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Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


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16/20

暴かれる素顔。

「な、なんでそんなひどいことを言うんですか! 私、そんなことしてません!」


 一条に詰め寄られ、愛美は声を荒らげて反論した。

 その様子を偶然目にしていた数人の社員が、足を止める。ひそひそと息を潜めながら、二人のやり取りを見守っていた。


 ——おかしい。


 真琴はそう感じた。

 いつも余裕たっぷりで、天使のような笑顔を崩さない愛美が、明らかに動揺している。表情は強ばり、視線は定まらない。


 一方の一条は、感情を抑えたまま、静かに、しかし強い口調で言葉を重ねていた。


「今回は神崎さんの機転で事なきを得た。だが、あのまま準備が間に合わなければ、こちらも先方も、相当な迷惑を被っていたんだぞ」


「だから……私じゃありません!」


 涙を浮かべて否定する愛美。

 だが一条はその様子に一切動じることなく、続けた。


「……証拠があるんだよ。君がやったという証拠がな」


 一条は、手にしていた数枚の紙を掲げた。

 それを見た瞬間、愛美の顔から血の気が引いた。


 人だかりの中へ真琴も一歩踏み出し、一条の隣に立つ。


「あちらに確認したよ。詳しく聞いたところ、最初の注文メールとファックスが届いた翌日、再度、修正された内容が送られてきたそうだ。数を……半分に減らしてな」


 一条がちらりと真琴に視線を向ける。


「神崎さんも気づいていたな?」


「はい。こちらでも確認しましたが、数字の部分だけ文字の大きさが違っていました。後から書き換えられたように見えました。今回の発注担当は経験も長く、あんな初歩的なミスをするはずがありません」


 愛美の肩が、わずかに震える。


「……それでも!それが私だという証拠にはならないでしょう!」


 叫ぶように反論する愛美。

 その姿は、これまで“社内のアイドル”と呼ばれていた彼女とは、あまりにもかけ離れていた。


「あるんだよ」


 一条が低く言った。


「君が神崎さんの名前を使って、先方に電話をしている」


「……っ!」


「『先の発注書は間違いでした。こちらでお願いします』そう言ったそうだな」


「してません!」


 顔を紅潮させ、愛美は叫ぶ。

 その様子に。周囲は、もはや目を逸らすことができなかった。


 ——私の名前を使って、電話まで……。


 真琴は初めて知る事実に息を呑んだ。


「あちらも声が違うとは思ったそうだ。ただ、声だけで特定はできない。それにいつもの会社のアドレスからメールが来れば、疑わないだろう?」


「……それでも、私がやった証拠には——」


「ある」


 一条は、静かに、しかし決定的な一言を放った。


「その電話の通話記録だ。二回目の発注書を送った、その日時と一致している」


 掲げられた書類。

 愛美は言葉を失い、俯いたまま全身を震わせた。


 ——どうして?


 真琴には理解できなかった。


「橘さん……どうしてこんなことを?会社に恨みがあったの?それとも……私に?」


 愛美は答えない。


「……私、あなたに何かした?」


 しばらくの間を置いて、愛美は顔を上げ、叫んだ。


「……あなたが嫌いだからよ!」


 真琴は言葉を失った。


「あなたは、何もしなくてもいつも中心にいる!仕事もできて、皆から慕われて……!ヘラヘラ笑ってるあなたを見るたび、イライラした!」


「……橘さんの方こそ、みんなに愛されてたじゃない」


「違う!」


 愛美は声を震わせる。


「余裕そうなあなたが、失敗して、落ち込む姿が見たかったのよ……!」


 ——余裕?


 違う。

 真琴は、必死だった。仕事も、人間関係も、恋も。守りたいものがあって、必死に踏ん張ってきただけだ。


 何か言おうとした、その瞬間。


「黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって!」


 一条が前に出た。


「真琴はな、昔から誰よりも努力してきた!人一倍勉強して、動いて、頑張ってきたんだ!だから今がある!ちゃんと見てもいないくせに、勝手なこと言うな!」


 一条の怒声に、愛美の身体がびくりと跳ねた。


 ——嬉しかった。


 自分以上に怒ってくれる人がいる。

 ずっと見ていてくれた人がいる。


「この件は上に報告する。場合によっては、大きな損害になっていた。相応の対処をさせてもらう」


 愛美は、力なく肩を落とした。


 その後——

 真琴と一条は人の輪を抜け、エレベーターで社長室へ向かった。


「雅也……ありがとう」


「いや。こっちも被害を受けるところだった。早めに解決できてよかったよ」


 柔らかく微笑む一条の瞳は、とても優しかった。


 社長にはすべてを報告し、結果——

 橘愛美は即日解雇。

 パスワードを教えた中村には、二週間の謹慎処分が下された。


「……本当にありがとう。私だけじゃ解決できなかった」


「はっきりさせて正解だった。あのままじゃ、また何かやらかしてた」


「でも……最後まで、反省してなかったね」


「ああ。めちゃくちゃ睨まれたな」


 真琴は苦笑する。


「彼女の方が、社内のアイドルだったのに……」


「は? あんなのが?」


 一条は本気で驚いた顔をした。


「外側だけ着飾った人形じゃないか。中身がない」


 辛辣な言葉に、真琴はただ笑うしかなかった。


「俺から見れば、真琴の方がずっと魅力的だ。……嫉妬されるのも無理はない」


 顔が熱くなる。

 全く……どこまで冗談で本気なんだか……。


 ——ようやく、一つの問題が終わった。


 真琴は、新たな決意とともに前を向いた。


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