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Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


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3/20

選択を間違えた日。

 橘愛美(たちばなまなみ)と結婚して約二ヶ月が過ぎた。


 結婚を報告したとき、周囲の反応は分かりやすかった。

 誰もが口を揃えて「羨ましい」と言った。


 それもそのはずだ。

 橘愛美は、会社の顔とも言われる受付嬢。

 男性社員の間では、知らない者のいない“マドンナ”的存在だった。


 小柄な体に、潤んだ大きな瞳。

 透明感のある白い肌に、淡く色づいた頬。

 艶のある唇と、肩口でふわりと揺れる髪。

 甘い香りと、柔らかな声。


 彼女が微笑むだけで、場の空気が和らぐ。

 まるで天使みたいだと、本気で思った。


 ——俺も、その一人だった。


 当時は真琴と付き合っていた。

 だからどうこうしようなんて考えていなかった……はずだ。


 ただ、挨拶を交わすだけ。

 すれ違うだけで、なぜか胸が少し高鳴る。

 そんな“一瞬の幸せ”をくれる存在。


 ……あの日までは。


 ある休日、真琴に買い物を頼まれ、文句を言いながらコンビニへ向かっていた。


「なんで俺が休みに買い物なんだよ……。せっかくの休日なのに」


 ブツブツ独り言をこぼしながら歩いていると、前方が妙に騒がしいことに気づいた。


 人だかり。

 十人以上はいるだろうか。


「……なんだ?」


 輪の中心を覗いた瞬間、心臓が跳ねた。


 ——橘さん。


 だが次の瞬間、状況がただ事ではないと分かった。


 彼女の腕を掴んでいる、見た目からして異様な男。

 伸びきった髪で表情は見えず、ヨレヨレの服。

 どう見ても普通じゃない。

 不審者だ。


 橘愛美は必死に腕を振りほどこうとしていた。


「やめてください!警察呼びますよ!」


「お前のせいで人生めちゃくちゃなんだよ!このバッグも時計も、俺が買ってやったんだろ!」


 ——は?


 どう見ても、そんな高価なものを買える男には見えない。

 完全に頭がおかしい。


 普段ならこんな面倒なことには関わらない。

 でも、相手は橘さんだ。


 ……正直思った。

 これはチャンスじゃないか、と。


「ちょっと!やめてください!彼女、困ってるじゃないですか!」


 男が振り向く。


「誰だお前!まさか……愛美の新しい男か!?」


「違います!とにかく手を離してください!」


 次の瞬間、男が拳を振り上げた。

 とっさに身をかわす。


 男はバランスを崩し、そのまま転倒した。

 地面に頭を打ち、呻き声を上げる。


 ——俺は何もしてない。

 勝手に転んだだけだ。


「今だ……!橘さん、走るよ!」


 手を引き、人混みを抜けて走った。

 とにかく、あの男が見えなくなるまで。


 しばらく走り、ようやく立ち止まる。


「大丈夫?ごめん、急に走らせて」


「だ、大丈夫です……。助けてくださって、ありがとうございます……」


 息を切らしながらも、丁寧に頭を下げる。


 ——可愛い。


 こんな状況なのに、そう思ってしまう自分がいた。


 近くの喫茶店に入り、向かい合って座る。


 大きな瞳。

 守ってあげたくなるようなか弱さ。


 ——真琴とは、正反対だ。


「本当にありがとうございました」


 涙を滲ませるその姿に、胸が締めつけられる。


「……もう少し、一緒にいてもらえますか?」


「もちろんだよ」


 予定はなかった。

 いや、一瞬だけ真琴の顔が浮かんだけれど……。


 仕方ないだろ。

 こんな怖い思いをしたんだから。


「あの……相澤真吾さん、ですよね?」


 名前を呼ばれ、驚いた。


「俺のこと覚えてるの?」


「はい!いつも素敵な笑顔で挨拶してくださるので」


 下の名前まで覚えられている。

 正直、それだけで舞い上がった。


「相澤さん、優しくてかっこよくて、女子社員の間で人気なんですよ」


 ——そうなのか。


 しかも、橘愛美が。

 俺を、そう見ていた?


「私も、ずっと素敵だなって思っていました」


 頬を染め、視線を伏せる。


 ……可愛すぎる。


「連絡先、聞いてもいいですか?」


「もちろん」



 それが、始まりだった。


 正直、あのときは浮かれていた。

 みんなの憧れだった橘愛美と繋がれたことが。


 真琴のことは、ほんの一瞬だけ頭をよぎった。

 でも、正直に言えば——


 あの頃の真琴との関係は、もう“慣れ”だった。

 安心はあっても、ときめきはなかった。


 愛美との出会いは、

 忘れていた感覚を、思い出させた。


 ——恋愛って、きっと、こういうものだったんだ。





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