魔法切れの考察
ファルがいるということはここはファルの家かな?この廊下の雰囲気もファルの家だし、多分そうだろう。
ファルはまだ寝ぼけているのか、半分目を閉じたまま、ふにゃふにゃの声で喋りかけてきた。
「パパ〜、おはよ〜」
「ファル、ぼくはパパじゃないよ」
すると、ファルは目を見開いて、しっかりと目の前に誰がいるのかを見る。
目の前にいるのが俺だと気づくと、顔を真っ赤にしながらも、涙ぐむ。
「ふ、ふ、フリーク!?あ…う…ぶじだったんだ…。しんぱいしたんだから!」
そう言うと、ファルは小さな両腕で俺にぎゅっと抱きついた。
「ほ、ほんとうにこわかったんだから。フリークがいなくなるかもって。ほんとうに、ほんとうに、こわかったんだから……」
突然ファルが抱きついてきたので、俺は動揺してしまう。
「ふぁ、ファル!?ご、ごめんね。ぼくはだいじょうぶだよ」
その言葉を聞くと、ファルは目に涙を溜めたままの顔をあげる。
「ほ、ほんとうに?ぜったいにいなくならない?」
「うん。ぜったいにいなくならないから」
やっとファルが離れると、俺たちが話している声が聞こえたのか、リアと母がこっちにやってくる。母は俺を見ると、すぐに抱きしめてくる。
「フリーク、無事でよかった……!」
「ママ、ぼくはだいじょうぶだよ!」
「そう……よかったわ」
すると、頃合いを見計らってリアが話しかけてくる。
「とりあえず、朝ごはんの準備をしている途中だから、ダイニングにいかない?」
「ええ、そうね。フリークもファルちゃんも行きましょう」
「「わかった!」」
そうして、一同はダイニングに向かう。
ダイニングに近づくと、美味しそうなポタージュの匂いがする。
ダイニングに着くと、リアが俺とファルに言う。
「さっさと朝ごはん準備しちゃうから、二人はテーブル座っておいて。エルはまたちょっと手伝ってくれる?」
俺達は「「うん!」」と元気よく返事をし、席に着く。母はそんな様子を見てほほ笑みながら、「ふふ、もちろんよ」と答える。
やがて、テーブルに木のボウルに盛られた美味しそうなポタージュと、少し焦げた黒パンと小さなチーズの塊が一緒に乗った木のお皿が出てきた。
少し黒パンが焦げてるのは前日とかの残りのやつを火魔法で熱してるからだ。
リアと母の二人も料理が終わって座る。すると、母が申し訳なさそうにリアに声をかけた。
「リア、少しだけいい?」
「ええ、いいわよ」
「じゃあ、失礼して……」
そういうと母は胸の前で手を組んで、目を瞑る。
「我らが主の恵みに感謝を」
俺もそれにならって黙祷をする。我が家では恒例のことだが、母は毎日食事の時に祈りを捧げている。
母からちゃんと教えて貰ったわけではないが、おそらく母は昨日(?)行った教会の信者なんだと思う。違う宗教を信仰してたら、あの教会に行かない気がするからな。そこはこの世界の常識を知らないから何とも言えないけど。
俺だけでなく、リアとファルも一応黙祷してるけど信者ではないだろう。信者だったら、母がリアに断りを入れないし、リアが率先して祈りをするだろうし。
祈りが終わると、ご飯を食べ始める。この世界では中世ヨーロッパと同じく、朝昼晩ほぼ全部にポタージュが出てくる。
それに、赤ちゃんの頃は白パンを食べさせてもらってたが、今は黒パンしか食べてない。赤ちゃんに黒パンは食べにくいからと無理して白パンを買ってくれていたのだろう。ありがたいことだな。
ちなみに、黒パンはポタージュに浸して食べると美味しい。チーズも、塩味と黒パンの酸味が合わさってかなりイケる。
食べ始めて少しすると、母が話しかけてくる。
「ねぇねぇ、フリークはどうして倒れちゃったのかしら?」
「ええっとね……。ぎのうをつかってたら、きゅうにねちゃったの」
「じゃあ、なんでかはわからないのね?」
「うん、わからない。ママはしってるの?」
「う〜ん、パパが言うには魔力切れらしいのよね」
「ま、まりょくぎれ!?」
「ええ、そうよ。どうかしたの?」
「い、いや、だいじょうぶ」
え、、、? は? どうして? なぜ魔力切れをしてもなんの怪我も負ってないんだ? もしかして、この世界では魔力切れになっても死なないのか? いやいや、それは早計か。他の原因を考えるべきだ。
考察しよう。まずは、現状の情報を整理する。
この世界をまだ知らない俺が、父よりも正確な答えを出せるとは当然思わない。だから、父の答えである魔力切れはまず正しい。
その上で、気絶した日を振り返ろう。
俺がスキル〈並列思考〉を使ったら気絶した。そこまでひどくはなかったが、頭痛もしていた。〈並列思考〉を使う前だが、〈思考加速〉も使った。スキル説明文を見る限り、〈天道無窮〉によるものだとは考えにくい。スキルに裏がなかったらの話だが。
俺は最初、〈並列思考〉の負荷に脳が耐えきれなくなっての気絶だと思い込んでいた。そもそも、並列思考という状態で人が普通でいられることが異常だ。頭が割れるような痛み、人格の崩壊、精神異常など、あらゆる副作用が起きるはずである。一応、説明文には暴走が抑えられるとか書いてあるが、どこまでが暴走とは書いていない。
そう考えると、スキルが手に入ったということに浮かれて、つい使ってしまった俺は頭のネジが吹っ飛んでるな。このことを心に刻んで、深く反省しよう。
そして、説明文には魔力消耗が伴うということは書いてある。思い返してみると、〈思考加速〉を止めた時に力が抜けたような気はした。
ならば、魔力切れになる可能性は十分にある。しかし、魔力というものを根本的に考えてみれば、魔力切れになったら死かそれに準ずるなんらかの代償があるべきだ。だとしたら、なぜ父は俺が魔力切れになったと考えたのか。
考えろ。考えろ。考えろ。何のための異世界オタクだ。こういう時に、今までの妄想の経験を活かすんだ。
……そうか、思いついた。
人間の生理的な反応として、血管迷走神経反射というものがある。
血管迷走神経反射は、強いストレス、痛み、恐怖などがきっかけで、自律神経のバランスが崩れて起こる反応だ。
主な症例としては、めまい、吐き気、冷や汗や、失神だ。
そう、失神。俺はこの世界の魔力を詳しく知らないが、魔力がその世界の個人個人にあるのならば、魔力は必ず生きるのに必要なのエネルギー、つまり生命エネルギーである。だとすれば、魔力を一度も使ったことがない人が一度に多く使ったら、どうなるだろうか。
答えは簡単。身体が強いストレスを感じて、強制的に脳をシャットダウンさせることで、魔力をこれ以上減らすことを妨げようとする。
これで、まだ魔力は残っているのに魔力切れが起こるのだろう。
また、魔力を使い慣れてる人でも、過度に魔力を使いすぎれば、失神が起こるというのはあり得る話だから、父は余計すぐにこの答えに辿り着いたのかもしれない。
ふぅ、スッキリした。この答えが合っているかはわからないが、我ながらかなり良い答えだな。
ふと目の前に視線を向けると、母もリアもファルもすっかりご飯を食べ終わっていた。
母が少し怒ったような声色で話してくる。
「フリーク、ボーッとしてないでさっさとご飯食べちゃいなさい」
やばい、さっさと食べよう。




