アレンと言う子供
6話です!!
自分的にはなかなかいいペースで投稿できてるんじゃあないかと思いつ、毎日更新したい気持ちもありつ。
日も落ちて。
パチパチと竈の火と、獣避けに分けた焚き火が音を立てている。
マサールとアレンはスープが茹だるのを待つ間、切り株に腰掛けて、余った具材に香辛料をふって焼いたものを、ヴァルターには内緒でこっそりと摘んでいた。
慣れないことばかりで気を張っていたせいか、ひと段落ついたところでアレンの腹が盛大に鳴ったのだ。
肉の欠片にかじりつきながら、アレンは今何故ここにいるのか、ぼぅっと考え出した。
アレンは不幸とは言えないが、幸福な子供ではなかった。
三歳の頃には母親が、あちこちの女に手を出す父親に、愛想を尽かして出ていった。
四歳の終わりには弟を連れて継母がやって来て、何かされたわけではなくとも、アレンが察する程度には家の空気が変わった。
それまでアレンを取り巻いていた大人たちが、弟のご機嫌を伺うようになって、子供たちもそれに倣ったのだ。
アレンはその時から10歳に至った今日まで、ひとりぼっちだった。
そして、今も一人寂しく、少しばかりの生活費と今後の養育費の取り決めをした契約書を持って、ヴァルターとマサールに預けられている。
他の明日のことすら分からないような浮浪児や、母親にすら見捨てられてゴミ置き場に転がっている赤子に比べれば、アレンは恵まれていた。
しかし、己があの町では幸福な部類に入る。と、諦めるにはあまりにもアレンは幼かったのだ。
アレンは眠っているヴァルターを見て、ぽつりと呟いた。
「マサールおじちゃん。ヴァルターおじちゃんも寂しかったの?」
アレンは聡い子供だ。
よく人を見て、心の内側にあるようなものをいとも簡単に見つけ出してくる。
アレンは現在のヴァルターの中の孤独を見つけたのかもしれなかったし、自分と近いような、遠いような何かを見つけたのかもしれなかった。
「……もしかしたら、そうかもな。起きたら聞いてみな?」
「やだよ。怖いもん」
そりゃ、違いねぇ! と、マサールが膝を叩いて笑った。
――でも。
アレンが続けた。
「僕、ヴァルターおじちゃんみたいになりたい」
「怖くて、寂しそうなのに?」
「うん」
アレンはヴァルターのことが恐ろしかった。
それでも、その背中はアレンの目には大きく映ったのだ。
アレンが本格的にヴァルターへの印象を変えたのは、今日、昼を過ぎた頃の話に戻る。
荷車を止めロバに草を食わせ、自分たちも軽く昼食を取った後。
さて、先を急ごうかと言うところで、突然草むらから魔物が飛び出して来たのだ。
体高1mはあろうかと言う巨大な兎の魔物。
比較的弱い部類で、人里にも度々降りてくるため、食肉として狩られることは多かったが、それでも一般人にとっては大熊に会ったのと大差ない。
アレンは魔物を見たことがなかったが、魔物に出会ったら逃げながら神に祈れと、耳がタコになるほど聞かされてきた。
獣のようにジリジリと後退れば逃げ切れるなどと考えてはいけない、出会ったら神の救済を祈るしかない。
魔物はそう言う生き物だった。
いきなりの遭遇に、アレンは理解が追い付かなかった。
頭が真っ白になる。まさにそんな状況だった。
マサールの体も固くなり、姿勢を低くして腰の短剣に手を掛ける。
じり、と緊張した空気が音を立てた気がした。
額から顎にかけて汗が一筋、たらり、と流れた。
「いい所に来たな」
そんな中、ヴァルターが笑った。
荷車で小さく凝り固まった体を伸ばしながら、背中に回していた大太刀に手をかけ、ゆったりと、リラックスした様子で荷車から降りた。
すらり、と抜かれた刃が晴天の空を反射して、アレンは目をすぼめた。
そして、
とぷん
その音だけを残して兎の首と胴体が離れて転がっていた。
ただそれだけだ。
「マサール、血抜きを手伝え。今日の晩飯はこいつで決まりだ」
冥府の大太刀と、二つ名が付くほどに戦場で暴れ回り、生き残る強さ。
アレンが恐怖を感じる間もなく、ヴァルターの手によって、危険は去ったのだ。
今は、竈の上に乗せた鍋が、ふつふつと煮立って、鍋の蓋を持ち上げている。
その度に、乾燥トマトと兎肉の美味そうな香りが鼻に届いた。
アレンは憧れたのだ。
男なら誰しも一度は夢見るものの形に。
マサールは吹きこぼれそうな鍋を見て、慌てて切り株から立ち上がると、蓋を取って匙で掻き回し、未だ寝転がっているヴァルターと背中側にいるアレンに声をかけ、焚き火の明かりを頼りに食事を始めたのだった。
ここまで読んで下さってありがとうございました!
もしお気に召したら、ブックマークや↓の☆を★にして評価お願いいたしますー!