絶望の再演
《side ファルたち》
やっぱり、フリークってすごい!私、ゴブリンを目の前にしてすごく焦ってたのに、フリークったらすぐに冷静になって指示をくれるんだもん。私もフリークみたいな力があればもっと強くなれるのにな〜。フリークにその方法聞けば教えてくれるかな?
そう思い、「ねぇねぇ、フリーク」と言いながら後ろを振り返ると、誰もいない。前にいたっけ?と思いつつ、前を見る。しかし、両親たちが喋っているだけでフリークの姿はどこにもない。もう一度、後ろを振り返る。やはり、そこには誰もいない。
「ねぇねぇ、パパ。フリークどこいったの」
涙を必死にこらえながら、絞り出した声で父に問う。
「フリーク?そんなもんお前の後ろに決まって……」
父が振り返る。そして、フリークがいないことに気づく。
「お、おい……アレック!」
「どうしたんだい?リート」
「おめぇの坊主がいねぇんだよ!!」
そこでようやく他の三人も振り返る。そして、三人とも現状を知る。リアは状況が理解できない様子で、マリエルに至っては何度も前を見たり、後ろを見たりを繰り返している。アレックは冷静を装っているが、内心は心臓が飛び出そうなくらいに驚いている。もちろん、自分の息子がいなくなったことも衝撃だが、自分がフリークがいなくなったことに気づかなかったことや、どうやっていなくなったのか見当もつかないことにもまた驚いている。
なぜなら、アレックの知識の範囲では一瞬でいなくなる魔法やアーティファクトというものを知らないし、そんなものは聞いたこともないからだ。
原因がわからなければ、まともな対処は不可能だ。今は、打てる策を全て打って多少なりとも事態が好転することを願うしかなかった。
まずは、取り乱しているエルと、何をしでかすかわからないファルちゃんを落ち着かせる。その後、俺とリートでフリークがいそうな魔の森を探索しよう。
そう、アレックは混乱の渦中で静かに考えていた。
◆
また、まただ。また、フリークは私の前からいなくなってしまった。技能の使いすぎでの魔力切れで倒れた時も何も言わずに倒れた。私はあの日を昨日のことのように覚えている。
初めてのお友達で大親友のフリークが、技能を使っていたら突然倒れた。当時の私はなにもわからなかった。なんで、フリークが倒れたのかもわからなかったし、何をすればいいのかもわからなかった。
そのことを思い出す度に自分が情けなくなってくる。だから、私は許せない。あの時何も行動できなかったこの自分自身が。
私は努力した。勉強も魔法も運動も。絶対に友達を失わないために。私の日常を失わないために。私の心のよりどころを失わないために──
私は外の世界が怖かった。いつも誰かに監視されてて、みんなに悪口を言われてるような気がしたから。
だから、知らない人に話しかけられてもすぐに怯えてママの後ろに隠れてしまう。だけど、家族とさえ一緒にいれればそれでいいと思ってた。それで私は十分幸せだったから。
でも、やっぱり心の何処かで寂しい気持ちが残ってた。何度も外に出てみようと思った。何度も。何度も。何度も。だけど、無理だった。外の世界に出ようとすると、途端に足がすくむ。足が言うことを聞かなかった。結局、私は殻にこもることにした。
そんな私を救ってくれたのがフリークだ。あの日、パパとママに無理やり外に連れ出されて、私はすっごく機嫌が悪かった。そんな中、私はフリークと出会った。最初、チラチラ見ているとフリークもこっちを見てきた。いつもの私ならこの視線が嫌になってすぐにママの後ろに隠れるはずなのに、この時は不思議とそんなことはなかった。私は家族以外の誰かと話すのがとっても久しぶりで、フリークに話しかけられた時はあわあわしながら必死に次に話す言葉を考えながら会話をしていた。
そして、いつの間にか友達になっていた。自分でもびっくりするぐらいあっさりと。初めての友達ができてとっても嬉しかった。
いつの間にか、機嫌の悪さもどっかへ飛んでいっていた。
だから、だから、私はそんなフリークを失いたくない。探しに行くといったら両親たちは止めるだろう。そんなのはイヤだ。今度こそはフリークの役に立ちたい。そのために今日まで必死に努力して、フリークに負けないくらい強くなったんだから。
フリークがどこにいるかなんてわからない。だけど、私の直感は魔の森のどこかだと言っている。じゃあ、その直感を信じる。
私は全力で地面を踏み込む。こっそりとパパに教わっていた身体強化を使う。これは、まだフリークも知らない魔法だ。きっとこれを知ったら悔しがる。絶対に私が見つけて自慢してやるんだから。
後ろから両親が必死に呼び止める声が聞こえる。パパに至っては全速力で追ってくる。さすがにパパの速度に今は敵わない。でもね、パパたちには教えてなかったけど、私、魔法を創ったの。新しい魔法。なんとなく思いついちゃった。これを使えばパパでも誰でも私に追いつけない。
