やかな笑顔が迎えた。


「やぁ。久しぶりだね」


 一条雅也。

 一八〇センチを優に超える長身に、モデルのような体躯。

 涼やかな目元と整った顔立ち。身につけるものすべてが、洗練されている。


「一条社長、お久しぶりです。今回もご協力いただき、ありがとうございます」

「はは、そんな堅苦しくしなくていいのに」

「いえ、大変お世話になっていますので」

「真琴は相変わらずだなぁ」


 呼び捨てにされた瞬間、背後で久遠がわずかに目を見開いた。


「……大学時代の同期なの」

 そう説明すると、久遠は納得したように小さく頷いた。


「社長。ここはビジネスの場ですから。神崎でお願いします」

「分かってるって。神崎ちゃん」

「“さん”、です」

「はいはい」


 楽しそうに笑う一条に、真琴は内心ため息をついた。


「で、出店店舗はもう決まった?」

「はい。こちらがリストと企画の詳細です」


 資料を受け取り、一条は目を通す。


「相変わらず完璧だな。俺が口出すところはない」

「そう言っていただけて安心しました」


 一条はふと視線を上げ、表情を曇らせた。


「……大丈夫か?」


 その一言で、すべて察した。

 彼が気にしているのは、相澤真吾……元恋人のことだ。


「大丈夫ですよ。変わりなくやっています」

 真琴は微笑んだ。


 大学時代、慎吾と付き合う前は、一条と一緒に過ごす時間が多かった。

 同じ専攻で、話も合って楽しかった。

 けれど、慎吾と付き合い始めてから、自然と距離ができた。


「寂しくなったら、俺が飛んでくからさ」

 一条は胸を指で叩く。

「俺のここ、まだ空いてるぞ」


 相変わらず軽い。けれど、心配してくれているのは分かる。


「はいはい。ありがとうございます」


 そのやり取りを不思議そうに見ていた久遠に気づき、真琴は慌てて言った。


「ごめんね。この人の言うこと、半分以上は冗談だから」

「半分以上って失礼だな……あれ?」

 一条が久遠に視線を向ける。

「新しい人か?」

「今日入社したばかりの久遠郁人くん。私のチームで指導することになって」

「久遠……」


 一条は一瞬、何かを考えるように視線を落とした。


「どうかした?」

「いや、なんでもない」


 その微妙な間に、真琴は小さな違和感を覚えたが、深く追及はしなかった。


 企画の確認を終え、二人は社長室を後にした。



 

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