二人の傭兵
毎週水曜日投稿と言っていたのですが、ストックが思っていたよりも溜まりそうですので
「週1以上、不定期」
に、投稿頻度を変更します!
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水曜日21時は絶対投稿しますが、それ以外は決まっていないので是非ブックマークお願いします!
来夏、同じ世界観で別のストーリーの話を書籍化予定です。
ティザーやデジタルサイネージ広告もあるらしいのでわくわくしてます!
第3話
薄暗い酒場の一角に、ヴァルターは居た。
手にした木杯に残る安酒を、何度も口に含んでは舌で転がし、飲み干さないまま置く。
ヴァルターは分かりやすく不機嫌だった。
「……こんな依頼かよ」
依頼主が置いていった羊皮紙を、ヴァルターはもう一度手に取った。
そこに書かれているのは「地主の息子を街まで護衛する」という、やけに穏やかな内容だった。
戦火の中を生き抜く傭兵が、子供のお守りに駆り出されるのか。と、ヴァルターは内心で舌打ちし、残った酒を一気に煽り苦虫を噛み潰したような顔をした。
大して味もしない、酒精を水で伸ばしたような安っぽくてツンとした味にも苛ついて仕方がなかった。
それでも、人として生きる以上、金がなければ生きていけない。
あの安宿にだって、今まさに煽った酒にだって、対価は必要だった。
戦場だけでは稼げない時期もある。属国同士の小競り合いが一段落つくと、つまらない仕事しか残らない。
ヴァルターはこう言った仕事を毛嫌いし、力だけの世界に無理やり土足で立ち入られたような腹立たしい気分になった。
いつも、この気分にだけは慣れない。
つい昨日戻ったばかりだと言うのに、血と火薬で煤けた戦場が恋しかった。
「ヴァルター・ゴーウェンか?」
頭の上から聞き覚えのない声がした。
顔を上げると、そこには一人の男が立っていた。
20代後半ほどだろうか、顔には多少の年季が見えるが、どこか柔らかな雰囲気を漂わせている。
だが、その表情は固く、張り詰めていることが見て取れた。
「お前が、今回の同行者か?」
ヴァルターの低く抑えた声に、男はわずかに肩を揺らした。
逃げるような仕草は見せないが、できれば逃げたいと顔に書いているようであった。
「マサールだ。今回の依頼で、お前と一緒に行動するように言われた」
「つまらねぇ子守りだとよ。俺が剣を抜くことは無さそうだ」
ヴァルターは鼻で笑った。
血なまぐさい戦場に比べ、子守りとさほど変わらぬような護衛などヴァルターにとって、退屈で、苦痛で、金払いがよくなければ目の端にも入れたくないような話だった。
目の前の男は、どう見ても傭兵には見えない。
鍛えてはいるようだがヒョロっとした痩躯で、余りにも頼りない。
わざとらしく逸らされた目もオドオドとして、ヴァルターに対する警戒が滲んでいる。
「護衛……。あんたにとっちゃそうだろうが、俺にとっては身入りのいい得な仕事でね。そんな風に不機嫌にされちゃやりづれぇよ」
マサールはそう言ったが、その声にはやはり微かな震えが残っていた。
ヴァルターはその様子を無言で、じろり、と睨めつけた。そして値踏みをするように、足先から頭まで視線を這わす。
「……まあ、いい。お前の仕事ぶりを見てから判断してやる」
ヴァルターは立ち上がり、剣の柄に手を置いた。
その動作だけで、マサールは息をヒュッと詰めて後ずさった。
ヴァルターの体は一際大きく、鍛え抜かれた筋肉も相まって、歩いているだけでも威圧されてしまう者もいる。
平均的な身長に僅かに足りないような体躯をしたマサールにとって、目の前でヴァルターが立ち上がると巨大な壁のように見えるのだ。
「何を怖がってんだ。あんたを斬るつもりはねぇよ、契約があるうちはな」
そう言って、ヴァルターは軽く肩をすくめると、少し馬鹿にしたように笑って、マサールの前を通り過ぎて酒場を出た。
朝焼けの空が少しずつ色を濃くしていく。
「行くぞ、マサール。のんびりしてる暇はない」
ヴァルターはマサールを振り返り、着いてきていることを確認すると、登ってくる太陽に目をすぼめながら歩き出したのだ。
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