スタンピード
いつものように起きて、ごはんを食べて、鍛錬をする。そんな平和な日々は突然壊される。
朝が過ぎ、そろそろ昼時になろうかという頃、カンカンカンカンと何か金属を叩くような音が街全体に響き渡る。
この音が何を表すのかを知る大半の人々は不安を抱きながらもすぐに街の中心の方に避難に移る。
一方、フリークは何が起きているのかを理解ができなかった。丁度、いつものように師匠の元に稽古をつけてもらおうと向かっていたところだった。緊急事態の時に鳴るアラートを連想させるような音から何か危険なことがあったのだろうということは予想できるが、その真偽も詳細も不明だ。
ついてくるなと言ったのに稽古についてきたファルも横で何が起きているのかわからず困惑している。
周りにいる人たちは『街の中心に向かって走れ!!』と叫んでいる。
状況は飲み込めないがとりあえずファルの手を引きながら俺も街の中心に向かって走る。
しばらく走っていると、突然目の前の景色が変わる。
あぁ、またか……。
◆
目の前には地獄が広がっていた。ゴブリンやウォーグ、オークに熊みたいな魔物のフォレストベア。
ありとあらゆる魔物が大量にこちらに向かってくる。
俺の目の前には一本の真剣。
まさにご都合主義によって揃えられたような状況。もしかしたら、誰かが俺にこの魔物たちを倒してみろ言っているのかもしれないな。
覚悟なんてできていない。突然こんなところに連れてこられてできるはずがない。でも、行動しなければ、戦わなければ死ぬ。
それに、横にいるファルはわけも分からず錯乱しているらしい。無理もない。俺とは違ってただの子供だ。こんな状況で冷静になれるわけがない。
だったら、俺が守るしかない。魔物は今もなおこちらに向かってきている。止まる気配はない。俺がどれだけやれるかなんてわからない。ただ、俺の持てる全ての力を使って戦えばいい。
深呼吸をして、剣を構える。この魔物の量からして結界を使ったところで数秒しか持たない。だったら魔力消費のあまり多くない身体強化とスキルの【思考加速】と【並列思考】を使って戦おう。ここで魔力切れになるのは一番マズイ。もちろん俺もバカじゃないから二度も同じ敗北を繰り返さないよう魔力切れ対策を作ってはいるが、それはそこまで効果が期待できないからな。
まずは、消費少なめで戦う。
俺の服の袖を掴んでいるファルの手を引き剥がす。ファルには悪いが戦わなければならないからな。
大地を蹴り、俺は自身を加速させる。守りはあんまり得意じゃないからな、攻める。
剣を振る。まずは先頭にいるゴブリンの頭を斬り飛ばす。と同時にもう一つの思考で火球を放ち、正面以外のゴブリンに当てる。火球一つで殺しきれはしないが致命傷くらいは与えられる。
剣を振る。思いっきり速度を乗せたその剣はウォーグの首をはねる。もちろん同時並行で火球を何度も放ち、雑魚の処理をする手は休めない。
ウォーグはゴブリンよりも強い魔物だ。テレビでしか見たことがない狼のような四足歩行の体に、俺の体を簡単に引き裂けそうな鋭い鉤爪。それに、何でも噛み砕いてしまいそうな大きな顎を持っている。
ゴブリンとは違って火球一つで止めることはできず、他の魔法を使えば魔力消費も激しくなってくる。だから、まずは剣で倒せるだけ倒す。危なくなったら魔法を使えばいい。
横から一匹俺に向かって噛みつこうと飛びかかってくるのを、前に体を転がして避ける。そしてすぐに起き上がってそのウォーグに方に駆ける。ウォーグの方もすぐにこちらに向かって引っ掻くような形で飛びかかってくるが体を捻ってそのまま下から上へ首をはねる。
ウォーグたちはゴブリンと同じく知恵がないのか、統一的に行動をしないので後はただ同じような形でひたすらに倒していく。
斬って、避けて、斬って、避けてを繰り返してウォーグの首を一匹ずつはねていく。しかし、身体強化を使ってはいるがこんだけ動くとさすがに疲れる。
そろそろファルが戦ってくれるといいんだけど……。
俺はそんなことに気を取られて後ろから襲いかかってくるウォーグに気づくのが遅れた。マズイと思った時には既に間に合わないと思ったが、
「『──眠れ』【氷寂】」
という声が聞こえるのとほぼ同時に俺を背後から襲ったウォーグは氷の結晶となった。
俺はその魔法の相変わらずの強さから安心して、思わず緊張が緩んでしまう。
