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第12話 魂の片われ

 それからというもの、彼はほぼ毎夜、バルコニーに現れた。以前と同じように楽しい話を聞かせてくれ、私を笑顔にしてくれた。

 彼は、変わっていった。彼の歌が愛を知って誰をも感動させるものとなっていた。彼の少し冷めていた人柄も人を思いやれるものに変わっていた。私も彼を愛してからは、自分を好きになれた。私はずっと誰かに必要とされたかったのだと思った。そうわかると周りの人達がいかに自分を大切にしてくれていたのかよくわかった。


 私たちはお互いに離れられなかった。夫のいる身でこれ以上を望めないのはわかっていた。身分も違う。父と世間の風当たりの強さも変わらず辛かった。ただ側にいるだけで、お互いに幸せだった。

 楽団はかなり有名になり、ある時、王室から声がかかった。とても名誉なことだ。楽団の皆は喜び、王室で演目を披露した。王室じゅうのゲストから大喝采だった。

 それからは王室御用達となり、頻繁に王室にあがるようになった。少しずつ子爵家のサロンから遠のいていった。王室に抱えられると子爵らパトロンとしての立場ももちろんなくなった。私は彼になかなか会えなくなって少し寂しかった。

 だが彼は変わらず暇を見つけては私の所に通ってきてくれた。彼も私に会いたかったのだ。


 楽団は王室から他の国へ派遣される事も度々だった。国から国へ、長旅になることもあった。そうなると益々会えなくなった。

 そんな中、徐々に私は体調を崩し、森の奥の別荘で静養をすることになった。彼は私を心配し出来る限り側にいるようにしてくれた。会えない時には手紙を書いてくれた。彼の手紙は、彼の詩のように愛に溢れていた。会えずとも幸せだった。


 夏の終わり、彼はまた遠方へ演奏会のため立つ事が決まっていた。長旅になると知らされた。私は寂しかったが笑顔で喜んだ。世界中の人に彼の歌を聞かせたかった。彼が誇らしかった。

 旅立ちの日までの間、使用人達は二人に少しでも幸せに過ごしてもらおうと色々と気を回してくれていた。皆にこんなに愛され大切にされている。私は素直に嬉しかった。

 別荘から見える美しい森の湖は青々としていた。私は人生で一番楽しく幸せな夏を過ごした。

 彼の旅立つ前夜、二人は初めて結ばれた。私は愛する人と心身共に繋がる事がこんなにも幸せなのだと初めて知った。それは彼も同じだった。今までの人生でこれ程までの幸福感を感じたことなどなかった。それゆえ、離れがたく感じ切なかった。だが、それが最初で最後の夜となるとはその時は分からなかった。


 別れの朝、私は彼に祖母の形見の青い石の指輪をネックレスにして、

「私も一緒に旅に連れて行ってくださいね。」

と笑顔で彼の首にかけた。彼は、その私の手を取り、

「いつもここに、貴女を想っています。離れていても。手紙をまた書きます。」

二人は別れ際、キスをした。もう二度と触れられないと知っていたかのように、最後だとわかっていたかのように長く優しいキスを交わした。胸元で、湖のように深い青色の石が切ない程美しく輝いていた。二人とも涙は見せなかった。


 それから数ヶ月後、近隣で戦争が激化していた。巡業中、彼らは戦闘に巻き込まれた。彼は彼女を思いながら戦地に散った。

 私はそれを知らないまま毎日彼を待った。また必ず戻ると約束していた。信じていた。


 楽団が王室に戻らず、世間は、報酬に目がくらみ他の国に留まったのではとか、戦争に巻き込まれたのではとか勝手に噂した。

 そのどちらにしても私には彼がもう帰らないとは信じられなかった。しかし手紙が一度も来なかった。とても不安だった。だが眠ると彼が夢に現れ優しく抱きしめてくれた。眠っている間は安心できた。ただ目が覚めると彼はいない。彼が帰ると約束した別荘で、毎日窓から湖を眺めていた。春は美しい花が咲き乱れ、秋には枯葉に覆われ、冬の湖は寒く、風は冷たく、心を凍らせた。季節は過ぎていく、でもきっと会える、そう信じて最後まで別荘で過ごした。そしていつしかあっけなく逝った。

 死を迎え、私は初めて気づいた。彼は魂となりずっと自分の近くにいたのだ。私は寂しさや不安から、気づけずにいたのだった。

 彼は身体は帰れなかったが、魂となり愛する彼女をずっと見守っていた。

 彼は、言った。

 やっと気づいてくれた。ずっと側にいました。私と貴女は、魂の片割れ同士。だから、必ず一つに還るのです。どんなに離れていても魂は繋がっているのです。だから、きっと生まれ変わっても、貴女を見つけます。貴女が誰になっていても貴女だとわかります。貴女もきっと私を見つけられるでしょう。だから、大丈夫です。

 彼の言葉を聞くと、私も魂となり、彼の魂と重なり合った。肉体のそれとはまた違いまるで溶け合うように一体になっていた。魂の片割れという意味がよくわかった。そして二人は共に魂の故郷へ旅立ち、再会を約束して新たな人生へ生まれ変わっていった。


 催眠が解けても美琴は、涙が止まらなかった。私にとって光瑛がどんな存在だったか。だからこんなにも光瑛が愛しくてたまらなかったのか、だからあんなにたくさんの人の中から彼を見つけられたんだ、と、今までの事を思い出していた。

 そして、現世でも自分が彼と結ばれない事を悔やんだ。どんなに魂が一つと言っても、こんなに愛していても、側にいられないのは、やはり切なかった。自分の勇気のなさを責めた。

 優華は、柊一と自分が繋ぐべきはこの二人だったのか、何故もっと早く気づけなかったのか。美琴の涙を見ながら、子爵や、踊り子の罪悪感は拭えないままだった。


 柊一に連絡を取り、全てを話した。柊一は驚いていた。

 だが、カルマの解消の為生まれ変わったとしたら、何故二人はまた結ばれていないのだろうか?魂の成長のために仕方ない事なのだろうか?考えても答えの出ない問題に、優華と柊一は切ない気持ちになっていた。

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