第15話 やっと会えた
次の日の朝、美琴は出勤しながら、光瑛の事を考えていた。私、冷静にいられるかな、と少し緊張していた。朝の引き継ぎが終わり、それぞれ担当の部屋に向かう。美琴は前日に引き続き特別個室担当だ。光瑛の部屋に行くのを少しためらい、後回しにしようとしていた。が、
「特別個室の患者さん、検査呼ばれたわよ」
と同僚が声をかけてきた。
「あ、わかった。」
光瑛の検査の順番が来たようだった。避けて通れぬ道か…と思い彼の部屋に向かった。
部屋の前、深呼吸してからノックし入ると、彼はベッドで眠っていた。少しホッとして点滴をチェックしてから、しゃがんで寝顔を見た。穏やかに眠る姿、可愛い、そんな事を思っていたら、また涙がじわりと出てきた。すると彼が目を覚ました。
光瑛は目を覚ますと目の前にあの彼女がいて驚いた。そして泣いているのに気づいた。美琴は驚いて、顔が近かったので離れようとした。だが、彼は彼女の腕を取り自分の方に引き寄せた。じっと見つめ合う。美琴の涙はすっかり止まり顔がどんどん火照る。光瑛はそのまま彼女を抱きしめ言った。
「やっぱり君だった。夢じゃなかった。」
美琴は一瞬身体を強張らせたが、そのまま素直に彼に身体をまかせた。やっと、会えた…そんな風に二人とも心で思っていた。ほんの数分の出来事だった。
館内アナウンスが流れた。回診が始まるようだ。二人は我に返ったように身体を離した。現実に引き戻された。美琴は、
「け、検査に呼ばれたので、ご案内します。」
と告げた。
「あ、はい…。」
光瑛はそう言って、美琴に従って検査室へ向かった。
彼女はここの看護師だったのか。さっきも泣いてたし、やっぱり昨日僕のところで泣いてたのも彼女だったんだ、そんな事を考えながら彼女の後ろ姿を追った。検査室に到着し、
「佐倉光瑛さんです、お願いします。」
と窓口に声をかける。
「呼ばれるまでここでお待ち下さい、終わりましたら病棟に戻ってきてください。道順、わかりそうですか?」
「あ、大丈夫だと思います、ありがとう。」
美琴は一礼し、その場を離れた。彼がじっと後ろから自分を見ている事が何となくわかり、つい早足になってしまった。病棟に戻る道すがら、病室で抱きしめられた事を思い出しドキドキが止まらなかった。それと同時にやっぱり彼の事が好きだ、と切なかった。
彼は検査が済み、特に異常もなかったので、医師から退院の許可が出た。マネージャーが午後迎えにくる。点滴も終わり、抜針していると、
「名前、杉原美琴さんて言うんだね。」
名札を見てそして美琴の顔をじっと見つめる。美琴は見つめられると恥ずかしくて顔が見られない。
「もっとゆっくり会いたい。ダメかな?」
と言った。美琴は嬉しかったが、とても悩んでいた。さっきみたいにされたら、きっと拒めない、そうしたら私も自分を抑えられなくなるかも。何となく怖い、そう思って即答出来ずにいた。
その時、ノックの音がして、柊一が入ってきた。
「光瑛!」
と光瑛に駆け寄り、抱きつく。
「よかったよ、目も覚めたし、元気そうだ。仕事も今日から休みもらえたし。」
と嬉しそうに話す。
「やめろよ、じゃれるな。」
と光瑛の照れ臭そうな顔をみて、美琴は、ついフッと笑った。仲がいいのだな、と思った。
「昨日の看護師さん!お世話になりました。」
「いいえ、よかったですね。」
美琴は笑いを堪えて言った。柊一は、ふと光瑛を見ると、何故か自分を睨んでいる。美琴が部屋を出ていく。
「あ、あの!」
と光瑛が言うが、美琴は聞こえなかったのかそのまま出て行ってしまった。光瑛は、
「お前なぁ、タイミング悪いよ、もう少し遅くでもいいのに。」
