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ep.53 不穏な影

連れられるまま部屋の奥へと入った僕は衝撃の事実を聞くこととなった。

「おぉ、オクス。久しいな」

「陛下もお元気そうで何よりですが、顔色が優れないようですが⋯」

明らかにオルフェウスは様子がおかしい。

まるで今にも何か良からぬことが起きてしまうのではないかと思えるほど。

「何かあったのでしょうか?」

「それは、私が説明しよう。オクスくん陛下が毒殺されかけたときのことは覚えてるかい?」

僕は割と記憶力がいいのでその時のことははっきりと思い出せる。だが、それがどうしたというのだろうか?

「覚えていますがそれに何の関係性が?」

「あの時、現騎士団長のファザールが黒薔薇という組織について話していたのを覚えているかい?」

「一応は、この国で一番の裏組織だと聞いています」

その時の会話はインパクトが強く覚えていることが多い。この黒薔薇という組織のこともだ。

「実は最近黒薔薇が絡んでいると思われる事件があってね⋯それがダイアス領⋯つまり君の生まれ故郷だ」

「もしかして、父上が話していた急用というのは⋯」

するとアレシウスは申し訳なさそうに顔を縦に振った。

「こんな形で巻き込むことになってしまってすまない。これは大人である私達が負うべき責任だ」

「いいえ、話していただきありがとうございます。僕は領主の息子として領民たちを守る義務があります。だから、気にせず話していただけますか?」

彼の目には決心の炎が灯っていた。ただ一つの根本。人の役に立ちたい。ただ一心に、誰かを助けたいという思いが。

「それだけの物を見せられたら私も国王として話す義務がある。オクスよ覚悟はできたか」

オルフェウスはただ真剣にそう尋ねてきた。

お前にそれだけの覚悟はあるのかと⋯

「もちろんできています。ただ何もせずに三年間過ごしてきたわけではありません」

僕だって精一杯学べることを学び領主としての責務について考えてきた。そのことに揺らぎはない。

「いいだろう、オクス。まず問おうスライムと聞いて思うことは何だ」

「スライ厶はどこにでもいる魔物で危険性が非常に低い魔物です」

そうゲームのようにスライム達は弱い。

それが変わらぬ事実で誰でも知っている常識だった。

「その通りだ。だが、それを信じて多くの冒険者が襲われ犠牲となった」

それを聞き僕は非常に驚いた。

スライムは基本的に戦闘を好まない中立的魔物だ。

そして、冒険者達が負けるような相手でもない。

「一体どういうことなのですか」

「ブラッティスライムという名前を聞いたことはあるか?」

僕は無言で首を横に振った。

「本来、魔物氾濫(モンスターパレード)が起きるときに見られる魔物だ。しかし、ダイアス領の兵士たちは優秀だ。決してそのようなことは起きないだろう」

それから、オクスはそのスライムについて聞かされた。

本来、魔物氾濫(モンスターパレード)の時に凶暴化したスライムが血を吸って進化すること。

吸った血を魔力に変えて魔法を行使し、多大な被害を及ぼすこととのこと。そして、血から得た栄養を消費して増殖すること。

「今回確認されたスライムは普通ではあり得ない量の血を摂取しているようだ。私はこれを人為的に誰かが悪意を持って行っていると考えている」

「つまり、その組織が人為的にそのスライムを作っていると言うことですか」

「あぁ、この事はレインにも話してある。どこに組織の耳があるかはわからない。だから、私達は手助けすることはできない。本当にすまない」

オルフェウスは深々と頭を下げ、何もできない自分を嘆いていた。

「わかりました。僕も一度帰省する予定があったので、しばらく調査してみます。冒険者として」

とオクスは胸ポケットから一枚のカードを取り出し、そこには、銅のプレートにCランクと書かれた冒険者カードがあった。

合間合間に依頼を受けているうちに気がつけばCランクへとなっていたのは秘密だ。

「そうか。危険だと思ったらすぐに諦めてくれていい。責任を押し付けているのは私達だ」

その言葉にオクスは無言で頷くと自分の本来の目的へとシフトチェンジした。

「陛下、報告があります」

その声は静かながらに部屋によく響いていた。


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