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【短編】偉大なる大将軍の最後の晩餐~美味しさフレッシュ!セイ○ーマート~

※一部北海道民にしか通じないネタがあります、ご注意ください※


★6月3日コメディーカテゴリ日間ランキング6位ありがとうございます!

 

  ロードス・ガルシニアといえば、アルテナー王国きっての大将軍だ。


  魔王軍と勇猛果敢に戦い、領地を魔の手から守りきった。


  戦後、王国の姫との婚姻を望まれたが、「自分は戦争にしか役に立たない不器用者ですので」と固辞し、市井の娘を娶って、将軍の地位に留まった。


 その時、国王より辺境伯の位を与えられている。


  彼は魔王軍のみならず、王国を侵略しようとする他国の軍勢を退け、その度に令名は轟き、やがて『救国の大将軍』と呼ばれるようになった。


  ―――しかし、そんな彼も、寄る年波には勝てない。


  齢92歳の晩夏、軽い風邪を引いたあとに寝付いたロードス・ガルシニアは、あれよあれよという間に容態が悪化し、意識不明に陥った。そして、とうとう担当医師から、今晩が峠でしょうと宣告されたのだ。


「おじいさまは、これまでずっと王国のために戦ってこられた。そろそろ、先立たれたおばあさまの待つ天の国で、ゆっくり過ごされても良かろう」


  ガルシニア領本宅にて、集まった辺境伯の家族たちは、皆一様にうちひしがれていた。


  誰もが大将軍の人柄を愛し、尊敬していた。


  現ガルシニア辺境伯家当主のソリュートは、大将軍の孫に当たる。

  彼は偉大なる存在の喪失を受け止め、その最後が安らかになるよう、手配を始めた。


「『葬送(カロン)晩餐(ばんさん)』の準備を。パーセノープ殿、頼む」


  長く大将軍に仕えた側女(そばめ)のパーセノープが、悲嘆に顔を歪めながら、大将軍の病室に向かった。

 あとは彼女の能力に頼るしかない。


 ―――『葬送(カロン)晩餐(ばんさん)』とは、この王国に古くから伝わる、臨終の際の習慣だった。


  今まさに死を迎えようとする者に、その者が望む食事を用意し、枕祭壇に供えるというもので、死後も天の国で穏やかに暮らせるよう、遺族が心を尽くす儀式だ。


  ほどなくして、パーセノープが病室から戻った。


  今、病室には医者と看護師が詰めかけており、家族は隣の部屋で待たされている。


「パーセノープ殿、して、おじいさまは何を所望されたのだ?」


  ソリュートが問うと、パーセノープは(うやうや)しく頭を下げながら答えた。


  果たして、大将軍が今際(いまわ)のきわに望んだものは―――


「はい。大旦那様は、セ◯マのホッ◯シェフのカツ丼がお望みだそうです」


「……は?」


  ソリュート含め、パーセノープ以外の家族全員は、すっとんきょうな声を上げた。



 ◇◇◇◇◇




「いや、待て、確かにおじいさまは、ご自分を『イセカイテンセイシャ』だとおっしゃっておられた。華々しい軍功も、『テンセイチート』?とかいう天恵(ギフト)があってこそだと」


  ソリュートは額に手を当てながら言った。


  記憶の底を掘り返す。


  大将軍は前世?の記憶を有しており、それゆえに他者より優れた能力に恵まれたらしい。


「そうですわ。あんまりそのことを言い張っていたら、当時の国王様が真顔で国内の医者名簿を渡してきたとかで、家族以外には話さなくなったのです」


  ソリュートの母のマルダグレアが言った。

  彼女は大将軍の1人娘だ。


「ええと……じゃあ、それが関係しているのか?セ◯マのホット◯ェフとやらは」


  ソリュートの父親であるベオードが困惑しながら言った。

  ベオードは娘しかいなかったガルシニア家の入婿なので、そこまで大将軍の人となりを知らない。


「はい。他の候補としまして、同じくホット〇ェフのすじこおにぎり、豚丼、それと夕張メロンソフト、京極の名水かき氷いちご(とちおとめ)、マイキーじゃない塩味のポップコーン(100円)などがございました」


