表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

忍び寄る悪意。

 神崎さん……気持ちよさそうに眠っている。


 久遠は、静かに寝息を立てる真琴の顔を、しばらくじっと見つめていた。


 毅然として、誰に対しても真っ直ぐで。

 いつも強く、迷いのない姿しか見てこなかった神崎さんが、こんなふうに無防備に眠っている姿を見るのは初めてだった。


 放っておけなかった。

 一人で帰らせたくなかった。

 一人にさせてはいけない、そう思った。


 彼女を引き止めたのは、間違いなく僕の我儘だ。


 久遠は、自分の中に芽生えた初めての感情に戸惑っていた。

 これまで、特定の誰かにここまで心を乱されたことはない。

 他人に優しくすることはあったが、それは円滑に物事を進めるための仮初めのものだった。本心では、他人に深く興味を持ったことなどなかった。


 ただ、うまく回ればいい。

 そう割り切って、人と関わってきた。


 ――けれど。


 神崎さんを見ていると、考え方が変わる。

 仕事への情熱。仲間への思いやり。

 一人ひとりと真正面から向き合い、真剣に接する姿。


 僕とは、まるで正反対の人だ。


 彼女と一緒に仕事をするようになってからだ。

 仕事にやりがいを感じるようになったのも、仲間を見る目が変わったのも。


 ……だから父は、僕を神崎さんの下に就かせたのか。


 神崎主任の指導のもとで働くようになったのは、父の判断だった。

 このことは、誰にも話していない。

 父との関係を公にしたくなかったし、それ以上に、彼女に余計な先入観を持たせたくなかったからだ。


「お風呂、お先に失礼しました」


 湯上がりの彼女は、驚くほど魅力的だった。

 湿った肌、火照った頬。

 艶やかなその姿に、思わず息をのんだ。


 僕の服を着ている彼女が、やけに可愛く愛おしく見えた。

 けれど……彼女は、相澤真吾(あいざわしんご)に傷つけられ、今も心が弱っている。


 こんな気持ちを悟られたら、嫌われてしまう。

 そう思って、必死に冷静を装った。


 だから酒に頼った。

 けれどペースが早かったのは彼女の方で……。


 酔った彼女は、自分のことをたくさん話してくれた。


 大学二年の冬。

 何度も告白され、相澤真吾と付き合い始めたこと。

 結婚も考えていた矢先、浮気現場を目撃し、心ない言葉で切り捨てられたこと。

 そして今も、執拗に続く連絡に悩まされていること。


 聞けば聞くほど、怒りが込み上げてきた。


 なんて身勝手な男だ。


 他人に執着しないはずの自分が、ここまで強い怒りを覚える。

 それはきっと……神崎さんが関わっているからだ。


 多分、僕は神崎さんのことが好きなんだ。


 すべてを話し終えた彼女は、子どものように眠ってしまった。


「……飲ませすぎたな」


 テーブルに伏せた彼女を起こさぬよう、久遠はそっと抱き上げ、寝室へ運ぶ。

 布団をかけ、その寝顔を見つめる。


「……まるで子どもだ」


 思わず微笑みがこぼれた。


 可愛い。

 抱きしめたい衝動を必死に抑え、久遠は彼女の髪をそっと撫でる。


「おやすみなさい、真琴さん」




 


 翌朝。


 ――やってしまった。


 目覚めた瞬間、真琴は久遠のベッドにいることを理解し、頭を抱えた。

 頭痛と共に、後悔が押し寄せる。


 あれから二人でワインを飲んだことまでは覚えているけど、その後がまるで思い出せない。


 恐る恐るリビングへ向かうと、久遠はすでに起きて朝食を用意していた。


「おはようございます。頭、痛くないですか?」


 その自然な態度に、真琴は少し救われる。


「少し……頭が痛いかも。ごめんね、私がベッドお借りしちゃって」


「大丈夫ですよ。それよりコーヒー飲めますか?食べれそうだったらお粥もどうぞ」


「うん。ありがとう。」


 淹れたてのコーヒー。

 優しい味のお粥。


 心まで温まるようだった。


「私…なにか変なこと言ってなかった?あまり記憶が無くって……」


「何もなかったですよ。神崎さん疲れていたのか、すぐ寝てしまいましたから」


「ならよかった……」



 食べ終え準備を整えると、久遠に何度もお礼伝え、マンションを出た。

 そしてタクシーで自宅へと向かった。






 会社へ向かうと、異様な空気が漂っていた。


「何……これ……。」


 エントランスに壁一面に貼られた写真と張り紙。

 写っていたのは、自分と一条雅也。

 そして、黒々と書かれた文字。


『神崎真琴は枕営業をしている』


 心臓が嫌な音を立てる。


 雅也に抱きしめられているかのような写真が複数枚。


 その写真に覚えがあった。

 これはあの時の……雅也と飲みに行った時の写真だ。

 私が躓いて倒れそうになったのを、雅也が受け止めてくれた時のもの。


 しかも撮られた写真は、運悪くホテルの前。

 この写真を見るまでは、何処で躓いたのかも分からないくらい気にも止めていなかった。

 まさか写真にとられていたなんて……。


 必死に否定しても、疑いの視線は消えない。


「僕は神崎さんを信じます」


 久遠の言葉に、かろうじて立っていられた。


 けれど、噂は社内だけに留まらなかった。


 クライアントからの担当変更の要請。


「……分かりました」


 そう答えるしかなかった。


 胸が、ぎゅっと締め付けられる。


 私は、どうすればいいの……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