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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第一章:凡人「秋月優斗」
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第一章 2:姉妹

ユウトの危機にやってきた二人の女性はとても対象的だった。

 

一人は銀色の髪が肩に当たる程度の長さ、身長も160後半はありそうだ。

肌の色に対比するかのように深い黒目。

白を基調にした軽装で、体の所々に黒い革で出来ているサポーターのようなものをつけていた。


腰には膕まである前が開いた腰巻きをしており、黒い短パンを履いている。どうやら異世界では虫刺されは気にならないのか。森の奥にしては肌をあらわにしすぎのように見える。

そして、遠目でもわかるスタイルの良さはこの場所では完全に場違いにも思えた。戦う見た目はしているが、体重が何倍もある相手に戦えるほど力強くは見えない。


武器として日本刀のような鍔付きの刀を下げていた。

全体が白と黒でまとめらており、黒革のサポーターと刀を外せば現実社会にいても違和感ないような出立ちをしている。刀がかなり目立つ。



もう一人の少女は、赤髪で見たところ小学校3-4年くらいのころの体型で、服装も赤髪に負けないくらいの赤でまとめられた軽装だ。

赤いスカートを身につけているがピッタリとしたハーフパンツがでており、活発な女の子の印象を受ける。

だが左目には黒い眼帯をしており、えもしれぬ威圧感を感じる。


赤い少女は口を尖らせ、その小さな体を威厳あるように見せるようにめいいっぱい仁王立ちをしながら鼻を鳴らした後

 

「あんたたち、ここはワタシ達の森なんだワ。誰の許可を得てここにいるのかしら。」

 

とサイ達にかなり上から目線で問いかけた。


「あぁ?! エドガー大森林がいつからおめえみたいな小娘のものになったってんだ!」


「ハン!アタシ達姉妹が決めたんだワ。」


あまりにも自己中心的な主張だったようで、サイはまた顔を真っ赤にして足を踏み鳴らしながらキー!っと金切声を何度もあげていきりたった。


「この森をあんた達みたいな物騒な輩からまもってるんだワ。だからアタシ達の森でいいのよ。間違ってないんだワ」


「サイ兄チィ!ここの森あいつのモンらしいぞぉ!」

 

「あー!うるせえうるせえ!んなわけあるかぁ! クソ小娘!おめえこいつの仲間か!」

 

ユウトの髪を掴み頭を無理やり上げさせて二人に顔を確認させた。


「しらないワ。あんたらに捕まるような仲間なんていないんだワ。」


異世界に飛ばされ30分くらいしか経過していないユウトも、「そんな事はない!俺のことを忘れたのか!」と嘯く会話ができる余地はなかった。


 仲間面するつもりは元よりなかったが、会話の流れから、もしかしたら助けてくれるかもしれないという期待は少しあった。少女たちと獣人達の会話を、芯から痛みがジンジンと伝わる腕を押さえながら、何か形勢を変えられないかと会話を聞く。



「ケッ!まぁどうでもいい!キーヴィ!こいつらもとっ捕まえるぞ!」


「やれるモンならやってみたららいいワ。それよりもクソ小娘という言葉が不愉快すぎて暴れたい気分なんだワ。」



キーヴィは明らかに面倒が舞い込んできたようにやる気のなさを見せたが、サイが「キーヴィ!こいつをぶっ倒せばご馳走が増えるぞ!!」と言うと、キーヴィの顔は途端に顔が明るくなり、馬鍬を握りしめてご馳走ー!と声を張った。ユーマはサイから小僧を逃さないようにしてろ!と命令を受け少し下がった。



「ごちそぉ!いただきまぁす!」

 

キーブィが女性達に向かって走り出し、その体躯を生かしてこけるようにして腹の弾力で高く飛び上がり、馬鍬を二人に向けて投げた。


「レイナ!」


「はいっ!」


姉妹は別れるようにして避けると馬鍬が地面に突き刺さるのかと思いきや、ドーン!と馬鍬が土を爆発四散させ、森中に響き渡るような大きな音を立ててお椀状にへこんだ。


あまりの衝撃にユウトは腕で自分の顔を守るように遮った。キーヴィが破裂させた地面の破片が無数に飛び散ってくる。

並の人間なら粉々に砕け散りそうな威力、のんびりとした喋りからは想像できない威力だった。


「おらぁ!銀髪!おめえの相手は俺だ!」


サイが棍棒で殴りかかると刀を抜き防ぐ。


「レイナ!」

 

赤髪の少女は体勢を整えると銀髪の女性の名前を発してサイに向かおうとする。が、キーブィが進路を阻む。


「だめだぁ!俺の相手してもらうぞぉ!」


馬鍬を構え直しているキーヴィに少し遅れをとった少女は、防戦一方となった。


キーヴィの体躯からは想像できないほどの素早い動きで襲いかかる馬鍬の連撃を間一髪のタイミングで避け続けている。キーブィの見た目に似合わない素早い動きで赤い少女は反転攻勢するタイミングをはかっていた。