「待って待って待って」


  パーセノープがたたみかけてきたので、ソリュートはあわてて止めた。


「わからない。そもそもセ◯マがわからない。地名か?国の名前?」


「いえ、店名です。正式にはセイ◯ーマート。初代社長の名前から西と光の文字を取って、セイ◯ーマートと」


「待って!だから待って!」


  情報過多のために語彙力が低下してしまう。

  ソリュートは頭を抱えた。


「とりあえず、セ◯マが何であるかとかは脇に置こう!すぐに配下のものを遣わし、おじいさまの望むものを手に入れなければ」


  気を取り直して、話を進める。


  ガルシニア辺境伯家は裕福な家だ。

  加えて、戦争回避のために、国を跨いであちこちの有力貴族と友好関係を構築してきた。望めば手に入らないものはない……はずだったが。


  パーセノープはゆっくりと首を横に振る。


「いいえ、閣下。あの方の望むものは、この世界にはありません」


「あ、やっぱり」


  うん、まぁそうだろなぁと予想はしていた。


  特殊な記憶があると言っている人が最後に望むものが、そう簡単に手に入るものである可能性は低い。

 すでに聞いたことのない名詞がゴロゴロ飛び出てるし。


「ならば、どうすればよいのだ……!我がガルシニア家の偉大なる大将軍の葬送の晩餐を整えられないとは、なんたる不名誉……!」


  ソリュートが天を仰いで嘆くと、家族が労るように彼を支えた。


  平民はいざ知らず、貴族社会における『葬送の晩餐』は大切な儀式だ。死に行く者への最後の(はなむけ)として、礼を欠くことは許されない。


  ……とは言っても、状況が状況なので、なんとか代替品で済ませられないかなぁ?エオロス渓谷で仕留めたヴェンル鳥の極上蒸し焼きとかさぁ、アレめっちゃ珍味なんだけど……などと考えていると、パーセノープが意を決したように、ソリュートの前に歩み出た。


「閣下。出過ぎたことながら、このパーセノープ、大恩ある大旦那様のために、とあるお方をお呼びしております。その方に助力を乞うてもよろしいでしょうか」


「え?」


  ソリュートはパーセノープをキョトンとした目で見た。


  彼女は60代の老女だが、若い頃の美しさを偲ばせる、整った顔立ちをしている。

  そして、平民ながら『通心(エコー)』の天恵(ギフト)を有しており、手を触れた人物の心を読むことができた。

 その力は、王国の神殿から認可証が下されるレベルである。


  幼い頃、力を狙った犯罪組織に拐われそうになったところを、通りかかりのロードス・ガルシニアに助けられて以来、ずっと彼に仕えてきた。

  今の彼女の立場は、侍女ではなく側女(そばめ)であり、家族同様の扱いを許されているが、ソリュートたちへの敬意ある姿勢を崩すことはない。


「……許可しよう、パーセノープ殿」


  大将軍に長く寄り添ってきた彼女が言うのであれば、怪しい人物ではあるまい。

  何より、可能性があるなら藁でも掴みたい。


  ソリュートが許諾すると、パーセノープは深く頭を下げ、言った。


「ありがとうございます、閣下。……それでは、グリモア・イアムベル卿、お入りください」


(グリモア・イアムベル卿だと?!)


  告げられた名前に驚愕している合間にドアが開いて、招き人が現れる。


「失礼いたします。パーセノープ様のお招きに預かりまして、不肖グリモア・イアムベル、馳せ参じました」


  優雅な礼をする若い男は、魔術師の装束と片眼鏡(モノクル)を身に付けていた。

  なかなかの美丈夫で、ニッコリと人好きのする笑顔を浮かべている。


(間違いない、彼は―――齢25才にして、王国魔術師最高称号である『賢者(マゴス)』を与えられた、天才魔術師殿ではないか!)


  ソリュートは戦慄した。

  パーセノープは、こんな大物を個人的に呼び出せる伝手を持っていたのか……!


