ep.55 妹とーじょです!
軽く話をするつもりがそれなりに時間が経っていたらしく空を見上げれば、太陽が少し西へと傾いていた。
「そろそろ行かないと⋯」
そう生気がない声で歩き出そうとしたオクスの肩をエルは掴んで引き止めた。
「どうしたの?」
「あ、いえ、単純に私はどういう扱いになるのかなと思いまして」
確かにいきなり人の姿をしたエルを連れてけばよからぬ誤解を招くに違いない。それこそ状況の悪化につながるだろう。
「どうしよう⋯お母様は多分話を聞く前に思い込で面倒につながるのは分かりきった未来だ⋯」
今、彼の頭には絶望の二文字が浮かび上がっていた。
「⋯普通に私が一度小さくなればいいのではないでしょうか?」
「確かに。でも1回そのままでもいいよ」
ちょっとした偽造すらもいずれはバレる。
先に諦めるかあとに諦めるかの差であった⋯
──────────
「というわけで私はエルです。どうぞお見知り置きを」
「あら〜!オクスにこんな可愛い精霊さんが一緒にいるなんて少し嫉妬しちゃうかも?」
「は、はは、恐縮です⋯」
エルの策のおかげでなんとか母の暴走を回避することができた。更にその副産物としてお母様の興味はエルに釘付けとなっている。あれはおそらくだが、スイとレイと同じ道を辿ることとなるだろう。この光景見てか、二人は抱き合って震えていた。そして、エルは知ることとなった。ファルの底なしの好奇心の恐ろしさを。
オクスはあまりの申し訳なさに念話でアドバイスをしておいた。
(エル?多分今から地獄を見ることになるから気を引き締めておいたほうがいいよ?)
(私これでも一応天界では強い方なんですよ?そんな心配は無用です!安心して待っていてください)
本人がそう言うのだから仕方ない⋯こちらからは無事を祈るだけだ。
そうして、エルはファルに手を引かれるがまま奥の部屋へと入っていった。そして、僕自身もすでに身の危険を感じている。
(なんか後ろからすごい気配を感じるんですけどぉぉ!?)
せめて例えるなら蛇が獲物を狙う時の視線を感じる⋯そして、数秒後には視線の主はオクスの肩に飛び乗りこう質問した。
「私はだーれだ?」
こんなことをする人物は一人しか心当たりがない。
「ミレイだよ」
「せーかいです!さすがはおにいさまです」
こう純粋な笑顔でそう答えるこの少女こそ、僕の正真正銘の妹ミレイ・フォン・テランであった。
「ところでミレイ?足で僕の首を絞めてるのは何でかなー?」
「これはしめているのではありません。おにいさまをにがさないためです!」
「あーでもそろそろお兄ちゃん呼吸ができなくなってきたから話してほしいかなぁ?」
とても三歳女児とは思えぬ力の強さで赤子の手をひねるかのように軽々しく首を絞めてるいるがこれ実は結界を間に挟さんでいるのも関わらずであった。
そもそもどこでプロレス技を覚えてきたのか聞いても誤魔化されるだけなので未だ謎であった。
なんとか風魔法で空気を送りながら交渉すること五分なんとか危機を免れることができた。
オクスは今後一生で無詠唱魔術が一番役に立った時だと心から思った。




