発見
《side ファルたち》
深い森を駆けていく──遭遇する怪物は皆氷漬けにして。
その少女らしく可憐な容貌とは裏腹にその行動は凄まじく残忍で強烈。
怪物たちは怪物らしい行動をする暇もなく処理されていく。まさにそれは蹂躙と呼ぶのに相応しい光景。
しかし、ファルは怪物を処理しながら、この森が何か妙だと感じる。
森の奥に進んでいるはずなのに両親たちが言うほど怪物たちが強くないのだ。新しい魔法を生み出していることを知らなかったとは言え、両親たちが自分の力量をそれほど見誤っているとは考えていない。
多少誇張して言っていたのかも知れないが、それでも危険であるという言葉に嘘はないだろう。
つまり、本来ならもっとこの森にいる怪物たちは強いはずなのに、今はなぜか弱くなっているという予測が立つ。
何か強大な怪物がいるのか、それとも別の何かか。
どちらにせよ警戒を強めとこうとファルは冷静に考えるのだった。
◆
ファルを追いかけてていたものの、ファルが創ったであろう新魔法によって距離を離されて追いかけるのを諦めたリートが悔しそうにアレックたちの元に戻ってきた。
リートはアレックを見て先程のことについて問う。
「なぁ、アレック。ありゃ確か風属性か何かの【アクセル】だろ?お前がファルに教えたのか?」
リートのその言葉にアレックとエルは驚く。
「おい、リート。お前はアレが何の魔法なのか知ってるのか?」
「あ?お前知らねぇのか。アレだよアレ、帝国の魔法だ」
「なるほど、帝国のか……」
アレックは帝国に良い印象がないのか微妙そうな顔をする。
「ホントに知らねぇんだな。じゃあ、アレ教えたのは誰だ?」
「私たちではないから、あり得るならラスティエルさんくらいだけど……」
エルはアレックとリートに尋ねる感じで言う。
「いや、そんな話は聞いたことがないな。そもそもラスティエルは魔法をそんなに使えないからな」
アレックは首を振ってそれに答える。
「そう……。じゃあ、元々あったけどファルちゃんが同じのを創ったって言うのはあり得るかしら?」
エルのその言葉にリートは驚き否定する。
「は?さすがにそれはねぇだろ。ファルも確かに強えが魔法を創るって言うのは生半可なことじゃねぇだろ。それはマリエルも知ってるだろ?」
「それはそうだけど……」
「いや、リート。エルの言っていることが一番あり得る」
「は、はぁ?お前マジで言ってんのか?」
「あぁ、受け入れがたいかもしれないがな」
「受け入れがたいなんてものじゃねぇだろ!俺の自慢の娘であるのは確かだが、たかだか十歳程度のガキに俺が負けたってことになるんだろ!そんなんあってたまるかよ!!」
新しい魔法を創るというのは魔法使いにとって最も誉れ高いことだ。それが既にあった魔法だとしても、それを知らずに創っていたのならばそれは新たに創ったことにほぼ等しい。
それを魔法を五年しか触ってないような子供がなす。リートにはとても受け入れがたいことだった──いや、受け入れたくなかった。
もちろん、ファルはリートの自慢の娘だ。とても可愛いし、ファルのためならなんだってしてみせるという気持ちがある。しかし、それは父としての気持ちだ。
一人の魔法使いとしてはそれはとても屈辱的なことだ。リートは自分の約三十年間の人生の大半を魔法に注ぎ込んできた。
そんな自分でも成せていない新魔法の創造をたかだか数年しか魔法を学んでいない人間が成した。
リートには自分の魔法に対する自負、自身があった。俺は絶対に魔法を創れる人間だという。表には絶対に出さないけれど、アレックがほぼ新魔法に近いことを成していると聞いた時も内心すごく悔しい思いをした。
俺だって類稀な才能があり、たゆまぬ努力をしてきたのにと。
実際、客観的に見てもリートの炎魔法に対する才能は凄まじいものだ。しかし、新魔法を創るのには及ばなかった。
なのに、なのに、なのに、なのに!!ファルは魔法を創ったという。何故だ!!確かにファルの才能は突出したものだ。でも、でも!!納得がいかない。父親が我が子に嫉妬することがあまりいいことではないことは理解している。しかし、秀でた才能の前には努力はこんなにも無意味なのか……。
唇を悔しそうに噛みしめるリートを見てアレックは少し同情する。実のところ、アレックだって目の前のことを信じたくない。なぜなら、アレックもリートと同様にファルという魔法使いに嫉妬していたからだ。エルは生粋の魔法使いではないから、こんなことは思わないだろうが、人生を魔法に捧げてきた魔法使いならば嫉妬せざるを得ない光景だった。