「……ようこそ、イアムベル卿。私はソリュート・ガルシニアだ。この度は、貴殿のような稀代の魔術師に―――」


「あ、大丈夫ですよ閣下。僕はパーセノープ様の口利きで参上いたしましたので、お気になさらず」


  ご当主からの正式な招待ではないので、大仰な挨拶は不要ですと固辞したグリモアは、片眼鏡をクイッと持ち上げた。


「些末なことはさておきまして、とっとと大将軍様の『葬送の晩餐』の準備を始めたいと思います。よろしいですか?閣下」


「う、うむ。よろしく頼む」


  どうやら細かい話は、すでにパーセノープから聞いているらしい。


 ソリュートから許可を得ると、若き魔術師はさっそく私物の魔道具箱を取り出し、蓋を開けた。


「ところでパーセノープ殿。報酬の件についてですが」


  道具箱の中で手を動かしながら、グリモアはソリュートではなく、パーセノープに話しかけた。


「いや、待ってほしい、イアムベル卿。報酬の支払いについては私が―――」


 魔術師に依頼する対価は莫大なものと聞く。ガルシニア辺境伯家当主として、ソリュートが口を挟もうとしたが、


「ホット○ェフのカツカレーとフライドチキンとフライドポテト、ガ○ナで手を打ちましょう」


「かしこまりました。イアムベル卿の仰せの通りに」


  (―――えぇ………?)


  伸ばしかけた手をそのままに固まるソリュートの前で、熱く視線を交わし、コクリとうなずき合う老女と魔術師。


 なんかよくわからんけど、これ口出さない方がええヤツや……と判断した公爵閣下は、キュッとお口にチャックをしたのだった。



 ◇◇◇◇◇



「つまりですね、聖女召喚の儀を応用するわけですよ」


  グリモアは魔道具箱の底から、巻紙を取り出した。

  紐を解いて広げると、1メートル四方の恐ろしく緻密な魔方陣が現れる。


 ソリュートはギョッとして声を上げた。


「え?いや、イアムベル卿、それはマズいのではないか?!」


「あ、大丈夫です。僕、失敗しませんので!(ドヤァ」


(そーいうこと言ってるんじゃなくてさぁ……!)


  ソリュートは頭を抱える。


  大将軍の病室の隣であるこの部屋には、今はソリュートとパーセノープ、そしてグリモアの3人しかいない。

 ……いなくて良かったと思う。


「貴殿が賢者(マゴス)であることは理解している。成否を問うているわけではない!……聖女召喚の儀など、国家存亡に関わる重大な禁術ではないか……それを、国王陛下や神殿の許可なく行おうなどと!」


 ソリュートはちょっと泣きそうになりながら訴えた。

 このことが外に漏れたら、最悪の場合、国家転覆を図ったとかで罪に問われる可能性がある。


「ハッハッハッ、やだなあ閣下。この僕が、ド低能な神官や宮殿魔術師ごときに勘付かれるようなお粗末な術式を展開するわけないじゃないですかぁ。万が一漏れたとしても、そいつら全員『3つの燃える花弁を持つ円環の外なる神』に供物として捧げますからご心配なく!」


 グリモアはカラカラと笑いながら言ったが、ソリュートの心中は「なにがどうご心配ないのかわからないよぅ(´;ω;`)」である。


「閣下、イアムベル卿。あまり時間がございません。夜明けまでには済まさなければ」


 パーセノープが進言してきた。

 それを受け、男ふたりは姿勢を正す。


 ……医者に告げられたロードス・ガルシニアの命の峠は、今晩。

 彼が死司神カロンの橋を渡り切る前に、晩餐を整えなければならない。

 悠長にボケツッコミをしてる場合ではなかった。


「う、うむ。わかった。では頼むぞ、イアムベル卿」


 ソリュートはゴホンと咳払いをしながら言った。もうアレだ、ここまで来たら腹を括ろう、なにか問題が起きたら自分がぜんぶ被ってしょっ引かれようと覚悟を決めた時、


「そういえば、聖女召喚の儀を応用するとなると……大旦那様のご希望の品諸々(もろもろ)をそのまま呼び出すのですか?」


 パーセノープが、ふと思い付いたように聞いてきた。


 いやさっきアナタが早よせい的な事を言ったのに、今聞いちゃうのそれ?……とは思ったが、確かに、魔方陣の真ん中に食品がちょーんと出現するのもシュールだなあ、と思うソリュート。


