表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一話:分からない事ばかり。

大変長らく更新出来ずに申し訳ありませんm(__)m

かなり執筆が遅いことに漸く気付きました。

次話も努力致します。

一話:知らぬ存ぜぬ魔法の世界

◆アンジェ・エルフィール


 後頭部から机の角にダイブする数分前迄、私は羽貫楓という名の女だった。

 幼少期から我が道を往く生き様を貫いた為に、メンタル面は強くなったが周囲と波長が微妙に合わない独特な人物になってしまった。

 故に園児の頃から浮き始め、小学生になれば群れることは殆どなくなり、中学生以降は話しかけてくる人は減っていった。人並みに社会性や協調性があるとしても、人脈も話し相手もない上に事態の解決もしていないのだから当然である。高校生になれば完全に孤立した。

 何故こうも人と深い関係になれないのかと、父親に相談したことがある。曰く、「雰囲気というか……オーラが、世紀末でも戦えそうだから?」らしい。解せぬ、か弱き乙女だぞ。

 そんな私だったが、幼馴染みの親友はいる。

 それこそが、小日向凛ちゃんである。


「楓ちゃん!この前のゲームが凄く良かったんだよっ!だから楓ちゃんもやろうよ、乙女ゲームぅ!」


 確か、高校の放課後に、興奮治まらない小日向ちゃんは目を輝かせて私に催促していたんだ。

 楽し気に「絵がとっても綺麗でしょ?」と言って、こっそり持ってきたパッケージを見せて、人物紹介やら魅力やらを丁寧に語ってくれていたが、あまりにも多い情報を矢継ぎ早に捲し立てられても憶えられそうにない。実際、憶えていないから困っている。ごめんね、小日向ちゃん。

 

「相変わらず元気だね、小日向ちゃん。参考にしたいから感想を聞きたいな、どうだったの?」

「えっとね、まずはストーリーが良いっ!主人公の■■■ちゃんが魔法の学校で超カッコ良くて素敵な王子様達と日々を過ごすんだ。世界を滅ぼそうとする魔王を倒すために、勉強したり、魔物を倒したりして絆を深めてハッピーエンドを目指すの」

「ほほう。一番記憶に残る敵が居たなら教えて?」

「うん、エルフィール伯爵家のアンジェちゃんが私にとって一番かな。学校でも会うんだけどね、その子はとっても……やっちゃった!ごめん忘れて今すぐに!ごめんってば!」


 謝る必要はないと制そうとし、パッケージの角に描かれていた少女の姿が気になり、チラリと見ると彼女は慌てて隠した。


「待って忘れるまで見ないで、アンジェちゃんは見ないでっ!」

「なるほど、あの子がアンジェか」

「忘れてってばっ」


 簡単に乗せられてネタバレしてくれるおっちょこちょいな小日向ちゃんから得た、『愛誓う君へ、永遠の魔法を』についての情報はこれで以上である。


◇◆◇◆◇


 思えば、そのやり取りがあったからこそ、私がアンジェになっていると気づけたのか。

 

「ふむ……」


 判断材料は無かった。

 尚更こんな所にいられない、逃げなければならない。

 当たり前だろう、破滅やら死去する可能性が高い場に無知識で放り込まれた一般人がどうにか出来る筈もないだろうが!

 困ったなんてものじゃない。死活問題だ。文字通り、生きるか死ぬかである。

 訳も分からず死ぬなんて、大変、非常に、御免被る!

 故に私が主人公側と敵対する訳を知りたい。物事を円満に平和的に解決するにはこの場で役立つ知識が要る。

 先ずは情報だと、書庫やら何やらに飛び込み本という本を漁らなければならないと考えたが、そもそもこの世界の、この国の公用語が日本語でない限り読めない知れない意味がないのないない尽くしで骨折り損だ。

 ダメ元で目を通すべきだろうが……そもそも書庫も図書館もあるのか分からない上に、敵味方が不明という状況で誰彼構わず訊きに回るのは不味いだろう。そもそも何故敵対するのかすらも知らない訳だからな……。


「せめてプロローグ迄はやらせろ、クソめ」


 思わず悪態をついてしまったが、こればかりは仕方がないだろう。

 

「ええい、何故だ……何故よりによってプレイ前のゲームの敵なんだ!」


 神の罰とでもいうのか。 

 親友の頼みを忘れ、放置していた私への罰か?

 そうだとすると納得出来る。けれど、一身上の不幸を小日向ちゃんのせいにしたくない。全てにおいて私の責任……いや、こんな嫌がらせをする神々等々にも責任があるのではなかろうか?