でも、その気持ちで悩んでる暇なんてない。事態はどんどん悪くなっていく。森の中には強力な怪物が大量にいる。いくらファルが強いとは言え、戦いにならない相手だっている。最悪なパターンはどちらも死ぬことだ。その可能性はゼロではない。今はその最悪が訪れる確率を少しでも下げるために、行動することが先決だ。
「リート。悔しいのは俺もよくわかる。でも、そんなんで二人が助けられると思っているのか?二人が危なくなる前に行動するべきだ。違うか?」
その言葉にリートはハッとする。
「そ、そうだな。よし、二人を探しに行こう」
そのリートの言葉に三人は頷き、魔の森へと足を進めるのだった。
魔の森の中に入ってしばらく奥に進むと、アレックとリートは明らかな異常事態に気づいた。
「おい、アレック。気づいたか?」
「リートも気づいたか」
「あぁ、モンスターが弱すぎる。数もすくねぇしな」
「数はおそらくファルがやったんだろう。だが、弱いのはそれとは別だ。何かしらの異常が起きている可能性が高い」
「よし、魔法の使用は抑えとくか。何が起こってもいいよう、魔力を温存しとかなきゃなんねぇからな」
「そうだな。最小限の魔力で進もう」
大人四人は森をさらに深く進んでいく。
◆
ファルは強力な魔法の使用を感じた。そして、すぐにそちらに駆けていく。距離はまだ遠い。駆けながらファルは考える。なぜフリークがいなくなったのか。両親たちの様子を見ていれば予想外のことだということはわかる。でも、他には何もわからない。すごい速度で連れてかれたとかしか浮かばない。
考えるのは難しそうと思い、すぐに考えるのをやめる。
やがて、魔法が行使されたであろう場所の付近まで来ると、視界の先に開けている空間があるのが見える。周囲を警戒しつつ、茂みからそこを覗く。
そこにはフリークがいた。遠目にも体中に傷があり、何かと戦った後であろうということがうかがえる。
ファルはすぐに茂みを飛び出し、フリークの下に走る。
「フリーク!フリーク!大丈夫!?」
フリークの近くで体を揺さぶりながら話しかけても返事はない。そのことに思わず泣きそうになるが、涙をこらえてフリークの生死を確認する。
まず、鼻のあたりに耳を近づける。耳に息が入ってきて思わず「ひゃんっ!?」と変な声が出るが、フリークが息をしていることに安堵する。
次に体の異常の確認をする。足や手などを触っていると、左腕を触った時にフリークが顔をしかめる。すぐに触るのを止めるが、心配が湧いてきた。今はまだ生きているだけでこのあともしかしたら……などと考えてしまったからだ。
とりあえず、処置をする。正確にそうであるとの保証はないが、フリークは左腕が折れていることがわかったので、周囲の落ちている枝でよさそうなのがないかを探す。
手頃な長さの枝があったのでそれをそこら辺の蔓を使って折れた場所を圧迫しないように気をつけながら腕に固定する。いわゆる“添え木”と言われるやつだ。
そしてその後、自身の氷属性の魔法を使って腕を冷やす。冷たくしすぎないように威力を慎重に抑えながら行使しているので、中々に大変な作業だ。
そして、処置をしばらくしていると近くからガサガサと草を分ける音がする。一瞬怪物かもと思って身構えたが、すぐにそれをとく。
現れたのは両親たちだった。エルとリアはそれぞれフリークとファルの下にすぐに駆け寄り、ファルは抱きしめられた。
「もうっ、もうっ!心配したんだから!」
「ご、ごめんなさい……」
「いいよ、許してあげる。フリークくんも見つけてくれたからね」
この時、リアは心から安堵した。ファルがいなくなった時こそ我が子の成長に感動していたものの、よくよく考えればとんでもないことだと気づき、すごく焦ってたいたのだ。おまけに、夫とアレックは妙な雰囲気だったので話を聞くに聞けずにずっと黙っていたのだ。それで、余計に心配になっていたのだ。
エルの方は逆に冷静になっていた。正直、情報量の過多で理解が追いつかないし、フリークは夫に似て問題行動を起こしがちだが、生死が危うくなったことは一度もなかったからだ。だから、フリークのことを信じていた。きっと生きてくれていると。そして、やっぱり生きていた。ファルちゃんの処置の感じからして、腕が折れてはいるんだろうがそれ以外に大きな怪我は見られない。倒れているのも魔力切れっぽい様子だから、安心はしている。
これだけの傷なら、回復魔法を使うのは悪手だろうから、このまま家に運んでベットに寝かせよう。そう判断し、エルは行動することにした。アレックたちにもそれは賛成され、アレックがフリークを抱えて一行は家に帰ることにしたのであった。
補足
後々、詳しい説明は入れますがモンスターと魔物は同じ意味です。