「いえ、そういうことではありません、パーセノープ殿。この術式では、呼び出せるのは『人間』だけなんです。ただ、『条件』を付与することはできます。そこに、今回の我々の要求するものを設定すれば」


「ああ、なるほど……かしこまりました。イアムベル卿の仰せの通りに」


 あ、またなんか自分のわかんないとこで、ふたりの会話が完了してしまった。


 ソリュートは再び疎外感を覚えたが、グリモアがとっとと術式展開に入ったので、キュッと唇を引き締めるだけに留めた。



 ◇◇◇◇◇



 召喚の儀は15分ほどで終わった。


 途中、召喚呪文詠唱で『ふんぐるい むぐるうなふ くtga』だの『いあ!いあ!』だの、それ違うやつ呼び出すやつじゃないの?呼び出しちゃダメなのが来ちゃうやつじゃないの?!的な流れがあったものの、滞りなく術式は整った。


「……ふぇっ?!な、なんですかこれっ……新手のアトラクション?!VR???」


 部屋の中心に置かれた魔方陣の中心、神聖文字が不気味に青く点滅する光に照らされて、召喚された人物は叫んだ。


「ようこそ、異世界よりの客人(まろうど)よ。僕はグリモア・イアムベル。貴方を召喚した者です」


 若き賢者マゴスは恭しく頭を垂れる。パーセノープもそれに倣ったので、ソリュートもつられて頭を軽く下げた。


「しょ、召喚って……まさか異世界召喚?!ガチで?!!」


 異世界人は突然のことに動揺している。

 ―――短い黒髪に黒い瞳、奇抜な服装。

 背は低いが子供ではなさそうだ。

 性別が分かりづらいがおそらく女性で、両手にやたらガサガサいう材質不明な白い袋を持っている。


「エコバッグじゃないんですね……」


「あ、セ○コマはレジ袋無料なんですよ、他のコンビニと違って」


 パーセノープの呟きに素早く応答するあたり、この異世界人は交渉の余地がないタイプではなさそうだ。

 エコバッグ?レジ袋?とか、聞き慣れない謎の文言は異世界ゆえなのだろう。


「早速で済まないが、お客人。私はソリュート・ガルシニア。アルテナー王国の辺境伯だ。この(たび)、そなたを呼び出したのは他でもない。我が祖父ロードス・ガルシニアの『葬送カロン晩餐ばんさん』を整えるためだ」


 責任者としてざっくりと状況を説明するソリュート。


 ……今回の召喚の儀において、グリモア・イアムベルが設定した『条件』は―――


『セ◯マのホッ◯シェフのカツ丼、すじこおにぎり、豚丼、カツカレー、フライドチキン、フライドポテト、あとガ○ナ、夕張メロンソフト、京極の名水かき氷いちご(とちおとめ)、マイキーじゃない塩味のポップコーン(100円)……を所持している人間』


 であった。


 普通はここに『聖なる力を持つ女性』とか設定するらしい。

 付加する条件が多ければ多いほど召喚主に負荷がかかるのだが、そこは賢者マゴスの面目躍如といったところか。


「えぇ……聖女として世界のピンチを救うとか、王国を狙う魔王を倒すためとかじゃないんだ……」


 召喚理由を知った異世界人はがっくりとうなだれた。


「あ、その魔方陣から出ないでくださいね。元の世界に戻せなくなるので」


 グリモアが掛けた言葉に「戻すこと前提なのかよ……二度と元の世界に戻れないからイケメンが面倒みますーて展開じゃないんだぁ……」と呟きながら更に萎れる異世界人。


「……ええと、凹んでるとこすまないが、お客人。その手にされている荷物をこちらにお渡し願えまいか。さすれば、すぐに元の世界にお還しするが……」


 話が進まないので、ソリュートが持ちかけたところ。


「……はあ?ジョーダンじゃないっスよ?!これはあたしの一週間ぶんの食糧なんです!やっとバイト代が入って買いに行けたのに、これがなくなったら家帰っても冷蔵庫空っぽなんスよ?!あれですか、アナタあたしに飢え死にしろというんですか?!ひどい、イセハラ(異世界ハラスメント)だああ!!」


