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思い出の後味

作者: 浮世ダナン
掲載日:2022/10/02

 その日はちょうど、同窓会があった。中学三年生の頃の集まりだった。みんなあの頃と比べたら、とっても垢ぬけていて、大人になった姿を見て、何も成長していない自分が情けなくなって、なんで来てしまったんだろと後悔していた。帰りたい。

 中学の頃の私は、成績は優秀なほうで生徒会長を臨時で務めたこともあって、皆からは真面目な生徒という印象を持たれていた気がする。顔はそれほど広くなかったけれど、仲のいい友達はいて、大切にした。特にさっちゃんとみっちゃんとはいつも休み時間にたくさん話した。恋バナもした。連れションもした。そのあたりで周りのみんなは性に目覚め始めて、話の話題にもそんなことがよく出るようになっていた。私もみんなと同じくらいに目覚めたふりをしていた。そういう内容の知識量もみんなに合わせた。でも私はずっと昔に性には目覚めていた。小学2年生の頃に初めて自分を慰めた。でもその前からそういうことという自覚はなかったけれど、慰めることをしていた気がする。早くから知っていた自分がコンプレックスだった。一度知ってしまったら忘れることもできないから、早く知った自分を受け入れること以外にコンプレックスを克服する方法はなかった。つらかった。

 中学を卒業してからはそれぞれ別の高校に進学したから疎遠になってしまった。そんな二人と久しぶりに会いたくて今日は同窓会に来た。

 最初は正直誰が誰なのかわからない人が多かった。特に女子はすっかり雰囲気が変わって可愛らしくなっていた。私だって努力して頑張ってる。メイクの仕方もたくさん練習したし、ファッションについてもいろんな情報を取り入れてずいぶん博識になれた気がする。でもそんな時ふとsnsを見ると、こぞってみんな私より可愛くて、オシャレで、キラキラした日常を送っていて、それを見て自分の日常とのギャップに病んでしまう。私は一度病んだらそこから数日ずっと寝てしまう。眠っているときは底のない海を永遠に沈んでるような感覚になる。このまま、光の届かないところまで沈みたい。ずっと寝ていると、気持ちが楽になる。でもいつもある地点で水が濁りだす。濁って濁ってとても不快な気分になって、もがいていると、じわじわと眼が覚める。眼が覚めたら大抵のことは忘れてしまう。私は眼を覚ましたときの自分の顔が一番嫌いだ。腫れぼったく浮腫んで、おかめみたいな自分の顔が大嫌い。それでまた、少しだけ病んでしまう。早く腫れがひいてほしい。こんな醜い顔じゃ外にでれない。

 同窓会の数日前もsnsで病んでしまってずっと寝てた。起きたのは同窓会が始まる6時間前だった。やっぱり今日も寝起きの顔は浮腫んでいた。同窓会までに腫れがひくかわからなかったから、同窓会に欠席しようか迷った。風呂に入ったら浮腫みがましになって、2時間後にはほとんど元に戻っていた。

 そんなことを考えていると突然ある女の子から名前を呼ばれた。誰だろう。可愛いな。私は惨めな気持ちになった。さっきから何人かから名前を呼ばれたけれど私は相手が誰だか分らなかった。この人もそのうちの一人だ。みんな誰だかわからないほどにオシャレで可愛くなったのに、私だけ誰なのかわかるほどにしか変わることができてない。それがとても悔しくてあの頃から変わることができたという自信が崩れていくのを感じた。私は中学生の頃、太い黒縁のメガネをかけていた。私はメガネの自分が嫌いだった。真面目ちゃんみたいで嫌だった。実際にみんなからは真面目というレッテルを貼られていた。本当の私は全然真面目じゃない。心の中は腐っている。私は勉強ができたから、いつも勉強のできない人を見下していた。スポーツしかできない人も見下していた。どうせ勉強ができないのならそんなのなんの意味もないと思っていた。みんな本当の私を理解してくれないことに苦しんだ。でも、真面目というイメージから外れたようなことをして、みんなから失望されるのも嫌だった。だから高校に入ってからは、メガネを外してコンタクトにした。普通に近づけた気がしてうれしかった。少しして前髪もつくってみた。私は少しくせ毛だから湿度が高い日は曲がったりしていたけど、やっぱりうれしかった。高校の頃の友だちから可愛くなったね!と言われたときはもう舞い上がった。大学に入ってからは、髪を茶色に染めた。初めて講義に参加したら生徒の中で一番明るい髪色だった時は流石に焦って、家に帰ってすぐにもう少し暗い茶髪に染め直した。化粧も頑張ったし着る服もいろいろ模索した。

 私はこんなに努力したのに結局誰だかわかるほどに変われていない。いけない、ここで病んでしまっていたらだめだ。今日は昔の友だちのさっちゃんとみっちゃんに会ってもろくに話せなくなってしまう。とりあえず今話しかけらたこの子と話してみよう。そうすればさっちゃんとみっちゃんがどこにいるかわかるかもしれない。

「もしかして、市原さん?違うかな」

 ひとまず名前を言ってみた。私に話しかけてきたこの子は身長がとても小さかった。145cmくらいに見える。昔、市原さんというとても背の低い子がいた気がする。

「あー!覚えてくれてた。よかった~、覚えてくれてて」

 当たった。言ってみるものだと思った。でも名前を当ててしまったら市原さんも私と同じ気持ちになっているかもしれない。そう考えてしまって少し罪悪感が沸いた。お互いに近況を報告しあった後、さっちゃんとみっちゃんがどこにいるか聞いてみた。

 教えてくれたのでその場所に行ってみると赤ちゃんを抱えた二人の女性が立っていた。まさか、と思ったけど確かに赤ちゃんを抱いていた。話しかけようと思ったら向こうから気づいてくれた。私は悲しくはならなかった。むしろわかってくれてうれしかった。さっちゃんもみっちゃんもほぼ同時に5か月前に出産したらしい。二人とも育児のことで盛り上がっていたそうだ。旦那がどうだとか、主婦生活がどうだとか、なんだか私のずっと先を言った話をしていて、相槌を打つことしかできなかった。どっちの赤ちゃんも可愛くなかった。眼が空いているのか閉じているのかまるで分らない。それでも二人は幸せそうだった。むずむず羨ましくなった。私も赤ちゃんが欲しい。そう思った。でも私は家事ができない。それに男がいない。私はまだ誰にも許したことがなかった。到底無理だ。でもやっぱり欲しい。

 なんだか疲れた。ここに来るべきじゃなかった。すべてが悲しい。中学校の思い出は思い出のままにしておくべきだったんだ。もうこれ以上思い出を傷つけたくない。

 帰ろう。

 

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