ep.30 人見知りの本好き
オクスはとりあえず話しかけてみることにした。
あちら側は本で目線が合わないようにしているので、それぐらいしか手段がないのだ。
(あ、でも名前聞いてないんだけどどうしよう。なんて話しかければいいんだ?)
仮にも、あちらは公爵家の令嬢。失礼があってはいけない。
(何気ない会話で始めなければ⋯)
「えーと、お初にお目にかかります?少しいいでしょうか?」
完全に顔が引きつっていた。大失敗である。
「ひゃい!な、な、なんでしょうか?」
相手方も、慌てて本を落とし、急いで拾い上げていた。
(あ、駄目だ。難しすぎる)
尊敬語、丁寧語、謙譲語の差が未だに分からないオクスにとっては無理な話だったのだ。
お互いにモジモジしては話が進まない。何か話題を見つけなくては!
「あの、本逆向きですよ」
(もっとマシな話題は無かったのかぁ!何いってんだ俺ぇ!)
「あ、ありがとうございます。私はルーナ・フォン・ミュラーです。貴方様は?」
(話を繋げてくれてありがとおぉぉ)
そんな感じで心のなかで感謝した後
「私は、オクス・フォン・テランです。先ほどはいきなり話しかけてすみませんでした。ルーナ様」
するとルーナは本を置いて両手をブンブンと振って
「気にしないでください。私が勝手に驚いてしまっただけなので⋯そもそもここはそういう場ですから⋯」
その目線の先には、貴族たちがお互いを牽制し合うかのように会話をしていた。
「そんなんですね。実は僕もなんですよ。何すればいいかわからなくて、一人で終わるまで時間をつぶそうと思っていました」
「そうですか。では折角ですし、少し話をしませんか?」
「はい。横に座っても?」
首を縦に振って了承してもらったのを確認にするとオクスは横に座った。
「オクス様はテラン辺境伯のご長男ですよね?」
「はい、そうですね。父はレイン・フォン・テラン・ダイアス、母はファル・フォン・テランです」
「やはりですか!」
急にルーナはオクスの手を掴み
「あ、取り乱しました申し訳ありません⋯私、書物が好きで、その時にダイアス領について興味を持ちまして、もしよかったらダイアス領のお話を聞きたいなと⋯」
ちょっと意外だったこんなお姫様が辺境の地に興味を持つなんて。ちょっと嬉しい。
「いいですよ。どのようなお話をしましょうか?」
「なら、もしよければ街の様子などを⋯」
「わかりました。私でよければお話します」
そうしてオクスは街の様子について話し出すのだった。