 異世界人はよくわからない単語を連発して激高した。……うん、わからないなりに、彼女が困窮しているのは伝わってきた。

 ガサガサいう白い袋を奪われまいと抱え込む異世界人に、パーセノープが「貧乏ならコンビニ飯やめたらいいのでは?自炊の方が安上がりなのに」と話しかけたが、「トータルコストの概念に欠けたメシマズ民を見下すのやめてくれませんかぁ⁉」と返して炎上しかけたので、話にならない。


(あー……これ、どうおさめればいいのだろうか……?)


 混迷するばかりの現場で、ソリュートが途方に暮れかけていた時。


 グリモア・イアムベルが、キラーンと片眼鏡をきらめかせ、スッ……と1枚のカードを取り出した。


「ハッ!それはあたしの……!」


「そう……これは、貴方のセイコー○ートク○ブカードですよね?」


 煽るように見せられたそれに、異世界人が反応する。


「僕たちは、何も無報酬でセ○マグッズ寄越せと言ってるわけではありません。ご覧なさい」


 グリモアはカードを手にしたまま、なにやら呪文を唱えた。

 するとカードが鈍く発光し、表面の模様が変わっていく。……オレンジ一色から、緑や赤が鮮やかなデザインへと。


「ペ○マカードに進化させました。ちなみに4万9千円チャージ済です」


「あなたが神か……!」


 生まれ変わったカードを手渡されると、崇め奉るようにグリモアにひざまずく異世界人。


(すまん、今の流れまったく意味がわからんのだが。ク○ブカード?ペ○マとはいったい……)


 もうツッコむのも面倒になったソリュートは、心の中だけで独り言ちる。


「ク○ブカードはお買い上げごとにポイントが貯まるカードです、閣下。ポイントは豪華な景品と交換でき、オトクな会員割引もあります。ペ○マカードはク○ブカードにプリペイド機能が付いたものです」


(うん、なるほどわからん。あとパーセノープ殿、さりげに無断で思考読むのやめてくれないかなあ)


 そのあと異世界人が大人しく袋を差し出してきたので、重々にお礼を述べて元の世界にお還りいただいた。


 本来なら召喚条件に設定した品物だけ受け取る予定だったが、他にもいろいろ持ってたので、グリモアが「今後半年間、5の付く日に1万円ずつペ○マチャージする追加魔法をかけてあげよう」と交渉し、見事全てゲットした。


「アイス類は速やかに冷凍保存魔法をかけました。あっためるやつはホカホカ魔法かけましょう」


「あっ、イアムベル卿、北見産ハッカ使用のチョコミントソフトがありますよ!」


「おお、子持ちシシャモのフライだあ!京極の名水珈琲ゼリーも……新商品結構ありますね、とりあえずぜんぶ祭壇に乗せましょうか!」


 キャッキャウフフしながら袋の中身を検分した賢者と老女は、ニッコニコで大将軍の病室に移動した。


 …………なあ、君たちアレだよな?この召喚はウチのお祖父様のためだったよな?自分たちがセ○マグッズ堪能するためにやったわけじゃないよな…………?とは思いつつ、口に出さずにふたりのあとをついていくソリュートだった。



