魔力切れ
《sideファルたち》
ファルの目の前でフリークが突然倒れた。突然のことにファルは状況が飲み込めない。
「……フリーク?どうしたの?」
急にフリークが倒れて、ファルは動揺してしまう。座り込み、フリークを揺さぶるが意識は戻らなかった。
「フリーク!? ねぇ、どうしたの!?ねぇってば!」
何度揺さぶっても、フリークは目を開けない。ファルの目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「フリーク! おきて! ねぇ、おきてよっ!」
ファルの部屋の方で大声をするのがリビングで話をしていた四人の耳に聞こえた。何事かと思い、リートとアレックが様子を見に行くことにした。
ファルの部屋の扉を開けると、そこには倒れたフリークと、その腹部に顔を埋め、しがみついて泣いているファルが目に入った
その光景に二人は思わず動揺するが、それは一瞬のこと。すぐにフリークに近づき、アレックは耳をフリークの顔に近づけ、息があるかを確かめる。リートはファルに何があったのかを聞くために、ファルを落ち着かせようとする。
「ファル、一回落ち着け。何があったんだ?」
聞いても、ファルは泣きじゃくって答えない。フリークが無事かどうかを確かめるために、リートはアレックに聞く。
「フリークはどうだった? ……無事か?」
アレックは悩んだ感じの顔をしながら答える。
「ああ、おそらく大丈夫だ。息はあるんだが、何でこうなったのかはわからない。一応考えられるのは、魔力切れ、技能の使用による強制睡眠、あるいは気絶の三つくらいだ。どれかはファルに聞いてみるしかない」
それを聞いたリートはファルの頭を撫でながら、「フリーク、おきてよぉ……おきてよぉ……」と何度も言っているファルに話しかける。
「ファル、フリークは無事だってよ」
その声を聞いて、ようやく泣きじゃくってひどい顔をして顔を上げ、ファルは答える。
「じゃあ、フリークはなんでおきないの?」
「今はちょっと寝てるだけだ。すぐに起きるさ。パパが今まで嘘ついたことあったか?」
「あったじゃん。……でも、いまはしんじる」
「そうか、大丈夫。フリークは絶対無事だ。アレック、どうする?うちで寝かしておくか?」
「そうだな。一応心配だし、悪いがここで寝かしてもらってもいいか?」
「おう!もうちろんだ。気にすんなよ」
フリークをリートの部屋に運んで、ベッドで寝かせる。そして、ファルも含めた三人はエルとリアのいるリビングに戻る。泣いていたであろうファルを見て、リアはファルに慌てて近づく。
「ファル、大丈夫? リート、ファルに何があったの?」
「フリークが倒れてしまってな。一応、」
リートの言葉の途中で、エルが大声で口を挟む。
「そんな!どうして! あ、ご、ごめんなさい……。取り乱してしまったわ。も、もちろん無事だったのよね?」
それにアレックが答える。
「ああ、もちろんだ。今はリートの部屋で寝かしてる。何でかはわからないから、ファルの話を聞こうと思ってたところだ」
「そ、そう、それならよかったわ」
一旦落ち着いて、みんな席に着く。そして、ファルの話を聞くことにした。
「えっとね、フリークがぎのうをつかったら、あたまいたいっていって、そのままおきなくなっちゃたの」
それにリートが返す。
「技能を?どんな技能って言ってたんだ?」
「たしか……ゆっくりになるやつと、二つになるやつだよ」
それにアレックが驚きながら返す。
「二つもあるのか。ゆっくりになるやつっていうのはフリークの動きが遅くなってた?」
「ちがうよ。いつもといっしょだった」
「なるほど。二つになるやつっていうのはどういうこと?」
「うーん、たぶん、二こべつべつにかんがえられるっていってたよ」
リートが自分の考えを話す。
「頭痛が原因か?それとも、これが原因か?二個別々に考えるってことは、思考を同時に二個行うってことだろ?脳にかなりの負荷がかかりそうじゃないか?」
それにエルが答える。
「確かに技能のせいである可能性はあるわね。頭痛は技能の副作用か何かだと考えるべきだと思うわ。それだったら、一応回復魔法をかけたほうがよさそうね」
それにアレックが答える。
「そうだね。何かがあってからでは不味いだろうし。エル、お願いできる?」
「ええ、もちろんやるわ」
大人数で行っても部屋が狭くなるだけなので、アレックとエルの二人でフリークのところに向かった。
部屋に着くと、エルは一応フリークの体を自分でも調べて、問題がないことを確認してから、手を前にかざして目を瞑り、集中する。
「じゃあ、始めるわね。
『我らが神に請願す。天の高みより光を垂れ給ひて、苦しみ惑ふ者に安らぎを賜へ。
血は止まり、痛みは静まり、折れし骨はもとのかたちに戻らん。
いまし御声は雷のごとく、されど慈しみは泉のごとし。
あまねく大慈大悲をもて、われらが身を清め、魂を癒し、あらゆる傷を拭ひ去り給へ。
その御名の下に、健やかさここに復す。』【天恩大慈】」
詠唱が終わり、魔法を発動した瞬間、温かく柔らかい光がフリークを包む。その光の神々しさはまさしく神が慈悲を与えているようだ。
やがて、光が落ち着くとエルは目を開ける。
「全然魔力を消費しなかったわ。だから、酷い怪我をしているってことは確実にないわね」
「そうか……。じゃあ、魔力切れか?魔力を消耗する技能ってことか」
「その可能性が高いわね。はぁ〜、ひとまずホッとしたわ〜」
「僕もフリークが無事でホッとしたよ」
「みんなの方に戻りましょうか」
「そうだね。戻ろう」
そうして二人は、「じゃあね、フリーク」といって、それぞれフリークの頬にキスをして部屋から出ていく。
部屋から出ていった二人はリートとリアにも、フリークは魔力切れであろうということを伝えて、一同はやっと落ち着くのであった。ちなみに、ファルは泣きつかれたのか、リアの膝の上で静かに寝息を立てていた。
《sideフリーク》
顔に差し込む光を感じて、ゆっくりと目を開ける。
「ここは……知らない天井だ」
これこれ!ずっとやってみたかったやつ!今までこんなシチュエーションなかったからできなかったけど、やれてよかった〜!人生で一度はやってみたいことだよな。いや〜満足満足!
というか、そんなことよりも何で気絶したかが気がかりだな。情報量のあまりの多さに、脳が耐えきれなくなって気絶したのか?それが一番自然だよな。魔力切れはないだろうし、他の原因は……思いつかないな。とりあえず、脳のキャパオーバーで結論付けとくか。
ところで、本当にここはどこだ?多分、誰かの部屋ではあるんだろうけど。外を確認するために、ベッドから起き上がり、ドアの方に向かう。ドアを開けようと、ノブに手を伸ばし扉を引く。
すると、寝起きなのかすごく眠たそうに目を擦ってるファルがちょうど、前を通り過ぎるところだった。




