リハビリ
《side フリーク》
自分が生きていることにしばらく唖然としていたが、とりあえず誰かに話を聞こうと思ってベッドから立ち上がろうとすると、自分の左腕がギプスみたいな感じで布でぐるぐる巻きにされていることに気づく。
この世界の医療技術というか治療の仕方は地球に似ている。シンプルにこの方法が生まれたのか、地球人のおかげなのかはわからないが、地球の治療法と似てるなら安心できる。
片手が使えないことに違和感を抱きつつも、ベッドから降りたが立とうとした時に少しふらついてしまった。
そして、「俺」が何者だったのかと考えながら、ドアをあけリビングに向かう。
何か物音がしたのでリビングに隣り合っているキッチンを見る。
キッチンには洗い物をしている母がいた。母は俺の気配に気づいたのか、こちらに視線を向ける。俺がいるのがわかるとすぐに手を止め、濡れている手も拭かずに俺を抱きしめてきた。うーん、既視感。
こういう時は母が満足するまで放っておくのが最善なので、何もせず立っておく。
しばらくして母は抱きしめるのを止めて、俺の両肩に手を置くと優しい声で話しかけてくる。
「おはよう。大丈夫?何か変なところはない?」
「おはよう。うん、大丈夫だよ」
「そう、それなら良かったわ。洗い物ちゃっちゃと終わらせて、朝ごはん作るから少し待っててね」
「うん。じゃあ、少しだけ外出てくる」
俺はそれ以上話をせず、庭に出る。
なんか母さんこれ以上話すとヤバそうだったから、とりあえず外出てみたけどどうしようか。
まぁ、あからさまに筋力が落ちているのは実感しているから、軽いストレッチでもするか。
ストレッチをしながら、少し考える。
さっきも考えてたけど、まず「俺」について。
俺を森の中に移動させたのは十中八九あいつかあいつの仲間だろう。そして、父やリートがわかったかはわからないが、少なくとも俺は移動させられた時に魔法を受けたのを認識していた。おそらくそれは転移魔法。あらゆる異世界で最強とされてきた魔法だ。
この世界に来てから転移魔法があるということは聞いたことがなかった。もちろん俺が生み出そうと思ったこともあったが、失敗して体がぐちゃぐちゃになんてことになったら洒落にならない。
魔法で死ぬなら本望ではあるけど、家族に迷惑かけるのは嫌だし、あの戦いの時のポーションとは違って転移魔法は死ぬ確率がかなり高い気がしたからな。ある程度安全性が担保されるくらいに魔法を極めてからじゃないとさすがに厳しい。
でも、そんな転移魔法を使ったやつがいるということは相手は相当な強者だ。父よりも強いと考えた方がいいだろう。
それと、「俺」はスキルか魔法かで何者かが俺を装っていたと考えるのが自然だ。
俺が酸化点火で攻撃した時のあの反撃には明確な怒りのこもった殺意があった。あれは生者にしか出せない雰囲気だった。となれば、あいつは遠隔で操作された人形とかではないだろう。
このことから、あいつ自体の実力は大したことがないと考察できる。あいつが転移魔法を使えるくらいの圧倒的な強者なら、俺に殺意を抱くことなんてないだろうからな。
いや……魔法じゃなくてもスキルで転移ができる可能性があるのか?そう考えるとあいつ一人で全てやったと考えても不自然ではない。転移がスキルとかチート過ぎるけどな。
次はなんで俺が生きて帰れたのかだな。そう考えていると、母が庭に顔を出して来た。
「フリーク、ご飯できたわよ」
「わかった。すぐ行く」
考えるのを中断し、家の中に戻る。手を洗って席に着く。料理はいつものようにポタージュと黒パンだ。黒パンは硬いけどポタージュにつけると少しふやけるし、味が染みて美味しいんだよ。この世界では魔法が使えるからパンも結構頻繁に焼かれるから、そのままでも食べられるんだけどな。
少し時間を置いて気持ちが抑えられたのか、母が明るく話しかけてくる。
「どうだった?少し運動してみて」
「う〜ん、大分筋力が落ちてたよ。俺どのくらい寝てたの?」
「フリークは見つかってから3日間も寝てたのよ」
「3日も!?」
それは結構な寝坊だな。
「えぇ……ほんと、お寝坊さんなんだから」
あ、ハモった。
「……心配かけてごめんなさい」
「いいのよ。フリークが無事で良かったわ」
なんか感動的な感じになってるけど、普通になんで俺が生きてたのか聞きたいな。まぁ子供だし、無神経に話を変えてもいいか。
「ところでさ、俺ってどうなってたの?」
「そうよ!フリーク、どうしてあんな傷だらけで倒れていたの?強い魔物とかと戦っていたの?」
どこまで言おうか。戦闘の詳細は誤魔化して他は全部教えたほうがいろんな人から情報は取れるか。じゃあ、そうするか。
俺は戦闘の詳細は嘘をついて事の経緯を母に詳しく話した。
母は興味深そうに、そして驚きながら話を聞いていた。
「なるほどね……それはすごい経験ね。正直、私はそんなことは聞いたことないからお父さんに聞いてみるしかないわね。帰ってきたら聞いてみましょう」
「うん、そうする。」
「この後はどうするの?いつもファルちゃんが心配して来てくれていたから、お礼は言っておいてね」
「そうなんだ。どんくらいにファル来るかな?」
「いつもお昼ご飯食べ終わってきてから来てたから、あと数時間したら来ると思うわよ」
「おっけー。じゃあ、それまでは庭で素振りとかしてるよ。落ちた筋力もさっさと取り戻したいからね」
「わかったわ。あまり無理はしないでね」
俺が止めてもやめないのを知っているから、こんなことを言うんだろうな。よく自分の子供をわかっている人だ。
「うん、わかった!」
部屋に木剣を取りに戻ってから、また俺は庭に出た。
俺は基本的に両手剣を使うから、木剣もそれに合わせて重めのものにしている。だから、片手で持つには少し重い。
剣を持つために身体強化の魔法を唱える。これで楽に片手で剣が扱える。
ひとまず、正面に敵をイメージしながら、剣を構える。はたから見れば、片手を包帯でぐるぐる巻にしている人が剣を構えている滑稽な光景だけど、そんなことは気にしない。
最初は今できる全力で剣を振る。やはり全然力が入らない。
ある程度振って汗をかいてきたところで一旦休憩する。魔法で水を出して飲む。乾いたのどを水が潤す。いやー、美味いな。魔法の水って好きに温度も調節できるからいつでも冷たい水が飲めてマジで便利。
休憩が終わったら、次は【思考加速】と【並列思考】を発動する。
詳しくは教えてもらえなかったけど、魔力は筋肉みたいに使えば使うほど総量が増えるからスキルで魔力を使うのはよくする。
もちろん、魔力切れにする必要はない。魔力をある程度使うだけでいい。
スキルを使いながらまた考える。すっかり俺がどうして生きてたのかを聞きそびれたけど、あの母の発言からして俺は普通に傷だらけで気絶していたんだろう。
つまり、「俺」は俺のことを殺さなかったということになる。これはかなり不可解だ。殺意まで向けるようなやつが俺を殺さずに逃げるなんてことがありえるのだろうか。
それこそ、転移させたやつがあいつの他にいて、そいつの命令で殺さなかったとかしか思いつかないよな。
正直、納得のいかないことも多いけど今はリハビリを続けていくしかないか。