 ◇◇◇◇◇



 結論として、大量のセ○マグッズは大好評だった。


 誰に? →大将軍本人に。


 葬送カロン晩餐ばんさん用にしつらえた祭壇の上に、溢れんばかりのセ○マグッズを捧げ、枕経を上げるための神官が経典を開いた時。


 ぐう〜〜きゅるきゅると腹の音が鳴り響いた。


 は?と室内の面々がキョロキョロしていると、なんと寝台に横たわった大将軍が、ゆっくりと起き上がったのだ。


「カレー……カレーの匂いがするっ……!」


 数日ぶりに聞いたロードス・ガルシニアのかすれた声に、家族一同驚嘆したあと、ワッとベッドに駆け寄った。


 グリモアがかけたホカホカ魔法により、ホッ○シェフのカツカレーがいい具合に香りを漂わせていたことで、大将軍の意識を引き戻すことができたらしい。


「うまい!うまいぞぉー!!すじこおにぎり!豚丼!そしてカツカレー!おぉお、何年ぶりかのう!!」


 驚異の回復を遂げた大将軍は、捧げられていた品物をほとんどその場で完食した。


「僕のカツカレー……」


 カレーの匂いで復活した人間からカレーを取り上げるわけにもいかず、グリモアは残念そうにフライドポテトをもぐもぐしている。


「さすが賢者マゴス様!あの状態の大将軍様をここまで回復させるとは、素晴らしい魔術ですね!」


 治療に当たっていた医者が感激しながらグリモアを賞賛して、「いやぁそれほどでも〜」なんて受け答えしているグリモアを横目に、ソリュートは鼻白んだ。


(いや、セ○マのおかげじゃん。もっというならカツカレーのおかげじゃん……)


「閣下、そのカツカレーを召喚したのはイアムベル卿です。ならば彼の魔術こそが大旦那様をお救いしたのですから、いいのではないですか?」


(まあそうなんだけどさぁ……あと、パーセノープ殿、勝手に思考読むのほんとやめてよぉ……)


「アッ、おじいさま?!!」


 家族が見守る中、祭壇の供物を爆食していた大将軍は、とちおとめかき氷を食べ切ったあと、バターンとベッドに仰向けに倒れた。


 すわ今度こそ御臨終か?!と家族全員が身構えたが、控えていた医者が素早く脈を測ったり瞳孔を確認したりしたあと、


「おそらく……しばらく絶食したあとに急に飲食されたので、胃に血が集まって貧血をおこされたのでは、と。脈拍も正常ですし呼吸も落ち着いてますし、このまま朝まで様子を見ましょう」


 そう診断したので、みんな一斉に安堵のため息をついたのだった。



 ◇◇◇◇◇



「いやぁ、今回ばかりはワシももうダメかと思ったわ!じゃが、昔懐かしのカレーの匂いに誘われて、三途カロンの川から舞い戻ってきてしまったわい!こりゃワシがばあさんの所に行くのは、まだまだ先の話になりそうじゃな!」


 あれから数週間。

 ガッハッハと豪胆に笑うロードス・ガルシニアは、すっかり元通りだ。

 まだ様子見ではあるが、領地のパトロールが出来るほどまで回復している。


 グリモア・イアムベルには、ガルシニア家から多額の謝礼金が支払われた。

 別にいいですよ、謝礼ならパーセノープ殿から貰ったので〜と固辞する彼に、「いやワシ、君にはすごいお世話になったのに、カツカレー食っちゃったから……」と大将軍が頭を下げ、なんとか受け取ってもらった。


 パーセノープとグリモアがどうして知り合いだったかは、明らかにされなかった。

 10年ほど前に起きた、とある事件がきっかけだったようだが、本人だけでなく、事情を知っていそうな大将軍も多く語らなかったので、謎のままだ。


 ちなみに大将軍曰く「パーセノープはワシも把握しとらん人脈をあちこちに持っとるんじゃ。困り事があったら相談するとよいぞ」とのこと。


(えぇ~、初耳なんだけど?!パーセノープ殿っていったい何者なのだ……??)


