第9話 深層への誘い
光瑛と再会してからというもの、美琴は毎日が現実的でないような、ふわふわした毎日を送っていた。光瑛に会えないのに、側にいるような、幸せで不思議な気持ちが続いていた。
ある日、急に優華から連絡が入った。久しぶりに会いたい、話があるというのだ。美琴は自分もこの間のライブでの光瑛との事を話したかったので会いに行く事にした。
優華は、新しい店舗を構えていた。以前のサロンは奈緒店長により頼もしいお店となっており、イギリス留学での収穫もあったので全く違うような店舗にして新設したのだ。その忙しさもあり、疎遠になっていたのだった。
「久しぶりね!結婚も、おめでとう!」
優華は、笑顔で迎えてくれた。そして、イギリスからの電話で美琴を責めた事を謝った。彼女も気にしてくれていた。美琴はすっかりわだかまりも消え、いつものように楽しく笑い、お互いの話しをした。
すると優華が、実はイギリスで柊一と偶然会った事、前世療法を受けて前世を確信して、柊一に話したこと、そして今、忙しい合間をぬってお互いに連絡を取り合っている事を話した。美琴はとても驚いた。
「という事は、付き合ってるの?」
直球で質問すると、優華は、
「それは、ないのよ。」
と笑みを浮かべて言う。
「え?なんで?あんなに好きだったのに。それも前世でも出会っていたなんて運命みたいなものじゃない!連絡取り合っても付き合ってないなんて、どういうこと?」
不思議でならなかった。
「もちろん彼のこと、とても好きよ。会ってみて心からそう思った。でも、前世の事があるせいか、そう簡単にいかなくてね。彼を好きだと思えば思うほど、罪悪感が出てくるのよ。」
罪悪感?どういうことかわからなかった。優華は前世体験について語り始めた。聞きながら、美琴はよく自分が見る夢の事を思い出していた。
なんだか、時代や人物の設定など似ている。まさか、そんな事って。それを話すべきか迷っていたら、
「ねぇ、あなたも受けてみない?私、セッション出来るのよ!」
と言われた。優華は美琴と初めて会った時から何となく自分と関わりがあるんじゃないか、と思っていたのだそう。優華はイギリスでの経験後、前世療法に興味を持ち、すぐに資格を取っていた。
前世療法、というのは催眠状態に誘導し、自分の深層心理に眠る記憶を思い出し、現世に何らかの影響を与えている事がないか探る施術だ。
例えば、極端に水が怖い人に退行催眠をかけてみた所、前世で溺れ死んだ記憶が残っている事がわかり、そこでもう自分は溺れたりしないから安心してよい、と心に修正することで、心のストレスを軽減していく、というような事だ。
前世療法のやり方は様々で、施術師がその人の深層心理を読み取るやり方や、本人が夢を見るかのようにその時代に遡って再体験するようなやり方などがある。
優華の学んだ方法は、本人が夢を見るように体験していく方法であった。
美琴は少し不安だったが、いつも見ていた夢の事もあり、優華なら安心できると思い、受けてみることにした。
サロンの奥の部屋にリクライニングソファーがある。そこに美琴は横たわった。緊張していたが、優華が側にいるので徐々に心が落ち着いていった。良い香りのするアロマに包まれ更にリラックスしていく。優華は、
「催眠誘導するけど、自分が目覚めたいと思えば、目覚められるし、みたくないと思えば途中でやめても大丈夫だからね。」
と安心するように声をかけた。
美琴は、心地よい優華の声を聞きながら深い意識の底へ旅立つ。




