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Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


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11/20

ひとつの夜を越えて。

 

 会場の準備はすべて整った。

 残る作業は、来場者に配るノベルティのラッピングだけだ。


 気づけば空はすっかり暗くなり、会場内には照明の白い光だけが残っている。

 その中で、チームの面々は言葉少なに、黙々と手を動かしていた。


「こんな時間までごめんなさい。もし予定がある人は、無理しなくていいからね。遠慮なく言って」


 真琴の気遣いに、すぐ返事が返ってくる。


「全然大丈夫ですよ。どうせ帰ってもゲームしてダラダラするだけですし。それに、みんなで作業するの、結構楽しいです」

「私もです! 明日のイベント、絶対成功させたいですし」


 疲れを感じさせない笑顔に、真琴の胸がじんと温かくなる。


「みんな……ありがとう。よし! 大成功させて、終わったら美味しいビール飲みに行きましょう!」

「よっしゃー!」


 一斉に上がる拳と声。

 真琴は胸の奥が熱くなるのを感じていた。


 ――ありがとう、みんな。

 ――本当に、いいチームだ。


「それにしても、さすが神崎さんですね。これだけの数を集めるなんて。正直、もうダメかもって少し諦めてました」

「まあ……なんとか、ね」


 苦笑しながら答えつつ、真琴の胸に小さな痛みが走る。


 本当は、私じゃない。

 最後まで集めきれなかったのは、私だ。


 すべて久遠のおかげ。

 けれど、本人が「言わないでほしい」と言っている以上、それは口にできない。


 自分の手柄のように受け取られてしまうことが、少しだけ心苦しかった。


 ふと、斜め前で作業していた久遠と目が合う。

 彼は、いつものように柔らかく微笑んだ。


 ――ああ、この目と笑顔は「言うな」って言ってるよね。


 真琴は小さく苦笑し、再び手元に視線を戻した。






 早朝五時。


 ラッピング作業は少し前に終わり、睡魔に負けてその場で眠ってしまう者、タクシーで帰る者と、皆それぞれだった。


「みんな、本当にありがとう。開始までまだ少し時間があるから、一旦帰って休みましょう」


 真琴の言葉に、チームは会場を後にする。


 最後に残ったのは、久遠郁人だった。


「久遠くん。本当にありがとう。あなたがいなかったら、どうなっていたか……本当に助かりました」


 真琴はそう言って、深く頭を下げた。


 自分より立場が上の人間が、ここまで丁寧に頭を下げる。

 久遠は少し驚いた表情を浮かべながら答えた。


「いえ……正直に言うと、僕の力というより父のおかげです。僕はお願いしただけで」

「それでも……」


 真琴は顔を上げ、まっすぐ久遠を見つめる。


「久遠くんがいなければ、ここまで揃わなかった。本当に感謝しています」


 再び、深く一礼する。


「や、やめてください。頭を上げてください」


 慌てた様子で久遠が言う。


「皆さんが頑張っている企画を、僕も成功させたかったんです。少しでも役に立ててよかったです。それに……黙っていてくださって、ありがとうございました」


 きっと、聞かれたくない事情があるのだろう。

 彼が語らないのなら、それ以上踏み込まない。


「遅くまでお疲れさま。始まったらまた忙しくなるから、少しでも休んでね」

「はい」


 久遠の背中を見送り、真琴も会場を後にした。


 ――ほっとした途端、どっと疲れが押し寄せる。


 シャワーを浴びて、少しだけ眠ろう。





 イベント開始一時間半前。


 真琴はすでに会場にいた。

 空を見上げると、眩しいほどの朝日が差し込んでいる。


 ――雲ひとつない、いい天気。


 たくさんの人が来てくれますように。

 このイベントが、無事に成功しますように。


 開始前の最終チェックで、真琴は各ブースを回る。

 来場者が笑顔で帰れるように、細部まで目を配る。


 イベント前特有の緊張感。

 疲れているはずなのに、頭は冴えていた。


「神崎主任、早いですね」


 振り返ると、久遠が立っていた。


「久遠くんこそ。始まってから来ればよかったのに。何か忘れ物?」

「いえ……ちょっと落ち着かなくて」


 真琴は思わず笑う。


「久遠くんでも、そんなことあるんだ。いつも余裕そうなのに」

「僕だって人間ですから。緊張もしますよ」


 その言い方がおかしくて、真琴は声を立てて笑ってしまった。


「神崎主任……!」


 久遠の耳が真っ赤になる。


「ごめんごめん。でも、なんだか安心したの」

 少しむっとした表情の久遠。


 こうして見ると、普通の男の子だ。

 いつも感情を崩さない彼の、素直な反応。


 ……可愛い。


 これが母性本能というものなのだろうか。


「一緒に回る? 最終確認してるところなの」

「はい」


 また、いつもの表情に戻る久遠。


 人当たりがよく、落ち着きがあって、隙がない。

 けれど、それは仮面のようにも見えた。


 完璧であろうとすることで、他人を遠ざけているような――。


 女子社員の間で「王子様」と呼ばれている理由も、分かる気がする。

 けれど、本当の彼は、どんな人なのだろう。


「……どうかしました?」

 じっと見ていたことに気づかれたらしい。


「ううん。まつ毛、長いなぁって思って」


 とっさに出た言葉だったが、事実でもある。


「……あんまり、じろじろ見ないでください」


 少し照れた様子の久遠。


 やっぱり――可愛い。


 褒められることには慣れていそうなのに、こういう反応をするところが意外だった。


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