 ……これまで大将軍以外の家族とは一線を引いてきた側女そばめの老女の得体のしれなさに、ソリュートはちょっとだけ戦慄したのだった。



 ◇◇◇◇◇



 それから、更に日にちが経って。


 ロードス・ガルシニア大将軍は完全に復活した。

「100歳まで現役を目指すのじゃあ!」と意気込みも新たに大将軍としての仕事に精を出しはじめたので、ソリュートたちは安心して辺境伯領地の統治に専念することができた。


「リボンナ○リンうまいわあ〜」


 執政の合間にソリュートが舌鼓を打っているのは、パーセノープからの差し入れの飲み物である。

 オレンジ色の液体はシュワシュワしていて甘くて、とてもいい匂いがした。

 どんなに美味そうでも異世界産の品物は忌避していた(なんか怖かった)ソリュートだったが、これだけは気に入ってしまった。


(くぅっ……出所でどころがアレなだけに、大っぴらにできないのが残念だ……家族や使用人にも重々注意しなければ)


 万が一にもグリモアが聖女召喚の儀を独断で行った(呼び出したのは聖女じゃないけど)ことが漏れてはヤバいので、邸内には緘口令を敷いている。

 リボンナ○リンも執務室に持ち込んで、こっそりちびちびやっているのが現状だ。


(まあ、あのとき病室にいた医者も神官も家族も、異世界人召喚した現場を見てないからなあ。全て賢者マゴス殿の偉大な魔術だと思ってるから、問題ないといえばないのだが……)


 そう、あの日のことは不問にしても良かろう。

 しかし、今ソリュートを悩ませているのは別の問題だった。


 ……あれからたまに賢者マゴス殿がふらっと領地にやってきては、「ハスカップミックスソフトが出たらしいんです……!」とか言い出して、大将軍や側女殿と結託し、あれこれやってるぽい。


(やめてほしい……心の底からやめてほしい。王家に真実が漏れることも恐ろしいが、間違ってヤバい存在を召喚したらどうするんだ、コズミックホラー的な邪神(クトゥ○フ)とかさあ……!)


 ソリュートは頭を抱えた。

 しかしどう考えても、自分が進言したところであの人たちは聞いてくれないだろう。


「……うむ。おじいさまも元気になったし、リボンナ○リンも美味いし、いいということにしよう、そうしよう」


 ソリュートは顔を上げると、無理やり思考を切り替えた。

 そう、悩んだところで解決はしないのだ。ならば別のことに力を注いだ方が建設的だ。ていうか、リボンナ○リンという賄賂を受け取った段階で既に共犯なのだから、ウダウダ言っても仕方ない。


 それよりもまず、しなければいけないことは、領政だ。


 父である前辺境伯のべオードの助けがあっても、広大なガルシニア辺境伯領の経営は多忙を極める。

 今は大将軍ロードスが隣国との摩擦をいなしてくれているが、今回のように彼になにかあれば、それに伴う様々な問題も噴出するだろう。

 辺境伯当主である自分は、全てをうまくやっていかなくてはならない。


 ソリュートはキュッとリボンナ○リンを飲み干し、器のガラス瓶(可愛いキャラクターが描かれている)をこそっと引き出しに隠した。


「よし、午後からの執務、もうひとふんばり頑張るとするか」


 机の上の山積みになった書類をめくり、気合いを入れ直す。


(自分が臨終を迎えるときの葬送カロン晩餐ばんさんは、何にしようかなあ……)


 そして仕事に没頭している最中でも、たまにそんなことを考えてしまうようになったソリュートであった。




 〈完〉

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!


ガルシニア家の家族構成が分かりづらかったかな?と思ったので以下箇条書きしておきました。


ロードス・ガルシニア

92歳。前々辺境伯。現辺境将軍。妻は一人娘を生んだあとに他界。アラフィフのときにパーセノープを拾った。


マルダグレア・ガルシニア

68歳。ロードスの一人娘。婿を取り、ソリュートを含め4人の子をもうけた。現在、孫が12人いる。


べオード・ガルシニア

67歳。マルダグレアに婿入りして辺境伯を継いだ、もと辺境騎士団隊長。長男のソリュートに爵位を譲ったあとも、妻と共にサポートにまわっているが、そろそろ隠居したい。


ソリュート・ガルシニア

45歳。現辺境伯。2男2女のパパ。長女と次女は既婚。21歳の長男に王都の町屋敷を任せている。末っ子次男は王都の寄宿舎つき学園高等部1年。


補足

鶯谷うぐいすだに 小夜さよ

19歳。異世界人。奨学金で大学に進学。仕送りナシのバイト生活一人暮らし。ボッチ気味。

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