ep.5 神域
(え?え?え?さっきまで神殿にいたよね?夢オチでしたとかはやめていただきたいのだが⋯)
「夢じゃないですよ」
「誰?」
声が突然後ろから聞こえてきたので、バックステップをして距離を取ったつもりだったのだが
「そんな警戒しなくていいですよ」
「いつの間に⋯」
気がつけば女の人に肩を掴まれていた。
「ところで本当にどちら様でしょうか?」
「私?私は神様です!それとあなたをここに呼んだ張本人です」
「神様?」
神様あの漫画とかでよく見る神様?
「そのまんが?というものはよくわかりませんが多分その認識でオッケーです」
「心が読まれた?」
「まあ、神様ですから」
どうやら神様のご都合主義らしい。
「あ、そうそう私は⋯神名の方は長いからえっと、イリアです」
「えっと、俺はオクス・フォン・テランです。あと⋯」
「橘春樹さんですよね」
あ、神様なら知っててもおかしくないのか。
「そうです。あのイリア様にお聞きしたいのですが、どうしてここに俺は呼ばれたんでしょうか?」
「それは、あなたがどうして転生した経緯をちょっと話そうと思ったことですかね」
「と言うと?」
「実は春樹さんの転生は予期せず起こったことなのです。今この世界は未曾有の危機に瀕していてですね。勇者召喚を行おうとしていたのですが、ちょうど同時刻に春樹さんが子供を庇ってお亡くなりになったのが原因で魂が引っ張られたというかなんというか⋯」
「つまり巻き込まれたってことですか?」
「まあ⋯そうなりますね」
俺の転生、巻き込まれ起きたことだったし、今この世界すごく危ないらしい。
え?まじで?
「大マジなんです!本来なら記憶を消してちょっと⋯ぴゃーっとやって処理するんですけど⋯」
「え?殺される予定だったんですか?俺」
多分、ぴゃーは殺すことだろう。
「ち、違うんです。神界の条約で決まっててですね⋯」
そ、そっか俺この世界にとって異物なのか⋯
予想が合ってたのも悲しい。
春樹はしょぼーんとなって地面を指でつつきはじめた。
「なら、どうして俺は生きてるんですか⋯」
「それはあなたがそう願ったからです」
え、そんな事⋯
春樹は死に際にあることを願ったのを思い出した。
゛もし生まれ変わりが存在するならそんな人間になれるといいな゛
「そういうことです」
イリアはそう呟いた。
「でも、この世界には危機が迫っているんですよね?」
「だから、ここに呼んだのです。あなたはいずれ領主になって領地を持つことになるでしょう。その時にあなたが人々を守れるように力を授けたいと思います。あなたは何を望みますか?」
望みか⋯なら
「どんな人でも助けれるような力が欲しいです」
我ながら抽象的な願いだがこれが本心。
「その願い聞き届けました。私の神の名に誓ってその願いかなえてみせましょう。あなたはこれから様々な出会い別れを経験するでしょう。それでも挫けず頑張ってください。見守っていますよ」
と視界が白で埋め尽くされ気がつけば神殿に戻っていた。
(春樹。いえ、オクスそれもあなたに授けます。きっと彼女はあなたの助けになるでしょう)
最後にそう声が聞こえ、手には懐中時計が握りしめられていた。