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Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


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13/20

遅すぎた後悔。

 相澤真吾(あいざわしんご)は、焦っていた。


 営業職として、これまで契約数は常にトップ。

 周囲からの期待も大きく、来年の昇進は確実だと言われていた。


 ――それなのに。


 最近は、一件の契約も取れていない。


 結婚してからだった。

 歯車が狂い始めたのは。


 最初は理由が分からなかった。

 だが、ここ最近になって、ようやく思い至った。


 真琴が、いないからだ。


 契約を取るまでの下準備。

 相手企業の調査、業界の動向、商品特性、売上規模。

 それらを踏まえた提案内容の組み立て。

 そのほとんどを、真琴が担ってくれていた。


 真吾は、ただ前に立ち、話し、契約を結ぶだけだった。

 それを自分の実力だと、疑いもしなかった。


 今になって分かる。

 あれは、真琴がいたから成り立っていたのだと。


 どれほど忙しくても、真琴は文句ひとつ言わず、率先して動いてくれていた。

 ――だが、愛美は違う。


 営業成績が落ち始めた頃、一度だけ頼んだことがあった。

 少しでいい、手伝ってほしいと。


「もう!真吾さん!私にできるわけないでしょ。受付なんだよ? 同じ部署の人に頼んだら?」


 ファッション誌から目も上げず、愛美はそう言った。


 仕事が分からないのは仕方ない。

 だが、寄り添おうとする気持ちすらそこにはなかった。


 真琴といた頃は、こんな生活ではなかった。


 部屋はいつも整っていて、食事は薄味でも体を気遣ったものだった。

 仕事で困っていれば、言わずとも支えてくれた。


 ――俺は、何を選んだんだ?


 真琴の、真っ直ぐで飾らなくて、あの笑顔が好きで告白したはずなのに。

 いつの間にか、それが「当たり前」になっていた。


 もし、あの頃に戻れたら――。

 真琴と、もう一度……。




 一方、橘愛美もまた、真吾との生活に嫌気がさしていた。


 もう無理。早く別れたい。

 成績は落ちる一方、昇進どころじゃない。

 仕事がうまくいかない苛立ちを、家でぶつけてくる。


 欲しいものも買ってくれない。


 ――使えない男。


 やっぱり本命は一条さんかしら。

 それに、神崎真琴の弱点も、そろそろ掴まないと。


 あぁ、忙しい。




「神崎さん、ちょっといい?」


 声をかけられ、真琴の身体が一瞬強張った。


 相澤真吾。

 部署も違う。用事があるはずもない。


「……何でしょうか?」


「前田商事の件で、少し確認したいことがあって」


 仕事なら仕方ない。

 真琴は部屋を出た。


 ――なるべく、関わりたくない。


「話って?」


「真琴……俺たち、やり直さないか」


「……は?」


「分かったんだ。真琴が俺のためにどれだけしてくれてたか」


 家のことも、仕事のことも。

 俺のことが好きだったからだろ、と。


 確かに、あの頃はそうだった。

 だが、今は違う。


「あなた、結婚してるでしょ。橘さんがいるじゃない」


「ごめん。あの時は間違ってた。今なら分かる。俺には真琴しかいない」


 真琴は言葉を失った。


「そんな話、聞くつもりないから」


 立ち去ろうとした瞬間、腕を掴まれる。

 引き寄せられ、胸にぶつかる。


「離して!」


 最悪だ。


 振りほどき、距離を取る。


「もう近づかないで。会いたくも話したくもない」


 縋るような視線を背に、真琴は歩き出した。



 それからだった。

 真吾から、執拗にメールと電話が届くようになったのは。


 無視しても、止まらない。

 次第に恐怖を覚え始めた頃――。


 一条雅也から連絡が入った。


 仕事終わりに、飲みに行こうという誘い。


 彼なら、話を聞いてくれるかもしれない。

 真琴は、静かに息をつき、承諾した。




 夜。

 二人は庶民的な居酒屋にいた。


「イベント成功、おめでとう。乾杯」


 グラスを合わせる。


「大企業の社長が、こんな店でいいの?」


「こういうとこが落ち着くんだよ」


 変わらない雅也に、真琴は自然と笑みを浮かべた。


 ――真吾は、変わってしまったんだよね。


 イベントのトラブルの話をすると、雅也は静かに聞いていた。


「分かった。こっちで調べてみる」


「ありがとう……」


 少しだけ、胸が軽くなった。


 だが、確実に何かが動き始めている。

 それを、真琴はまだ知らない。



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