 事態の解決が必要である。大至急責任者求ム。暴力に訴えてくれるわ。

 ……いい。出来もしない犯人捜しより、問題解決が先だ。

 出来ることなら、失踪は最終手段としたい。


 世界救済及び私の破滅を担う主人公との邂逅を避けるのは困難を極めるだろう。

 未プレイ故に当然ながら顔も名前も知らない。 

 パッケージにイラストはあった筈だが、それがなかなか思い出せない。強いていうなら髪がそれほど長くない女の子だった。それだけなら殆どの女性が当て嵌まる。あまり意味の無い情報である。

 

 ならば、人々をなるべく刺激しないように立ち回ればよいのだ。

 清らかな精神で以て行動するが、敵を作り過ぎずに過ごせるだけの良き人間なのだとアピールしなければならない。

 学友全員から信頼されるカリスマ性と優しげなオーラを身に付けて余すこと無くその威光を放ち、巧みな話術で事を進めるコミュニケーション能力を存分に振るう。ここまでいくと最早教祖である。

 ……無理だな、そこまで出来た子にはなれない。なれるなら前世で孤立してない。

 

 乙女ゲームであるならば、恋愛要素を駆使して生存率を上げるのも手だとも考えたが、殿方を射止めて庇護下に入り、安心安全な生活を送ろうという発想は危険だ。

 登場人物の好みも知らない為に、知らぬ間に逆鱗に触れて敵と見なされる可能性がある。

 その上、顔も知らない主人公の恋敵となってしまったのなら、即敵対かつ破滅ルート直行であろう。

 そんな片道切符を買うために自尊心や私生活を投げ捨てて顔が良いだけの男に媚びへつらうのは、私の流儀に反する。

 好きでもない異性に易々媚びない、人の恋路の邪魔をしない、右の頬をぶたれたなら左側面を粉砕する事を信念に生きてきている。今更曲げては、今度は私の精神がぽっきり折れるだろう。よって、それはナシだ。


「……死にたくない」


 当然の望みが零れた。

 まだ、死んでなるものか。これ以上、死んでたまるか。

 ならば、もう、仕方がないではないか。


 失踪しよう。

 

 どれだけ怪しまれるかは定かではないが、国外脱出の算段を立てよう。食料装備資金を用意し、行方を眩ませ、身元不明な人間を匿い職を与えてもらえるような場所を見つけ出す。

 その為には追手を振り切る程度の魔法か何かを覚えるべきだろう。主人公達との邂逅という不安要素はあるが、魔法学園である程度授業を受けるべきだ。言葉が読めない通じないなら、その時に考えよう。

 そうと決まれば、先ず、ここが何処か確認するべきだな。

 

 周囲を改めて見渡すと、やはり寝室のようである。

 シンプルだが、柔らかく上質なベッド。ランタンの置かれた机。

 うむ、どれも全く見覚えがない。

 机に何か使えそうな物を置いていないだろうか?

 アンジェ・エルフィールよ、頼むから護身用の装備品は幾つか置いていておくれ。

 祈りと共に机に向かい、引き出しを覗いた。

 書物が二冊と縦長のよく手入れされたケース。

 中は、綺麗に整理されていた……というより、必要最低限に止めているようだ。

 本は後で読むとして、問題はこの如何にもな雰囲気のある容器だ。絶対に、何か素晴らしい物が収納されている筈だ。

 よもや、読めば秘伝の術を習得出来る巻物が入った幻の品なのではッ!?

 期待と共に丁寧に優しくそっと開けてみる。

 するとどうだろう、先端が細くなっている謎の棒切れが姿を現した。

 

「……なんだ、この……棒は?」


 アンジェは、ただのぼうきれを、てにいれた!

 期待外れもいいところだった。何だ、棒って。

 耐久性も攻撃力も無いように見えるので、武器としては心許ない。ハズレだったか?

 いや、待て。魔法学園、だぞ?

 アンジェは魔法学園にも登場すると、小日向ちゃんは言っていた。察するに、彼女は乗り越えるべき悪役でもあり、学園でそれなり優秀な生徒でもあったのだろう。

 魔法の扱いを学ぶというのに、魔法使いらしい物を持っていない事があるか。

 つまり、これが魔法の杖であるという可能性がある。考えてみればみるほどそうとしか思えない。


「うっひょう」


 変な音が口から漏れた。

 テンションが上がる。高揚する。最高にスーパーでハイなテンションになれる。

 これが魔法の杖ならば、一緒に保管していたあの二冊は教科書のようなものなのではないか?

 読み解き、理解し、実践したならば半人前以下の素人とはいえ、魔法を使って敵を倒したり、寄ったことのある街へ一瞬で移動出来るようになるかもしれない!

 これは非常に、夢がある。ファンタジーとは、こうでなくては!