「『大地の風は私を包む。その強く温かな風はこの決意の火をもっと大きくする。さあ、駆けよう、風に乗って──』【追い風】」
風が私の背中を押す。私はどんどん加速する。パパとも距離が離れていく。探そう、フリークを。風は私の味方だ──
やがて、深い森に入る。枝にぶつかりそうになっても全てを避ける。運動はあまり得意じゃないけど、このくらいならへっちゃらだ。
ところで、私は知っているの。フリークがすごい人だと言うことを。勘でしかないけど、きっと彼も新しい魔法を生み出してる。そして、誰もいないから魔法の試し撃ちし放題とか考えて、絶対に魔法を使う。
試し撃ちをしてなくてもきっと周りの怪物と戦っているに違いない。
だから、絶対に魔法を使ってる。誰かが魔法を使えば、なんとなくわかる。何が起こるかわからないから、パパたちは簡単に魔法は使わない。魔力を温存する。そしたら、魔法を使っているのは他に森にいる人か、フリークだけだ。
私は駆ける、フリークを探してどこまでも。
◆
くっそ!やっぱりか。何か行動を起こすとは思ってたけど、まさか森に突っ込むとは。あいにくと俺は運動が人並みでしかないから、リートに任せるしかないが……。
リートが追いかけているのを見て、これなら捕まえられるなと思っていたところ、ファルが突然ものすごい勢いで加速し始めた。魔法を発動した感じはするものの、見たことがない魔法だ。
ま、まさか……ファルちゃんは新しい魔法を生み出したとでも言うってのか?い、いやそれはさすがに早計か。俺の知らない魔法をエルとかが教えていたんだろう。
そう思い、エルの方を見ると彼女は目玉が飛び出そうなくらいに驚いていた。
「ね、ねぇ、アレック。ファルちゃんにあんな魔法教えたことあったりする……?」
「いや、なかったはずだ。そもそもあんな魔法を見たことがない。」
「そ、そうよね……。じゃあ、リートが教えたのよね?そうに決まっているわ……」
「そう思いたいのは同感だが……リートがそんな魔法を知っていると思うか?」
「……思わない。で、でも、だったらファルちゃんが新しい魔法を創ったと言うことになるのよ!? ね、ねぇ、リアはなにか知らないの?」
近くにいてさっきから微動だにしないリアにエルは話しかける。
「…………」
「あれ?リア、大丈夫?」
エルはファルの行った方向に目が釘付けのリアの体を揺する。
「ハッ!ど、どうしたのエル?」
「それはこっちの話よリア。ファルちゃんどうなっちゃってんの?」
「そんなこと私も知らない。というか、私は魔法のことなんて何もわからないんだから。でも、ファルがすごいということは見ててわかる……だから、すごく感動してる。リートよりも速く走っちゃって。子供の成長って早いのね……。」
そう言いながら、リアは目に溜まった涙を拭う。
俺とエルはそんなリアの言動に呆れる。まぁ、リアは魔法が使えないのでこのファルの異常さが実感しにくいのも無理はない。というか、リアはファルが新しい魔法を創ったかもしれないということを気づいてないのだろう。
魔法を創るというのは当たり前だが簡単じゃない。俺やエルが使っている魔法は過去に体系化されたものに過ぎない。しかし、俺は体系化された結界魔法を極めた。そして、俺の結界魔法はほぼ新しい魔法と言っても過言ではないレベルのものとなった。
そんな世間的には高い地位にいる魔法使いである俺ですら、その魔法使いとしての人生の大半を結界魔法に注いだのと、空間魔法に対する才能があって初めて新しい魔法モドキができたくらいだ。
もちろん、過去に新魔法を創ったもの数え切れないくらいいるし、現在の王国の宮廷魔法師にも新しい魔法を大量に生み出し続けている化け物はいるのだが、それでも齢十ばかりで魔法を創ったという話は普通聞かないし、その例外もさっき述べた宮廷魔法師ぐらいしか俺は知らない。
つまり、ファルはあの化け物にも劣らない魔法使いということになる。俺が今ファルに関して思っていることを正直に言えば、やばいの一言に尽きる。魔法使いとしてもやばいし、国にバレたらもっとやばい。国が直接何かしてくるということはないと思うが、貴族のやつらは何を仕出かすかわからない。バレたとしても、学院長と俺の助力があればおそらく大丈夫だとは思うが……。
頭が痛くなってくる。もうイヤだ。折角、ゴブリンを倒すだけで帰れると思ったのにこんなことになるなんて。フリーク許さねぇ。いつもあいつが問題を起こすんだよ。行動の聖人さ(笑)に定評がある俺の息子なのに、どうしてこんな問題児に育ってしまったんだ……。
ファルの一件でエルはとりあえずは落ち着いている。ファルはもうどうしようもないから、フリークを探すついでに探そう。
はぁ、疲れた。
一つの話でまとめようと思っていたのですが、思っていたよりも字数が伸びてしまったので、次の話もファルたち視点です。