とため息をついた。迎えに来たのに、不満気に言われ、
「お前が相談あるから早く来いって言ったんだぞ?」
と言い返した。光瑛はああ、そうだった、と思い返して頭をかいた。
「あの、看護師さんの事、ナンパしてたのか?」
とニヤニヤしながら聞いてきたので、
「違うよ。」
と腹立たしそうに言った。
「なんて人?可愛い人だよね。」
と冷やかす。
「杉原美琴さんて言うんだ。」
と言うと、柊一がとても驚いていた。
「え?彼女、美琴さんて言うの?それって、あの美琴さん?」
光瑛は何故そんなに驚くのか不思議に思った。
「お前、知ってるのか?彼女の事。」
と聞くが、柊一は考え込んで返事をしない。柊一は、美琴って名前、優華から聞いていた光瑛の前世の恋人の現世での名前と同じだ、それに看護師って言ってた。こんな事ってあるのか?とあまりの事に黙り込んでしまった。
「おい、どうかしたのか?お前が黙ると変な感じだ。」
光瑛は着替えながら話す。まだ考え込んでいる柊一に、余計に気になってしまい、
「なあ!」
と声を強めに話しかけた。
「あ、悪い。あまりの事に驚いて。ちゃんと説明するから。ちょっと座らせて。」
と椅子に座った。
柊一は今までの事を全て話し始めた。優華には前世の話はしないでと口止めされていたが、もう黙ってはいられなかった。あんなに会わせようとしてもうまく行かなかったのに、二人は自力で会ったんだ、俺たち、あんなにやきもきしていたのに…、そんな事を思っていた。
光瑛は柊一の話を、最初は狐につままれたような顔をして聞いていた。だがだんだんと話に引き込まれていた。彼女との衝撃的な出会いや、夢でみる湖、彼女と会うたびに感じる愛しさ。全てが繋がった感じがした。
光瑛は、ライブでいつも探していたのは、さっきの彼女だと言った。柊一は更に驚いた。たしかにいつも誰かを探していたのは知ってたけど、まさか彼女だったのか、前世の事、全く知らなくても、魂の片割れって、ちゃんと自分で探し当てるんだな、と驚いていた。光瑛は、
「彼女は結婚してるよな。もし自分が彼女を知りたいと思えば、彼女には迷惑なんじゃないか?でも、この感情や出会いの不思議をもっとちゃんと話したい。でも、どうしていいかわからなくて。」
と言った。
「それは彼女も同じじゃないかな。最近まで気持ちが塞いでて仕事以外は引きこもっていたそうだよ。ライブでも見かけなかっただろ?」
と柊一が話す。
「辛かったんだな。だから俺を見ては泣いてたのか。」
画廊での事を思い出していた。
柊一は、二人を出逢わせられなくて申し訳ないと思っていたけど、やっぱり出会いが遅いのにはそれなりに訳があるように感じていた。こうして時期がくれば出会うのだ、自分だって、優華と出会えてまた結ばれたいと思っても、何故かそこまでの気持ちにならない。今の自分は自分だ。だから、今の自分がどうしたいか、決めればいい、そう光瑛にも話した。自分にも言い聞かせるように。
話を終えて、意を決して光瑛は彼女に手紙を書く事にした。彼女の仕事場で直接話すには様々な危険もありそうだ。退院の迎えが来るまでの間に、今までの事や今の気持ちを正直に全て書いた。
退院の時、着替えた病衣に手紙を隠して、美琴に渡した。
「色々お世話になりました。あとで読んで。」
と小声で言った。読んでって?と思い病衣を見ると手紙が挟んであった。美琴は気づき、ポケットに急いで隠した。胸がドキドキしていた。
柊一に連れられて、光瑛は帰って行った。病棟スタッフは、芸能人が帰って残念ね、など話していたが、それもほんの少しの間のことだった。




