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第2話 目が離せない

 夏も終わり、柊一は作曲に取り掛かっていた。今回のツアーで、心に何か響くものがあり、詩をあっという間に書けたのだった。こんな事は滅多にない。降りてくる、というやつだ。出来上がった詩を見て、彼は心の奥底から湧き上がる、熱い気持ちに戸惑っていた。訳もわからず、不安になったり泣きたくなったり。俺って女みたいだな、と客観的に自分を感じていた。

 光瑛もその詩を見て、なんだかいつもの柊一とは違うものを感じていた。まるで女性の気持ちをそのまま書いたような感じだった。男性が詩を書く時に、女性の気持ちになって書く事はよくある事だが、

「お前、恋人でもできたのか?」

と、つい質問してしまうほどリアルな内容だった。二人とも声をだして笑ったが、何となく、何か心に引っかかったまま、話を終えたのだった。

 出来上がった曲は、次のライブで発表することが決まった。

 あれから優華は、たびたび彼らのライブに誘ってくれていた。だがなかなか行けなかった。あの日以来、美琴は彼の声を毎日のように聞いていた。益々彼のことが気になっていた。そしてとても良い席のチケットが取れた!と優華から連絡があった。神席だった。美琴は近くで彼の声が聞ける事が嬉しくて仕方なかった。


 そんな日を楽しみに過ごしていたある夜、

また美琴は夢を見ていた。

 湖の水は、とても冷たく、風が強く吹き付けている。寒い。寂しい。もう会えないのだろうか?会えないだけでこんなに辛いなんて。涙が頬を伝う。

「久々にあの妙な夢、見たなぁ。」

ベッドに横たわったまま天井を見つめる。

「あの湖、どこか外国よね、きっと。よっぽど会いたい人がいるのね…。」

ポツリと呟いた。その途端、光瑛の顔が浮かんだ。今日は彼らのライブの日、だからって!と美琴は顔を赤く染めた。待ち合わせの駅へ向かう電車の中でも夢の事を考えていた。考えるとボーっとしてしまう。だが会場近くの駅が近くなると、楽しみが湧いてきて夢のことなど忘れてしまうのだった。


 駅前、優華と出会い挨拶をかわす。今日の優華はなんだかとても綺麗に見えた。いつもより気合いが入ってるって訳でもないのに。オーラがいつもとは違っていた。優華は自分をじろじろみる美琴に、戸惑いながらも、笑っていた。

 ライブ会場に入る。いつものように熱気に包まている。席に着くと、こんなに近いなんて、と二人して驚いた。そして、一気に緊張が増した。見るということは、見られるということ、と色々と後悔するのはライブが始まってからとなる。


 舞台袖、ライブ前に、精神統一をしていたメンバー達。会場からは熱気に包まれたファン達のざわめきが聞こえる。その中で光瑛は何故かいつもより緊張していた。もう何年も同じようにライブを重ねてきていて、何故か手に汗がにじむ。今までにこんな事はなかったので、かなり戸惑っていた。

「大丈夫か?お前らしくもない、珍しいな。」

柊一が話しかける。

「ああ、何故だろう。」

光瑛がつぶやく。そんな光瑛をみていて、

「だれか特別なお客でも、来るんだったっけ?」

雅仁が質問した。

「え?」

二人一緒に声を揃えて雅仁に聞き返した。雅仁は、

「俺、なんか変なこと聞いたか?」

自分の質問がそんなに二人を驚かせたか?と不思議な顔をした。

「いや。誰も来ない、よな?」

柊一が光瑛に言い、二人で頷きあった。その様子をみてポカンとしてしまう雅仁だった。開演のベルが鳴った。ライブの始まりだ。


 彼らがステージに現れた。照明が煌びやかに輝いて彼らを照らす。美琴は緊張した。優華を見ると物怖じせずじっと柊一を見つめている。あんなに見つめて、すごい!美琴は優華の勇気に感服した。美琴は恥ずかしくて顔を上げられずにいた。だが、彼の歌声を聞いた途端、姿を見ずにはいられなかった。美琴は顔を上げ、初めて近くで彼を見た。

 すると、驚いた事に、光瑛が自分を見つめていた。それも一瞬ではない。かなり長く。なぜか二人は見つめ合っていた。光瑛に見られている。目が離せない。緊張で心臓がバクバクと早鐘を打つ。何故?彼、私のことみてる?どういう事なの?頭の中で疑問符がぐるぐる回る。

 光瑛も不思議だった。ステージに立って、すぐに彼女に目が止まった。そして、目が離せなかった。何がそうさせているのか、わからない。ただ、目が離せないのだ。誰だっけ?知り合い?いや知らないよな。でも、なんでだろ、気になって見てしまう…。ステージに上がる前の緊張が舞い戻ってくる。ステージで緊張するなんてデビューした時以来だ。彼は焦っていた。

 柊一もまた同じようになっていた。優華に見つめられて、いつもの王子のような振る舞いが出来ないのだ。ただ、見つめ合う中で懐かしさにも包まれていた。

 そして、ライブ中盤、あの新曲を披露する時がきた。ボーカルは柊一。彼は歌いながら、何故か涙が出そうになっていた。彼の気持ちは、詩に書いた切ない女性の気持ちそのものだった。ファンは王子のような彼が泣きそうになりながら歌う曲にため息をついた。

 長いようであっという間だったライブが終わる。フィナーレを迎えた時、四人とも思わず涙ぐんでいた。それぞれがお互いの顔を見て、涙をこらえている事がわかった。とても切なかった。きっとまた会える、そう瞳で語り合っているようだった。


 ライブ終了後、美琴たちは、近くの喫茶店に入る。二人とも心ここに在らずといった感じでお茶を飲む。

「今日、なんだか、彼…。それにあの新曲…。」

優華が口を開く。そして何か考え込みだした。

「どうしたの?」

美琴が話しかけても、優華は考え込んだまま何も応えない。

 美琴は美琴で、ライブ中の光瑛の事を思い出しては、胸がドキドキしていた。恋の経験は少しはあるけど、あんな風に誰かに見つめられて、ドキドキした事はなかった。なぜあんなに見つめられていたのだろう。考えても答えは出ない。

「彼、あんなに切なそうに歌うなんて。よっぽどあの曲に感情移入していたのね。まるで…」

優華はまた黙る。

「まるで、何?」

美琴が聞くと、優華はくすりと笑いながら、

「まさかね。彼も自分が誰なのかを知ってたりして。」

と言った。

「柊一さんも前世について知っているかもって事?」

美琴は優華の話に目を丸くした。


 ライブ後の柊一は疲れもあってかぼんやりしていた。そして思い返していた。あの女性と見つめ合う間、切ない気持ちと幸せな気持ちの狭間にいた。今まで、会ったばかりの知らない女性相手に、自分がここまで動揺した事はなかった。自分の気持ちに驚いていた。誰なんだろう…。

 また光瑛も思い出していた。あの子と会ったことないよな、と何度も考えたが、やはり思い出せない。だがよく知っている人のような気がし、彼女が悲しい顔をしていないか、笑っているか、がとても気になっていた。ライブ終わりに彼女が笑顔で手を振っているのをみて安心し、その笑顔のままいてくれ、とも思っていた。名前も知らない人なのに。

 こうして四人は、出会った。

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