 ――この豚……やるわね。でも……


レイナと呼ばれた銀髪の女性はサイの整った棍棒の乱舞を受け流していた。


「どぉしたぁ!その刀はかざりかぁ!?」


煽りの言葉を吐かれてもレイナは淡々と乱舞をうまくいなす。埒があかない展開に嫌気がさしてきたサイはユーマに目線を向けて


「ユーマ!ちったぁてつだえ!」


と声を張った。ユーマはやれやれと言わんばかりに二度首を振り口から長い舌をたらりと垂らし、レイナの方に舌先を向けて、勢いよく伸ばした。

舌はレイナの足首に絡みつき、体勢が崩れる


 ――……!!しまった!!



「おっしゃぁ!よくやったユー…おごぉっ!」


仲間の名前を呼ぶ前に、サイの顔に赤髪の少女の膝蹴りがサイの顔にめり込んだ。


鼻が曲がり血を吹き出していたが構わず頭を掴み、もう一度同じところに膝蹴りを入れた。



ヒュン…と風を切る音が聞こえると、トドメを入れようとしていた少女の右腕にユーマの舌が絡み付いた。


腕を振るう事ができないほどに絡み付いたのだが、少女は一度鼻を鳴らし、手で舌を掴んで右腕一本の力でユーマの体ごと引き寄せた。

その小さな姿から想像もできないほど強烈な腕力で引っ張られ、ユーマは身構えることもできず赤髪の少女に引き寄せられ、喉を左手で鷲掴みにされ地面に叩きつけられた。


 

ユーマの視線の先には、鼻から血を垂れ流し仰向けに力なく倒れているサイと、さらに奥で頭に少女の踵蹴りを受け気を失っているキーブィの姿だった。


ユーマがキーヴィへの視線を外した後勝敗は決していた。


「ここがドァンクでなくてよかったんだワ。あんた達。最後のチャンスあげるけどどうするのかしら。」


長い舌を収めてユーマはこうべを垂れた。


「…すまない。見逃して欲しい。ここからは去る。」


と冷静に告げて負けを認めた。


ユーマはこの少女に首を鷲掴みにされた時、ああ、この娘には敵わないな。と察した。

この状況を打破する事ができないと悟ると実に呆気なく負けを認めた。


解放されたユーマは二人の視線の先で、キーブィの目覚めさせ、サイを抱えさせて姉妹とユウトを見ることもなくその場を後にした。


「さてと、厄介者は去ったところで、次はアンタなんだワ。」


ことの顛末を座り込んで半開きの口で見ていたユウトにレイナが心配な面持ちで走って駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

 

レイナはユウトの体を見回し怪我の有無を確認した。

左腕をレイナに触られた途端、激痛が走り顔をしかめる。


「…骨は折れてはいないようですわ。ここで治しますね。」


レイナは両手をユウトの左腕にかざすと、患部が光に包まれ、ほんのりと暖かくなった。

体の一部しか光を当てられていないのに、患部から広がる温もりが全身を包んで、痛みを徐々に和らげる。そして、全身にまるで最高の適温で入るお風呂のようにぽかぽかと温かくなっていた。


 癒されるような暖かさに包まれて落ち着いたユウトは、レイナを間近で初めて見ることができたのだが、白銀の髪と透き通るような白い肌、そして思春期にはかなり刺激的な人目を完全に奪うのほどの大きな胸は、例に漏れずユウトの視線を奪いそうになる。が、真剣な眼差しでユウトの腕を治そうとしているレイナの前で邪な考えはダメだ!と自分を戒める。


レイナの後ろから赤髪の少女が見えたが、その顔は明らかにユウトを警戒している顔だ。

 

「アンタはどこからきたのかしら。あいつらの仲間って事は無さそうだけど。」


「ぼ、僕は気がついたら、あの丘にいて…きっと…多分…君達が知らない世界から、きたんだと思う…」


ユウトは、自分が知らない誰かにこの世界に飛ばされたのだろうと信じていた。

でないと説明つかない事が多すぎる。獣人然り、この娘達の戦闘然り、患部を癒す光然り。痛みが夢ではない事。そして幹部が癒され痛みが引いて、先ほどとは違い今にも動かせそうなこの腕の状態も現実であるというのなら、ここは異世界だという結論に辿り着いても何ら不思議ではない。


