ep.28 始祖との邂逅
オクスはレインのいる部屋へと来ていたツクモといっしょに。
「というわけで連れてきちゃいました」
「シンから話は聞いた。オクス保護するのはいいがちょっとやりすぎじゃないか?」
「それは確かにですけど⋯」
あの後、壁の傷と腕だけは治しておいてその場から逃げる様に帰ってきたわけで⋯
怒られるのはほぼ決定事項だと思っていた。だが、予想に反してそのようなことはなかった。
「まあ、お前は守るために力を使った、それは誰にでもできることじゃない。よくやった」
逆にちょっと褒められて少し驚いた。
「だが、どうするか⋯これから王都へ向かうわけだが⋯」
ここから戻るわけにもいかないし、行き先がないのだ。
「僕が責任は持ちます」
「そうは言うが、住む場所はどうする?」
「確かに⋯」
寮住まいになるということはそういうことである。
「はぁ⋯王都にある私の屋敷を使うといい」
「いいのですか!」
「まあ、たまにしか使うことはないし⋯」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございましゅ!」
ツクモは慌ててオクスに合わせたせいで舌を噛んでしまったようで痛そうだ。でも、ちょっと可愛い。
「明日は早いから早く寝るんだぞ」
「わかりました」
それだけ返事をしてオクスは部屋を出た。
「よかったね」
「うん、あり⋯がとう。オクス」
「今日は僕の専属のメイドの人たちと寝てもらうけどいい?」
そう言うとツクモはオクスの腕に掴まった。
「嫌⋯」
「え?」
「他の人怖い」
オクスの腕を掴む手は震えている。それは刷り込まれた恐怖の証拠。オクスはツクモの頭に手を置いて撫でた。
「気遣いが足りてなかったごめんね」
「ううん、私が悪いの⋯でも、オクスの手落ち着く」
「じゃあ、今日だけは一緒の部屋でいいよ」
オクスはツクモを部屋に入れることにした。
「僕はあっちで寝るからこっちのベットを使ってね」
「わ⋯かった」
ツクモは突然床に倒れ込んだ。
「大丈夫!?」
まだ治せてない傷があったのだろうか、それとも別の要因?
心配したがツクモはすぐに起き上がった。
『体を借りるのも一苦労でありんすな』
その声は明らかに別人のものだった。
「あなたは誰?」
『突然で申し訳ないでありんす。私はこの子の祖先みたいなものでありんすよ』
「祖先?」
『私の本体は獣人国ラハールで幽閉されているでありんすよ。この子は私と同じ白狐で特殊であり異端。そして、希望。この子は私の元祖返りでありんす』
「まったく話についていけないだが⋯」
いきなり情報量が多い。頭が追いつかないぞ。
『ところでオクスはんから知った顔の気配がするでありんす』
「こんなところで会うなんて思ってませんでしたよ、ユズ」
エルはため息をこぼしながらそう言った。
『昔みたくもっと親しくしてくれていいでありんすよ、ミカエル?昔、一緒に戦った仲じゃありんすか』
とグイグイ近寄って来る。
「やはり、私はあなたが苦手です」
エルはそっぽを向いて目をそらした。
「二人は知り合いだったの?」
「まだ、天使が地上に住んでいた頃の話ですよ」
そんなことがあったのかと思いながらオクスは話に耳を傾けていた。
『ミカエルは今は彼についているんでありんすな。それは罪滅ぼしでありんすか?』
「どうでしょうね⋯」
少し静寂が続いたあと
『もうそろそろ限界のようでありんす。オクスはん、この子の事お願いするでありんす。いつか、ラハールにも来てくれると嬉しいでありんす』
「わかった」
「感謝するでありんす。ほな、この子の事は頼みます」
「あ、もうちょっと詳しく話を⋯」
手遅れのようだ、彼女の体は立つ力を失い、再び床に倒れそうになったのでオクスはその前に体を支え、ベットへと運んだ。
その後、オクスは軽くエルと話をしたあと寝床についた。




