第13話 現実
前世体験後、数日が過ぎた。前世を知ったからといっても、日常が忙しい生活なのは変わらない。むしろ忙しい方がいい、と美琴は家事や仕事に没頭していた。そしてあっという間に毎日は過ぎていった。
優華は柊一と相談して美琴と光瑛を会わせようとした。しかしセッテイングしようとしたがうまく日程も取れない。さらには美琴が応じなかった。会ってもどうしようもない、仕方ないとどこか冷めきっていた。光瑛にも前世の話は絶対にしないで欲しいと、優華を通じて柊一に頼むほどだった。そしてライブからも遠のいた。彼の歌を聞くのが辛かった。
美琴はどんどん毎日が投げやりになり、表情も暗くなっていた。前世に振り回されて後悔ばかりし、自分を見失いかけていたのだ。
そんな元気のない妻を見かねた夫が、心配の余り、絵の個展のチケットを用意してくれた。それは光瑛が趣味で描いている絵の個展だった。美琴は驚いた。ライブのチケットの時もだったが何故?と不思議だった。単に夫は、この間のライブの後、美琴が幸せそうにしていたのを思い出したからだった。だが現在ライブはちょうど開催されておらず、調べた所、光瑛の個展が開かれている事がわかった。光瑛はライブの合間にたまに個展を開いていた。
荒んでいく美琴を見兼ねて、夫は気分転換に出かけて来なさい、と今回は強めに勧めて来た。夫は美琴の事が心配でならなかった。だが、自分では何をやっても美琴を浮上させられなかった。美琴が元気になれるなら、誰の力でもよかった。
しかし光瑛に関する事に触れたくなかった美琴は、また自分の気持ちが揺らいで辛くなるのが嫌で行きたくなかった。だのに、夫はいかないとダメだ、と、強く言い続けた。夫自身もなぜそこまで、と思うほど、光瑛の個展へ行くように説得していた。美琴は仕方なく出かける事にした。そうは言っても美琴は一人で行くには辛い為、優華を誘った。
都内の画廊。個展は混んでいた。彼の絵は、彼の歌のように優しい。見ていると暖かい気持ちになる。美琴は見ると辛さが勝つかと不安だったが来て良かった、そう思っていた。絵を見て落ち着く美琴をみて優華は少しホッとしていた。
すると何かざわざわと人が集まりだした。なんだろう?と近づくと、なんと、光瑛が来ていて取材を受けていたのだ。一つ一つ絵の説明をしながら取材に応えていた。その周りに彼のファンが集まっていた。
美琴は驚いた。会いたくないと思っているのに会ってしまう。これが魂の片割れの引き寄せる力なのか?美琴の顔は青ざめ、彼らの近くから離れた。
すると、一枚の絵に目が止まった。それは美しい湖の描かれている大きな絵だった。
なぜ、この湖の絵が?何度も夢で見た湖、前世体験の時にみた湖だ。美琴はその絵に立ち止まり絶句した。どのくらいその場にいただろう、気づけば取材の波がその絵の所にまで来ていた。美琴は、その場を離れようとしたが、人混みに巻き込まれてしまった。美琴は光瑛が見えないように背を向けた。光瑛が、湖の絵について説明する声が背中越しに聞こえてきた。
「この湖が何度か自分の夢に出てきて、かなり印象的だったので、実在するのでは、と探してみました。そしたら本当に実在していたんです。なので、現地に行って取材したんです。この絵の題名は、待ち人。現地の取材で、そこがある貴族の持ち物で、その子孫によると、湖のほとりで先祖の女性が愛する人を待ち続け、最後まで再会できなかったそうで。その切なさが伝わる、青々とした美しい湖でしたよ。」
と話していた。
美琴は、背中に彼を感じながら、あの湖の事を光瑛の口から聞くとは思わず、涙があふれた。優華は心配し、彼女を促しその場から離れた。
光瑛は、ふと背中に何かを感じ、振り向いた。あの彼女がいた、涙を流している。何故?気になるが、こんな状況のため、声すらかけられなかった。
取材が終わり、慌てて外へ出てみた。もちろん彼女はもういなかった。だが涙の理由がとても気になった。そして光瑛は、今まで勇気が持てず動けずにいたが、彼女を必ず探して想いを伝えると決意した。ただどうすればいいかは分からず途方に暮れていた。
美琴は帰宅したが、あまり元気になっていない様子を見て、夫は残念に思っていた。元気がない原因が分かればと思うが、美琴が打ち明けるはずもなかった。夫は何もできない自分に腹が立ちながらも、見守るしかなかった。




