壱人目 早川鹿史(はやかわろくふみ) 続
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外との明るさのギャップで一瞬のめまいがした。
目を細めていると、だんだんと眼前の光景に息をのんだ。
鹿史のいるところはどうやら靴を置く場所らしい。
両脇におかれたその高い木製の下駄箱が彼を見上げている。
空いていた33番とかかれたところに靴を入れた。
「靴置き場」から一段上がった床をまたぐと「レトロ」を思わせる光景が広がった。
少し高めの天井。
それをめがけて伸びる壁にあちこちに張られた色とりどりのポスターや張り紙と一緒にビニールテープのようなものがとりつけられた扇風機が数台。音を立てながら一定のリズムであちこちを忙しなく吹かせていた。
年季の入ったつやのある木製の床を進んでいく。
老夫婦がロッキングチェアにのって何か楽しそうに談笑している。
ガラスが曇って中が見えずらい冷蔵庫のようなもの横にはタオルを首に巻いた中年の男性が気持ちよさそうに扇風機の風を浴びていた。体からはまだかすかに湯気が立ち上っている。
空間に馴染んでいるが存在が際立つ振り子時計と金の招き猫に挟まれて、少し古いマッサージチェアに体を預けた若い女性が、気持ちよさそうに寝ていてる。
動いているのかようわからない振り子時計は6時を指している。
「ようこそお越しになさいました」
不思議な景色に夢中になって気が付かなかった。
眼下には、10歳頃だろうか、妹とそう背丈の変わらない女の子がいた。
本やレジ、招き猫に金魚のはいった花瓶が緑色の秤に乗せられている。あたりを見渡してもそうだがここにはいろいろなものがある。だが、決して散らかっているというわけだわなく、不思議と馴染んでいて魅力に満ちていた。
後ろに木簡のようなものがかけられているカウンターのような場所での向こう側に彼女はいた。
受付ということだろうか。
その両脇の奥には、青と赤の暖簾がかかった通路が続いていた。
「札をお預かりします」
あぁ、と先ほど下駄箱で抜いた33番の木簡をおかっぱの似合う女の子に手渡す。
受付の向こう側からのびた手は小さいながら品を感じさせる。
作務衣を着た彼女は背後の木簡を手に取り、代わりに33番の「札」をかけた。
「ごゆっくり」
木簡を手渡して彼女はそういいながら微笑んだ。
扇風機の音に耳が鳴れた来て、心地よい静けさに包まれていた。
おかっぱの少女はいつの間にか丸い眼鏡をかけて読書に耽っていた。
木簡を手に青い暖簾をくぐる。
またしても一段と高くなった天井からはまだかすかに夕焼けの淡い光が、夜の暗闇と混じって脱衣所に差し込んでいた。
3台の扇風機がここでも忙しなく首を振っていた。
腰にタオルを巻いて方から湯気を出しながら、木製に座っている老人。
服を脱いでいる初老の男性。
体重計に乗ったり下りたりしている小太りの中年男性。
皆が幸せそうな笑みを浮かべていた。
目に入った、手製の編籠を手に取り服を脱ぐ。
靴下を脱ごうと、片足をあげたとき、横から懐かしい音が硫黄の匂いの湯気とともに、全身にぶつけられた。
先程の初老の男性が、ガラスのスライド式戸を開けていた。
『カポーン』
『ザー』
『ジャー』
『ザブンッ』
『ペチャペチャペチャ』
『コトン』
『シャカシャカ』
『ハッハッハ』
『ザザザー』
懐かしい音だった。
初老の男性が湯気の中にだんだんと消え行く。
あの、銭湯でしか味わえないあの感覚。誰もが一度は味わったことがあるだろう。
あの音の魔性と待ち構えている幸福を。
それが湯気とともに押し寄せてきた。
欲を掻き立てるような音と景色があの湯気の向こう側に待っている。
手の動きがだんだんと早くなっていく。
早く、はやく
受付でもらったタオルも忘れ、天国の門へと鹿史は駆けだした。
ーあの懐かしさと本能の感性を抱えて
〈続〉
あの湯気に包まれた少し騒がしい音を聞いたことのある同士がいることを願います。




