第18話 夏の終わり
彼と会ったあの日以来、美琴はとても満たされていた。毎日の生活はいつも通りなのに、穏やかで幸せな時間を過ごしていた。あの二人の言うように、魂の世界で感じ、彼はきっと側にいる、そう信じてみることにした。
杉原はあんなに落ち込んで元気のなかった美琴がすっかり落ち着いたのをみてホッとしていた。何があったのか、聞いてもよかったが、彼女が穏やかなのが嬉しかったので特に聞かなかった。
忙しかろうが具合が悪かろうが毎日きちんと家事をこなし、仕事をこなし、頑張っていた美琴。家事など手伝う事はできても心の隙間にある寂しさを埋める事が自分にはどうしても出来なかった。
もし彼女が自分から離れて他の道を選んでも、静かに応援しよう、その日がいつ来てもいいように心の準備をしておこう、自分が出来るのはそれくらいだ、
と、杉原は何故か、そう思っていた。
美琴は光瑛に会いたいと思う事もあったが、連絡を取り合ったりはしなかった。それに、会えなくてもそんなに寂しくもなかった。想いを馳せると彼がいるように感じたし、ライブに行けば、またいつものように自分を見つけてくれ、見つめながらラブソングを歌ってくれた。それだけでも充分幸せだった。
夏の終わり、柊一から写真集の撮影が長野の方であるから、泊まりで遊びに来ないか、と連絡があった。優華も来るそうだ。みんなと会えるのはとても嬉しかった。夫に優華から柊一を紹介してもらった事を話した。彼らの撮影を泊まりで見に行くと言い、光瑛のことは特に話さなかった。夫は特に何も疑わず、快く泊まりの許可をくれた。美琴は彼らに会える事もだが、芸能人の本物の撮影に立ち会えるなんてとても楽しみだ、と思った。
長野の山林で撮影は行われた。緑と光に囲まれた神秘的な空間での撮影。出来た写真はとても美しかった。美琴はこんな風に撮れるんだ、と感心した。メンバーが皆、とてもカッコよくて、誰よりも先に見られる事がとても嬉しかった。
撮影は順調で昼過ぎには終え、皆で控え室代わりのロッジに戻ってきた。撮影チームは帰り、ここに四人で泊まる。午後からは近くの川に釣りに行く事になっていた。
優華だけロッジに残り、夕飯の支度。三人は釣りに出かけた。美琴は川釣りが初めてで、とても楽しんだ。柊一と光瑛は慣れていて、たくさん川魚を釣った。釣りの間にもいろいろな話をして、会えなかった時間を埋めていた。幸せな時間だった。
たくさんの川魚を土産にロッジに戻る。優華がバーベキューの準備を済ませてくれていた。美味しい料理とお酒を堪能し、庭先で花火もした。夏の思い出を一気に作っている感じだった。山の夜は涼しく、星空が綺麗だった。
柊一はすっかり酔って、リビングで眠っていた。優華と一緒に片付けを終わらせて、コーヒーを入れ、デッキでギターを弾く光瑛の側に座った。
リクエストは?といわれ、初めてライブで聴いて涙した、あの曲をリクエストした。彼は、優しい声で弾き語った。嬉しくて切なくて、涙が出そう、そんな風に思いながら夏の夜を終えようとしていた。
本当に幸せだった。忘れられない夏になった。




