理解
第4話です!
不定期更新なので、よければ最新話以外のチェックもお願いします!
こちらの話も完結後に加筆修正、書き下ろしをして書籍化することが決まりました!
来夏と同じく宵闇書房様よりです。
よろしくお願いします!
登り切った朝日を背に、ヴァルターたちは草臥れたロバたちに引かれた幌付きの荷車に揺られていた。
地主の息子とは言え見捨てられたあの町の人間が、まともな馬車や馬を持っているはずもない。
まるで、農作業にでも出るような見てくれの、粗末な荷車に大の男が二人と泣き疲れて眠る子供が一人。
地主の息子、アレンはヴァルターを見るなり泣き叫んで、体力が尽きるまで泣き続けて寝落ちたのだ。
一見するとヴァルターの不機嫌な相貌と相まって、まるで人さらいのようにも見えた。
ヴァルターは手に持っていた地図を丸め、御者をしているマサールの肩を叩き、そのまま手渡した。
「マサール、街道に出たら山沿いの道へ迂回しろ」
「なんで? 川沿いのルートの方が近いだろ」
「そっちは鉄砲水で橋が沈んだ。橋の手前を盗賊が狩場にしているから面倒だ」
「あんた意外だな」
「どう言う意味だ」
「黙ってるかと思った」
「……お前は見た目より性格が悪い」
マサールは今朝までの怯えっぷりを忘れたかのように、ニタリとイタズラが成功した子供のように笑った。
この数時間で、マサールの中でヴァルターの印象はすっかり変わっていた。
不機嫌な顔に脅すような言動が変わったわけではないのだが、眠るアレンに上着を1枚掛けてやっているのを見て、少し試したくなったのだ。
マサールはそう言った己の感覚を信じていた。
きっと、ヴァルターは自分たちを悪いようにはしないと確信があった。
ヴァルターは少し不機嫌な顔をして、乗り出していた体を元の位置に戻し、懐に入れていた煙草に火を着けると、ゆらゆらと煙を吐き出しながら、同じような続く荒野に視線を向ける。
見捨てられた町から都会の街まで、丸々一日半。
1回の野宿を挟んで、二回目の夕日を見る頃には到着する予定である。
近頃は盗賊に加え、山の方から魔物も降りてくると聞く。
つい最近まで小競り合いが激化していたせいか、山に逃げた脱走兵の味を覚えた魔物や獣が麓の村まで降りてくることがあるのだ。
魔物と言えば、獣より、下手をすれば盗賊よりも達が悪かった。
人語を理解するほど知能があるものもいれば、人を惑わすものも、単に恐ろしいほど怪力のものもいる。
ヴァルターの身の丈よりも遥かに大きな熊を相手に立ち回るより、小脇に抱えられるような魔物のほうが厄介であった。
動物の括りに入れられないもの、悪魔に魅入られたとされるものを総じて魔物と呼ぶ。
それを専門に狩る狩人は魔物狩りと呼ばれ、繰り返し魔物の血を浴びる度に、人ならざる力を宿すと言われていた。
実際に魔物狩りは強者が多かった。
人から人へ話が伝わる度に、魔物への恐怖と相まって尾鰭がついた噂話なのかもしれないが、ヴァルターはそんな強者でさえ手を焼くものとお荷物二人を連れてかち合いたくはなかったのだ。
「なあ、ヴァルター。あんた、何でそんなに戦場にこだわるんだ。平和で実入りのいい護衛だって、俺たち傭兵にとっていい仕事だろ?」
「敵の首を切り落とす瞬間が一番生きてんだよ」
ヴァルターはちらりとマサールを見て、さほど興味も無さそうに言った。
マサールは驚いたように言う。
「あんたほどの男が傭兵の病にかかってるって?」
はぁ、とマサールはため息をついて、頭を掻きむしった。
マサールには、あの血と埃の臭いのする戦場に生を見出す感覚が全く理解出来なかったのだ。
戦場に酔ったように命を散らして行く傭兵は少なくない。
その大半はヴァルターのように名を上げる前に、怒声と土埃の中、地面に倒れて二度と起き上がらない。
それでも、僅かばかりの金銭と引き換えに何度も戦場に向かう者たちを傭兵の病にかかったのだと揶揄するのだ。
「悪いか? 生憎、これ以外の生き方は知らないもんでな」
「あんたの自由だが、俺には理解できねぇわ」
そう言って二人はまた無言になった。
アレンはすぅすぅと眠り続け、荒野は何の変わり映えもしないまま、時間だけが過ぎていく。
時折、ポツポツと言葉を交わしながら、荷車は進んで行くのだった。
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