俺は剣でウォーグを斬りながらファルに質問を投げかける。
「もう大丈夫なのか?」
距離がほどほどにあるので大きめの声で聞くと、ファルも同じぐらいの声量で返してくる。
「うん!守ってくれてありがとうね!落ち着いたから、私も戦うよ!」
「そうか!じゃあ、俺のバックアップできるか?」
「もちろん!任せて!」
そこからはかなりスムーズになった。俺が敵を後ろに行かせないように足止めをして、ファルがトドメを刺すというサイクルの繰り返しでほとんどのゴブリンとウォーグは片付いた。
だが、今俺たちは別の敵に手をこまねいている。この前の学院に行った際に知ったオークだ。
オークは低く広がった特徴的な鼻に、口元からは突き出た牙を持つ。そして、体格もまさに巨躯というに相応しいもので、三メートルを超える身長に、太い腕や厚い胸板を持っている。
体の色は土褐色で、腰のあたりにズボン代わりか獣の皮のようなものを履いている。
こいつの厄介な所は、その巨躯を活かしたパワフルな攻撃と半端な攻撃では傷をつけられない硬い肌だ。
まともに剣で攻撃を受けようものならばすぐにでも折れるだろうということは直感で理解できる。それに試しに火球を一つ放ってみたが、一ミリも肌に傷をつけられていない。
オークはウォーグよりは数は少ないが複数体いる。だが、同時に二体や三体を相手にするのはさすがに厳しい。オーク同士と距離は幸いなことに離れているから一体ずつ倒していこう。
「ファル!めんどくさい相手だが、一体ずつやっていくぞ!」
「わかった!一緒に頑張ろう!」
「おう!」
俺はその言葉を言うのと同時に思いきり踏み込む。とにかくこいつの弱点を見つける。学院の図書室で読んだ『魔物図鑑』ではオークの弱点はその大きい体格ゆえの隙だと書いてあった。知能があまりないので大振りな攻撃しかせず、空振りさせれば大きた隙となるらしい。
もちろんそれは理解できるんだが、いかんせん俺とこいつにはかなりの力の差があるだろうからその弱点が上手くつけるかは怪しい。だから、ひとまずはいろんな攻撃をして俺が突きやすい弱点を探る必要がある。
出し惜しみを止めて、致命傷を避けるために結界を使いながらも俺が近接をファルが遠距離でひたすらに攻撃をするか。
オークは自信が持つ棍棒のような武器を大振りで横に振る。俺はバックステップで避けたが、結界を攻撃の当たる位置に出し、どのくらい使えるかを確かめると、攻撃を防ぐこともできずに砕かれる。この様子だと攻撃をそらすのに少し役に立つくらいしかできないな。
オークが大振りの代償から体勢を崩しているうちに、再びオークに向かって駆け、横振りを加える。うまく入ったからか、大したダメージにはなってないだろうが、傷はつけられた。
オークはまたも同じく横振りをしてきたので、避けることに加えて急いで後ろに回り込んでオークの後頭部を蹴る。後頭部に打撃を与えるのが目的だったから剣じゃなくて足を使ったが、かなりの硬さに足が痺れた。
しかし、俺は逆に足にダメージを受けたのにオークは何も動じている様子はない。本当に何も感じなかったのか、ただ知能が足りないだけなのかはわからないがこれは却下だな。
その後も何回か攻撃をしてみたが、近接では地道にダメージを蓄積させるくらいしかなさそうだ。じゃあ、ファルにパスするか。
俺が「ファル!交代!」と言うと、今度はファルの魔法攻撃に移る。俺がひたすらに防御に徹して、ファルが魔法をひたすらに放つ。氷刃、風刃、雷刃、炎刃。ありとあらゆる属性の刃を使う。刃系の魔法は俺たちが現状使える最強の魔法だ。これらの魔法は先程の近接よりは効いたらしく、オークがふらついている。
なるほど、魔法が有効だな。最後にアレを使ってみるか。俺はファルの話を聞いて思いついていた攻撃をしてみる。
一旦オークと距離を取って、もう一度オークに向かって駆けていく。オークの縦振りを横に跳んで避け、背後に回りオークの首に向かって剣を振り下ろす。
そして──
「『大地の風は俺の剣を包む。その強く激しい風はこの覚悟の烈火をさらに強くする。さあ、斬ろう、風を乗せて──』【追い風・剣】」
と唱え、己の剣速を上げ、そして硬いオークの首を斬り飛ばした。
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