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ep.14 母恐るべし

「冗談だろ」

「いや、事実だよ。僕の本当の名前はオクス・フォン・テランだ」

「貴族様だったのですか?」

スイの質問にオクスは無言で頷いた。

「実はお忍びで街に来てたんだ。そこでレイと出会ったんだよ」

「でも、なんでだ?」

ああ、そうだった。

「元々仲間探しというか、戦力集めを兼ねてこっそりと街に来てたんだ。二人を助けたのはただの善意だったけど」

「つまり、戦力増強のため?」

「うん。僕も将来は辺境伯になるわけだし、家臣を集めときたいなって。うちなら平民への差別とかもないから」

テラン家は平民からの成り上がり貴族だから、平民の気持ちはよくわかるし、よく意見を聞く。だから、領主であるレインは平民から愛されている。

「でも、いいんでしょうか?私たちみたいな人間がいきなりそんな待遇を受けて」


「別に気にすることじゃないよ」


俺はただ貴族の嫡男として生まれただけのついている人間だ。二人だって同じ人間。不幸に見舞われただけ。

「だから、二人とも来てくれないかな?テラン家へ」

オクスは開きっぱなしのドアから光が差し込む中、手を差し出した。

二人はお互いに目を合わせ

「「お願いします(するぜ)」」

その手を掴んだ。

「よーし今日から二人もテラン家の人間だ。あ、でももしだめだったら⋯大丈夫、衣食住は保証するから」

「さっきまでかっこよく見えたんだけどな⋯」

「それぐらいのほうが親しみやすくていいじゃないですか」

とスイは笑みを浮かべた。

「オクス様、私達今日から頑張りますね!」

と改めて手を握りに行った。

「ん?あ、ああ、よろしく」

オクスは少し焦りながらも返事をするのだった。



───────────



「ふぅ、屋敷に戻ってきた〜」

帰りは快適だった。レイが路地裏の道の詳しいおかげで誰に会うこともなく屋敷へと戻ってこれた。

誰かと会うと騒ぎになりかねんからな。

疲れたし帰ったら一度休憩しよう。

そう思いながらドアを開け放つとそこには衝撃の光景があった。

「あら〜オクスおかえり」

「お、お母様⋯」

これやばい。この笑顔はやばい。絶対怒ってる!

そして、ファルの右手には掴まれているのは

「あのお母様?その右手につかんでいるのは⋯」

「オクスに護衛もつけずに外出を認めるどころか、着々と準備をしていたレイン(バカ)のことかしら?」

レインはボロボロになりながらも顔をこちらに向け

「オクスすまない。母さんは強かった⋯」

ガクっと気絶してしまった。

「えっと、お母様。私は疲れているのでこれぐらいで⋯」

こういう時は逃げる!それ以上の選択肢なし!早く逃げる!駆け足駆け足駆け足!剣術で学んだステップを使い逃げる!

だがしかし、無念にもオクスの襟は空いていた方の手に掴まれ、ガッチリとロック。

「オクスどこに行くのかしら?」

そして、その後は言うまでもなくボコボコにされ(レインより十倍マシ)正座をさせられ。

「「すみませんでした」」

「次からは相談してね?」

「「はい⋯」」

「ところでオクス?」

「は、はい!なんでしょうかお母様!」

「あっちの可愛い子たちは誰かしら?」

「あっちの二人は僕が連れてきたんです。二人には魔法の才能があると思うんです。僕も将来の辺境伯として家臣は居たほうがいいかなと思いまして⋯」

「へぇ、そうなの⋯いい心がけね」

ファルは二人に近寄っていき。


「あなたたち名前は?」


「レイだ」


「スイです」


「あら〜素直で可愛いじゃない!双子なのかしら?」


「はい、双子です。えっと⋯」


「私はファル・フォン・テランであっちのバカ夫はレイン・フォン・テラン・ダイアスよ。よろしくねレイちゃん、スイちゃん」


といきなりハグしに行った。

そして、触れて何か感じたのか


「確かにこの子たち魔法の素養があるわね。オクスの見る目もいい」


「あの、ファル様」


「どうしたの?スイちゃん」


「私もオクス様みたいに人を助けられるようになるでしょうか?」


「その助けたいがどう助けたいのかは私には分からないけれどきっとできるわ」

とさっきの怖い笑顔ではなくいつもの笑顔を浮かべた。


「俺もなりたい!オクスは俺の怪我を治してくれたんだ」


その発言にオクスはざわめいた。


(その発言はだめ!)


今のファルにそれを言うのは火に油を注ぎ、そこに火薬を投げ入れるようなものだ。


「レイくん詳しく教えてくれるかしら?」


「もちろんだ!俺が歩き出そうとした時に足を怪我してて動けなくなった時に俺の足を治してくれたんだ」


「あら、オクスもいいことするわね。でも、後で聞かなくちゃいけないことが増えちゃったわね」

そう不敵な笑みを浮かべた。

(あぁ、終わった⋯)


オクスはその晩、部屋に呼び出され事情説明をする羽目になるのだった。


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