コケて腕を痛めたのも、こうやって治されているのもタネも仕掛けもない現実だという事は、体験しているユウト自身が一番よく理解しているのだから。


ふと赤髪の少女を見ると、深妙な面持ちに変わっていた。

いや、驚いている心を悟らせないようにも見えた。

それは、腕を癒しているレイナも同じように見えた。

何か変な事でも言ってしまったのだろうか…いや、そもそも丘の上に別の世界から飛ばされてきたという方がおかしいだろう。自分で語った事が二人には疑問だらけになっても仕方ない事だ。


レイナの癒しの光は消えて、ユウトに立ち上がることを促すように手を差し出した。

ユウトはその手を借りて立ち上がり左腕を確かめた。

痛みは消え、なんなら怪我するよりも動けるくらいに回復していた。


「よかった…ローシアお姉様。この方の腕は治りましたわ。」


見たままの情報からすると、とても思いつかない言葉が出てきた。この明らかに姪っ子と言われてもなんら差し支えのない控えめな身長の人物をお姉様と呼ぶのは、街を歩けばスカウトが止まらないほどの容姿を持つ女性……つまり妹……?


「お…おねぇさま?」

 

ユウトは思わず疑問に感じた言葉を口に出した。


「なにか言いたそうなんだワ。いえ、喋らなくてもいいワ。見た目で判断する浅はかな人間とわかったから何も言わないで。ヘドが出る。」


「ぐっ……ごめんなさい。」


辛辣すぎるツッコミをありがたく頂戴したが

レイナが二人をなだめるようにまぁまぁと声をかける。

きっと初めてのことではないのだろう。


お姉様は口も腕も立つ達人である事は見聞した通りだと。


「それよりもアンタの名前はなんというのかしら?」


「僕は…ユウト。アキヅキユウト…です。」


「ふぅん。聞かない名前なんだワ。」


「ご…ごめんなさい。」


「なぜ謝るのかわからないんだワ。」


二人のやりとりを優しげな表情で見守っていたレイナは会話を割るように質問をした。


「ユウト様は気がついたらここにいたとおっしゃいましたが、お家はどちらになるのですか?」


レイナの語り口は、優しく心地よく耳障りよく、とても同じ姉妹とは思えなかった。

その心中を察するようにローシアの刺さるような目線がある事を警戒しつつ


「家は…わからない…。多分、ここにはないし君達が知るところじゃないと思う。」


そう回答すると、ちょっとごめんなさいね。と断りを入れられてレイナはローシアと突然相談し始めた。


『あの方、もしかしたらと思いますけども…やはり……の……では?』

『さぁ………とかけ離れて……でも……しれないワ』


なんだろう…この品定めされてる感は…

思春期真っ只中のユウトにとって、目の前で明らかに自分のことでナイショ話をされるといい気分はしない。


たしかにこの二人がやっつけた獣人に対して情けない姿を見せてしまったことには違いないが、異世界に飛ばされたのだから、もしかしたら驚くようなものすごい力が秘めているかもしれない。

 それが今はわからないから失態を見せたわけであって、もう少し時間があればあの三人をチョチョイのちょいで…


 とユウトが妄想の深みにハマりそうになると



「なんか気持ち悪い顔をしてるワ」


わずかな希望に大いなる願望を上乗せしている顔を気持ち悪いと評され我に帰ったユウトは、面目ないと言わんばかりに薄ら笑いを浮かべた。


ローシアは、ものすごくとてもとても大きなため息をついて不満ありげに頭をかきながら


「アンタ、うちらがいる村に来て欲しいんだワ。会ってもらいたい人がいるんだワ。」

 

と提案してきた。レイナも天使なような微笑みで是非と言う。

ユウトにとってはありがたい提案だ。


下心ありならお姉様に木っ端微塵にされる事は言うまでもないので元々ない。


だが、もう一つ気がかりな事があった。


それはこの世界から現実世界に帰る方法だ。


「僕は…この世界から帰る方法を知りたいんだ。なんかわかる人いないかな? その人に会って話してみたら、わかるかな?」


ユウトからすると藁をも掴む思いだが、二人の顔はそこまで明るくない、が、保証はしないけど何か知っているかもしれないとはお姉様の談。



それはそうか。とユウトは気を落としかけたが持ち直した。

落ち込んでても仕方ない。


まずはこの森から移動しないと何も始まらない。

この二人は異世界から現実世界に変える方法はしらない。となると知る人を探すしかない。


奇跡を待っても行動に移さないと始まらないし進まない。

とはいえあの獣人みたいな輩がいることも事実。

身の安全を確保しながら先に進むには、助けてくれた二人の提案を飲む方が現実的だ。


「わかったよ。君達について行くよ。」


レイナの顔が途端に明るい笑顔に変わり、ありがとうございます!と手を握ってきた。

ローシアは態度こそ変えないものの、一度鼻を鳴らしはしたが、その顔は目線の強さは和らぎ、口元は笑みをふくめていた。

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