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第7話 結婚

 優華の留学中、美琴は毎日が忙しく充実していた。人の役に立つ自分を誇らしく思い、一生懸命に働いていた。光瑛のライブに全く行けなくてなって何年か経っていた。その間に恋人もでき、その彼との結婚の話も持ち上がっていた。光瑛の事は考えると胸が切なくて仕方なかった。だが、芸能人と自分となんて現実的ではない。彼と結ばれるなど考える余地さえなかった。

 光瑛は違っていた。相変わらずライブ会場で彼女を探していた。見つからなくても探し続けていた。ラジオの番組などで、彼女へ宛てたメッセージのような曲を流した事もあった。だが、彼女かもしれないという手紙やメールはあっても確信が持てずにいた。眠れないくらい切ない日もあったが、諦める事は出来なかった。

 ある日、美琴は海外にいる優華と電話で話した事があった。その時美琴に恋人が出来ているのを知り、優華は、

「そんなのいけない!。光瑛さんはどうするの?」

と、何故か強い口調で責め立てた。優華自身も不思議な気分だったが、どうしても反対せずにはいられなかった。そんな優華の言葉に美琴は驚いたが、それ以上に美琴にとってその話が一番辛いものであったため、つい頭にきてしまい、

「簡単に言わないで!」

と怒ってしまった。自分がどんな気持ちで諦めようとしているか、彼女ならわかってくれると思っていた。なのにわかってくれないのか、と腹立たしく悲しくもあった。

 そしてその電話から、美琴と優華は遠く離れた所にいる事もあり、疎遠になり始めた。美琴の結婚が決まった事も、事後報告のように伝えることになってしまった。

 美琴の夫になる人とは、美琴の働く病院で出会った。杉原行秀(すぎはらゆきひで)、三つ年上の製薬会社の営業だ。杉原が病棟に行くと美琴はいつも楽しそうに仕事をしていた。忙しく大変な事も多いだろうに、笑顔を絶やさなかった。杉原自身は仕事に疲れ、毎日が辛く感じていた。そんな時に美琴から、

「お仕事大変ですね。でも、悩んでいたら大切な自分の人生の時間が、もったいないですよ!」

 と励まされた。仕事の事で頭がいっぱいで、自分、を無くしていた事に気付いた。だが、彼女だって自分が大変でも他人を優先しなければならない仕事をしていて辛くないのか、と聞いた。すると、

「考えた事、なかった。」

と笑っていた。彼はその笑顔で彼女に夢中になった。

 杉原は、何度も交際を申し込んだ。彼女はなかなかオッケーしてくれなかった。彼は美琴に好きな人がいるのかと問うが、はっきりとは言ってくれなかった。ただ彼女は寂しそうな、切ない笑みを浮かべるだけだった。彼は何度も振られたが諦めなかった。彼女の少し不器用な所、周りを優先して自分の疲れに気づかない真っ直ぐな所を守りたい、幸せにしたい、と強く思った。そしてやっと美琴の気持ちを動かす事ができた。

 美琴は、彼のことを好ましく思ったが、どうにも光瑛の事が頭を何度もよぎった。芸能人なのに真剣に考えるなんて、光瑛と結ばれるなんてあり得ない、と思った。そして彼の真っ直ぐな思いに、次第に頑なな美琴の心は溶けていった。彼となら幸せになれる、と思った。交際してみてそれは益々はっきりした。プロポーズされた時も光瑛の事がやはり浮かんだが、彼との幸せを選んだ。

 そして、結婚式を迎える。


 美琴は自分の結婚式の朝、久しぶりにあの夢を見た。

 湖の側で自分は一人ぼっちで愛する人を待っていた。結局、愛する人は二度と戻らなかった。捨てられたのか、引き裂かれたのか、わからないが、二度と会えない、というつらさから、病が悪化して一人亡くなったようだった。

 目が醒めると、何度も見ていたあの夢は自分の前世か何かだったのか、と思った。あの時の自分は、愛する人の手を取れないまま一人亡くなった。そして今の自分も本当に好きな人を諦めようしている。切なくてつらくて、涙が止まらなかった。光瑛の事はどんなに望んでも叶えられない、あり得ない、奇跡なんておきないのだ。忘れられない彼の笑顔、忘れなければ、と涙を拭った。


 結婚式が始まる。花嫁の美琴は美しかった。親友の奈緒が彼女をドレスアップし、素晴らしい花嫁が出来上がった。夫となる人は、とても優しい人だ。きっと幸せになるだろう。美琴にはその資格がある、奈緒は強く感じていた。優華にも見せたかったな、と思った。海外で無理なのもあるが、今ひとつ二人の間も微妙なままで、残念で仕方なかった。

 式は無事に終わり披露宴が始まった。その間美琴は何度も今朝の夢を思い出していた。そして光瑛の事を夢と重ねてしまい辛かった。どうしようもないのよ、と自分に言い聞かせていた。綺麗なドレスとは裏腹に彼女の顔は曇っていた。

 その時、式場のBGMで光瑛の歌うあの曲、美琴が初めて彼らの曲を聞いて涙したあの曲が、偶然、流れ始めた。この曲は…、と美琴は言いようのない気持ちになり、涙が出てきた。

 彼が好きだ、やっぱり…。

 涙はとめどなく流れた。花嫁さん、嬉しくて泣いてるわ、と周りは祝福してくれた。でも、もちろん違った。美琴の心の中に光瑛の笑顔があった。忘れられないあの声。どうにもできないとわかっていても溢れる涙と、彼への想いで胸がいっぱいになっていた。

 この瞬間が自分がこの人生を選ぶことへの大きな試練にさえ感じていた。

 そして曲が終わった。

 美琴は大きく息を吐き涙をぬぐい、凛として、新しい人生を歩み始める決意をした。光瑛への想いは胸の奥深くにしまいこんだ。


 結婚式が終わり、何ヶ月か経ち優華が帰国すると聞いた、だが、何となく優華に会いたくないと思うのだった。責められるかもしれないから?そうではない、光瑛への奥深くしまった想い、自分の本当の気持ちを優華に読まれてしまいそうで怖かったからだった。奈緒のお店に行けば、彼女がいるのはわかっていたが、忙しさに身を隠して避け続けた。


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