 はやる気持ちを抑えて、杖をしまい、それなりに厚みがある本を手に取って開く。

 魔法の種類やら伝説やら何やらと色々知りたいものが多すぎるが、パラパラ捲るだけで分かる筈もなし。

 どんな物も、最初が肝心だ。

 先ずは、一頁目から読み始めよう。

 

「どれどれ、ふむふむ……ふ、む……………………」


 恐らく、文字なのだろう。横文字だ、それは別にいい。

 数式と象形文字と、場所も知らん遠い国の言語をごちゃ混ぜにしてくっ付け綺麗に整頓した碑文っぽい物の写し的なファンタジーアートと評したい程に、独特過ぎる言語がそこにはあった。

 端的に換言しよう、全く読めない。

 つまり、この国の文字を私は全く読めないという事が判明したわけだ。先程恐れていた事態になっている。

 何をどうしろというのか。あまりにもあんまりじゃないか。


 おお、恐らく私を転生させたであろう神かそれに類する皆々様方よ。

 翻訳くらいはしろ、ちゃんと職務を全うしないでどうする。


 泣きたくなる……というより、段々腹が立ってきた。

 いい加減にしろ、何をさせたいからこんな事をしでかす。

 この悪条件の中もがいた末に、断罪されて牢に放り込まれて首を跳ねられたとしたなら、這ってでも首謀者の元へ向かい、あらゆる所をへし折ってくれよう。是が非でも粉微塵にして掃き捨ててくれるわ!

 此処に何も使える物が無いなら、どうやって失踪したらいいというのか。

 ダメ元でクローゼットの中を覗いたが、服しかない。当たり前である。

 もうっ、もう……もういいや……。

 じゃあ、アレだ。せめて、扉の向こうに何があるか見よう。


 私の居るこの部屋が、寝室であることは分かる。

 外がかなりの悪天候であることも、窓を見ればどんな馬鹿でも大体理解できる。うむ、全く見えん。

 しかし、部屋から出た先には何があるかさっぱりなのだ。

 この部屋が何階なのか、隣に個室が並んでいるのか、そもそも立地は何処か、是非とも知りたい。今後の予定に影響する。主に、本編回避並び撤退方面で。

 願わくは、国境付近であれ……何なら知らない本編が始まる学園のある国から遠い所に建っていてくれ……。

 開く前に色々考え込んでしまっても進まない。先ずは寝室から出るのだ。

 生唾を飲んで、ゆっくりと扉を開ける。

 暗い通路は、辛うじて机に置いているランプの明かりで見える程度で、そこから先はよく見えない。

 此処は奥にある部屋であるらしく、前も左も壁しかない。

 それにしても暗すぎる。日照権はどうなっているというのか。

 ランプを取りに戻り、もう一度進むが、部屋一つ一つ誰も使用していないようであり、めぼしい物はなかった。

 突き当たりまで進み、恐らくは玄関であろう扉の前まで来てようやく分かった事だが、どうやら此処は離れらしい。貴族の屋敷にしては狭いし暗い。

 しかしここまで誰とも会うこともなく、調度品やら諸々の物品もない場に令嬢が独りとは不思議である。

 

 アンジェよ、何かやらかしたのか?

 そこまでされることをしたのか?

 

 ……不安になってきた。使いようが無いやもしれんが、杖を取りに戻るべきだろう。

 道中襲われては、生存率がグッと下がる。か弱い美少女なら尚更だ。何か魔法を放つ振りでもしていれば、襲撃者も警戒して迂闊に手は出せない筈。

 その隙に逃げる、絶対に逃げる。うむ、完璧な計画である。そして、運命から逃げ切った暁には必ずや魔法を学習し習得してみせよう。そうして、何処かへ旅をして……おお、何と夢のある未来……!

 しかし全く、私という奴は抜けている。己の身の安全を第一に考えているというのに、肝心な物を持ち出さないなど……。

 まあ、此処で誰かと遭遇することはない筈だ。人の気配がまるでない。物色するだけなら何とかなるだろう、大して使えそうな物が何もないが無いよりマシだ。

 こうしてまた寝室の前に戻ってきた訳だが、少し違和感を覚えた。

 私はドアを開けたまま外へ出た筈だがいつの間にか閉まっている。はて、誰が閉めたというのか。

 私が奇跡的に誰とも会わなかっただけであって、使用人の一人や二人いたのやもしれん……が、念には念を入れよう。万一があれば、前世でちょっかいやら嫌がらせやら気の迷いやらと矢鱈絡んできた不機嫌女共に振るいまくってきた事も無くは無い右ストレートをお見舞いしてくれる。

 ふぅ、と息を吐き、肝を据えて扉を開いた。


「……ん、待っていたよ」

「誰だよ本当に」

 

 我が物顔でベッドに横たわる、不鮮明なモノクロの人物がそこにいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