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Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


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神崎真琴。

「みんな、揃ったわね。では会議をはじめます。思ったこと感じたことは、遠慮なく意見して。立場や年齢は関係ないわ」


 チームリーダーとして真琴は落ち着いた声で会議を進めた。

 手元には、この企画のために用意した資料一式が揃っている。


 今回の新企画を任されたのは、提案者である神崎真琴(かんざきまこと)と、彼女が選抜した男女六名のメンバー。

 その中には、入社したばかりの久遠郁人(くおんいくと)も含まれていた。


 久遠はまだ見学に近い立場だ。

 だが、この企画の全体像を理解してもらうことが、彼の今後にとって必ず糧になる。

 真琴はそう考え、あえてこの場に同席させていた。






 会議は順調に進んでいく。

 意見を出し合い、修正し、少しずつ企画の輪郭が明確になっていく。


 ——やっぱり、私は仕事が好きだ。


 責任は重いし、残業も多い。

 それでも仲間と意見をぶつけ合い、一つの形を作り上げていくこの過程がたまらなく好きだった。

 努力が実り、結果として返ってきたときの達成感は、何にも代えがたい。


 そしてプライベートでは色々あったけれど、仕事に没頭している間は、余計なことを考えずに済む。


 ——新人の久遠くんも預かっている。

 だからこそ、なおさら気を引き締めなきゃ。


 会議も終盤に差し掛かった頃、真琴は、まだ一度も発言していない久遠の存在が気になった。 


「久遠くん。今日は初参加だから分からないこともあったと思うけど……どうだった?何かあれば、遠慮なく言ってね」


 名前を呼ばれ、久遠は顔を上げた。

 少し考えるように間を置き、資料に視線を落としてから口を開く。


「とても良い企画だと思います。お客様にも、お店側にも配慮されていて……ただ」


 一瞬、久遠は言葉を選ぶように息を吸った。


「この規模で進めるなら、もう少しテーマを絞った方がいい気がします。今のままだと、目的が少しぼやけてしまうかもしれません」


 ——ドクン。


 真琴の胸が、静かに鳴った。

 それは、彼の言葉が的確すぎたからだ。


 ——やっぱり……。


 真琴自身、薄々気づいていた事だった。

 規模を抑え、テーマに沿った店舗を厳選した方が良い。

 けれど、長年世話になってきた取引先を外す決断ができず、踏み切れずにいた。


 だが、このままでは企画が中途半端になる。


 ——きちんと話そう。今回は辞退していただいて、次の機会に必ずまた。


「ありがとう、久遠くん」


 真琴は微笑んで頷いた。


「確かにその通りね。今回は企画に沿って、店舗を厳選する方向で進めましょう」


 久遠の意見が、真琴の背中を押してくれた。


「本当にありがとう」


 流れは決まった。


「では、今日はここまで。必ず成功させましょう」


「はい!!」


 揃った返事に、皆の表情は明るい。

 やる気に満ちた空気が、会議室を満たしていた。


 ——私も。絶対にいいものにする。


「私はこれから挨拶回りに行くわ。久遠くん、ついてきて」


「はい」


 必要な書類をバッグに詰め、二人は会社を出た。




 六月初旬。

 日差しはすでに強く、じりじりと肌を焼く。


 真琴は空を見上げ、目を細めた。

 雲ひとつない、澄んだ青空。


「さっきはありがとうね。私も気になっていたことをはっきり言ってくれたから決心できたの」


 早足で歩きながら、そう伝える。


「最初は湖月堂(こげつどう)さんよ」


「はい」


 歩くこと十五分。

 代々付き合いのある老舗の和菓子屋だ。


 挨拶を済ませ、奥へ通される。


「突然の訪問ですみません。お時間いただきありがとうございます」


 深く頭を下げる真琴に、奥様は柔らかく笑った。


「そんな堅苦しくせんでいつも通りでよかよ」


 ご主人も笑顔で続ける。


「そうそう。あ、新作できとるばい。食べていきんしゃい」


 変わらない温かさに、少しだけ肩の力が抜ける。

 けれど今日は、大切な話がある。


「……ありがとうございます。それと今日は、お二人にお話ししたいことがありまして」 


「今度のフェスのことやろ?」


 笑顔で話す奥様の言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。


「はい。ですが……今回の企画は、いつもとは少し趣向が違いまして。大変申し訳ありませんが、検討の結果、今回は出店を辞退していただきたく……」


 深く、深く頭を下げた。


 一瞬の静寂が流れる。

 ご夫婦は顔を見合わせ、そして奥様が口を開いた。


「実はね、私もうちには合わんかな、と思いよったとよ」


「え……?」


 思わず顔を上げる。


「長い付き合いやけん、頼まれたら断れんかっただけたい」


 ご主人も優しく笑う。


「真琴ちゃんの頼みなら、何でも受けたかったとよ」


 ——なんだ。

 ——お互い、遠慮していただけだったんだ。


 胸がじんわりと熱くなる。


「ご理解いただき、ありがとうございます」


「さ、新作ば食べり。真琴ちゃんも、そこの綺麗な顔の兄ちゃんも」


 豪快に笑うご主人と、穏やかに目を細める奥様。


 ——やっぱり、このお店が好きだ。そしてこのご夫婦の温かい人柄も。


「いただきます。ほら、久遠くんも」


「はい、いただきます」


「……美味しい!夏らしくて涼しげで、これ絶対売れますよ」


 そう言うと、奥様は嬉しそうに微笑んだ。


「やっと、いつもの真琴ちゃんに戻ったね」


 その言葉に、真琴は静かに息をついた。



 ——大丈夫。

 ——私はちゃんと前を向いている。


 そう思えた一日だった。











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