第23話 そして…
美琴は無事に退院し、いつもの生活が戻りつつあった。怪我を負った件は、表に出ることはなかった。あの時美琴を責めたてたファン数名は、恐らく自分たちが何か喋ればそれは逆に自分たちにとって不利になるとわかっていたのだろう。だが、美琴は用心の為にも、ライブには行かなかった。光瑛とはメールや電話では繋がっていたが会うことはしなかった。
そんな中、光瑛から、彼らのバンドが海外で大きな仕事が決まったと告げられた。彼らはいつか大きな仕事を成し遂げたいと夢を持ってずっと今まで頑張ってきた。その思いが報われる日が来たのだ。
だが、それは無期限の海外での生活となる事を意味していた。
光瑛は、美琴に電話で、
「いつ帰れるか、わからない。だから発つ前に、一度だけ会えないかな?」
と言った。光瑛は美琴と会う事は、周りにまた迷惑をかけるかもしれない、とわかってはいたが、どうしても顔を見て話したかった。前世で、吟遊詩人が旅に出て二度と帰れなかった、あの時のような不安に苛まれていた。
美琴には、光瑛の気持ちが痛いほどわかった。遠くに旅立つ事が決まった彼に、もう二度と会えなくなるかもしれないと感じた。最後になるとしてもきちんと会って自分の気持ちを伝えたい、とも思っていた。
そして、あの幸せな夏を過ごした長野のロッジで待ち合わせることにした。




