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Office love♡私、2人に守られすぎてます!  作者: 亜久美 圭


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裏切りの結婚式。

「おめでとう!」

「相澤さん!橘さん!結婚おめでとう!」


 祝福の声が、幾重にも重なって会場を満たす。

 純白のドレスとタキシードに身を包んだ新郎新婦は、壇上で並び立ち、互いを見つめ合いながら幸福そのものの笑みを浮かべていた。


 相澤真吾あいざわしんご橘愛美たちばなまなみ。その結婚式である。


 拍手の輪の外で、神崎真琴(かんざきまこと)は二人を見つめていた。

 胸の奥に沈んだ感情は、拍手の音にかき消されることなく、静かに、しかし確かに疼いている。


 当然だ。

 新郎の相澤真吾は、つい半年前まで、真琴の恋人だったのだから。


 それもそのはず、新郎である相澤真吾とは大学時代からつい最近まで付き合っていた。


 大学時代から付き合い始め、奇跡的に同じ会社に就職し、交際はそのまま続いていた。

 順調だと思っていた。少なくとも真琴はそう信じていた。


 あの日までは―。


 半年前。

 仕事帰りに真吾の家へ立ち寄ったとき、玄関には見慣れない女性ものの靴があった。

 リビングへ続く廊下には、無造作に脱ぎ捨てられた衣服。


 全身の血の気が、音を立てて引いていくのが分かった。


 扉の向こうから、微かに男女の声が漏れてくる。


「真吾さん……好き」

「俺も、愛美のことが大好きだよ」

「嬉しい……ありがとう」


 甘く、どこか聞き覚えのある声。

 震える指で、真琴はリビングの扉に手をかけた。


 ——扉を開けた瞬間、全身が凍りついた。


 ソファに寄り添う二人。

 下着姿で体を預ける橘愛美(たちばなまなみ)と、上半身をあらわにした相澤真吾。

 絡めた腕、重ねられた唇。


 相手の女性は、よく知っている。

 毎日顔を合わせる、会社の受付嬢——橘愛美だった。


 何が起きているのか、理解が追いつかない。

 思考が止まり、ただ視界だけが異様に鮮明だった。


 どうして……。

 なんで…。


 その後は、ありふれた修羅場だった。


 真琴に気づいた愛美は、真吾のシャツで胸元を隠しながら、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめんなさい……。お二人が付き合っているのは知っていました。でも……好きになってしまって」


 次の瞬間、真吾が怒鳴った。

「今日は来ないって言っただろ!なんで来るんだよ!」


「……仕事が、早く終わったから……」


 口をついて出た言葉に、自分でも違和感を覚えた。

 そんなことは、どうでもよかった。


「真吾……なんで?この子、会社の受付の……」


 震える声で絞り出す。


「お前が女らしくないからだろ!」

 真吾は吐き捨てるように言った。

「愛美を見てみろよ。可愛くて、女の子らしくて……お前もああやって甘えてみろよ!」


 なぜ裏切った側がこんなにも強気なのか。

 なぜ責められるのが自分なのか。


「お前は一人でなんでもできるだろ?でも愛美は違う。誰かが側にいなきゃダメなんだ!」


 ——その“誰か”が、どうして真吾じゃなきゃいけなの。


「俺は家政婦が欲しいわけじゃない!可愛くて、俺の言うことを聞く女がいいんだ!」


 忙しい彼を気遣って、身の回りのことをしてきた。

 それが、家政婦だって言うの?


「俺は愛美が好きだ。お前とは終わりだ」


「……真吾さん」


 愛美は頬を赤らめ、うっとりした表情で真吾を見つめていた。


 なぜ私は長年一緒にいた人から、目の前で別の女性への愛を告げられなければならないのだろう。


「……分かった。別れましょう」


 それ以上、言葉は出てこなかった。

 知ってしまった。見てしまった。

 もう、元には戻れない。



 後から聞いた話では、二人はその半年前から関係を持っていたらしい。

 しかも隠すことなく、真吾は周囲に自慢していたという。


 若くて可愛い、男性人気ナンバーワンの受付嬢と付き合っている——と。


 悔しかった。悲しかった。

 奪われたことよりも、女として否定されたことが、何より堪えた。


 大学時代、恋愛に興味のなかった真琴に、真吾は何度も告白した。

 優しくしてくれて、こんなにも自分を想ってくれる人は他にいないと思った。


 ——あの言葉は、どこへ消えたのだろう。


 同じ会社に就職してからも、交際は続いた。

 休みの日には彼の家へ行き、掃除や洗濯、食事の支度をした。

 忙しい彼を気遣い、体調を考え、できることは何でもした。


 それが、家政婦?


 十年近い時間を、彼だけを見て過ごしてきた。

 結婚する未来を、疑いもしなかった。


 私は、一体何だったのだろう……。




 拍手が鳴り響く。

 歓喜に包まれた空間が、なおさら真琴の胸を締めつけた。


 とりあえず、笑顔で。

 拍手を送りながら。


 その隣で、長年の同僚であり親友が、唇を噛みしめている。

「……絶対許せない。いつかバチが当たるよ。こんな幸せ、認めない」


 自分のために怒ってくれる存在が、今はただありがたかった。


 ——早く、この式が終わってほしい。




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