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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第一章:凡人「秋月優斗」
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第一章 1:異世界に飛ばされまして

アキツキユウトは新米引きこもりの高校2年生。

引きこもりに至るまでの人生のことを語るには、原稿用紙二枚あれば語れそうだが、引きこもりに至った理由はよくある話から探せばいくらでも見つかるような事なのて、説明は割愛しておく。


 同級生と比較して体力があるわけでもなく、知恵が働くわけでもなく、勇気を振り絞って行動に起こせない。というような実にありきたりで、どこにでも居るような世の中に希望を見いだせない思春期真っ盛りの健全な引きこもりの高校一年生だった。


 朝の日課は、まず学生服に着替えることだった。

行くつもりは微塵もないのだが、体裁は整えておかないと自分の気持ちがざわつくというか、落ち着かなかった。

『いい子でいたい』という誰かの思いを踏み躙りたくないという思いの現れなのかもしれない。


着替えると部屋の真ん中に三角座りをして、額を膝につけて目をつむる。そして時間が過ぎるのをひたすら待つ。


もう、朝になって誰かが起こしに来ることはない。

学校に行かないことを知っているからだ。

いくら説得しても無駄だという結論に至ったから。

 

 ユウトは知っていた。自分が学校に行かなくなったことが理由で両親が言い争いをしていることを。


同級生が通学し始める時間に決まってやってくる罪悪感を封じ込めるために、心の奥底に無理やり沈めるため、ユウトは目をつむって膝を抱え込んで耐える。


大丈夫。一度耐えられた痛みは絶対に耐えられる。

時間が経てば…痛みは和らぐ…


今日も、いつもと同じように、耐えるために膝を抱えひたすら時間と闘っていた。


 時間を意識しないように思考を別の方に向ける。

 

 今日見た夢は最悪だった。誰かに殺される夢で夢なのに感触があった。胸をナイフが貫いて金属が体内に存在する感覚……これまで刺された事は当然ないので新鮮な感覚でもあったが出来れば今後二度と味わいたくはない。


 ーーけど夢に出てきた女の子は可愛かった。全く記憶にない人だったけど誰だったのだろう……ーー


 人は人間の顔を脳内で好きに生成できないから、夢で見た人物の顔のつくりは必ずどこかで見た顔で、記憶になくてもどこかで見ている顔だと聞いたことがある。


 ーーでもあんな可愛い子を見たら忘れようもないけど……ーー


 この部屋で起こった小さな世界の出来事を無理やり思い出して心の痛みを緩和する毎朝の儀式が落ち着き、顔を上げた。


とても強い光がユウトの目に差し込み、目を細めた。


ーーなんだ…この光…ーー


ゆっくりと目が慣れてきて、何が起こっているのか状況を確認しようと周りを見渡すと、そこは小高い丘の上だった。


?????????


何が起こったのか理解できなかった。目を刺す光の正体は太陽だった。

太陽の位置から、光をモロに直視するように目を開いたのだということはわかった。

だが、部屋の中にいるはずの自分が、なぜ外にいるのか。

丘の下には森が広がっており、その森を横切るように大きな川が流れていて、車四台はゆうに通れる広さの橋がかかっている。


橋の端の両端から道が伸びてはいるが、明らかに土を固めたもので、アスファルトではない。日本にこんな道があるのか?と考えたが、少なくとも自分が住んでいる所にこんな景色があるようなところはひとつも思い出せなかった。


あたり一面が自然の環境であり、緑生い茂る地面、空へ突き刺さらんとばかりに伸びる木々。

風が爽やかにユウトを撫でていくが、迷いはそのまま残していく。


「どこだよ…ここ…」


ここで周りを見渡しても人がいる気配もなく、まずここがどこであるか知る必要があるので、人を探すために丘を降りることにした。


見渡して森の木々の抜けやすそうな場所を見繕って丘を下って行った。


「帰らなきゃ……」



**************


 

 

森の中は木々の隙間から日差しが差し込むくらいの余裕があり、歩きやすそうなところを選んではいるが、制服なので動きにくさは否めない。



少し進んで難関が現れた。

地面から盛り上がっている岩場があり、コケが隙間なく生えている。そこを踏まなければ先に進めない。


迂回すればもしかしたら安全な道はあるかもしれないが、はやくここから抜け出したいことと、気をつければ登った方が早そうだという見立てで、この岩を登ることにした。


膝の高さくらいにあるコケの生えていない出っ張りに足をかけ、岩の上の掴めそうなところを手探りで探し、手応えがあったので、一気に足の蹴り上げる力と腕の力で勢いで登った。

最後には力尽きそうになりそうだったが、なんとか岩に登り切った。


久しく運動していないユウトは、思いの外自分の体が運動していないせいなのか息切れがひどく、岩の上で倒れ込んでしまった。


「はぁ……はぁ……くそッ……こんなに息切れするほど体力が無くなってんのかな……」


 すると、倒れ込んだ所に生い茂っていたコケが生き物のようにうねりながら動き出した。


「うわっ?! なんだよこれ!!」


 苔はユウトの体を押し上げるように盛り上がり、ユウトの体を二メートルほど持ち上げた。

そしてそのままユウトを邪魔な異物を放り投げるように投げた。


「うあああああああ!!」



 この高さはやばい!と思ったが体を守る反応が出るその前に地面に激突した。


「……ッ!……ゴホォッ……」


地面に落ちた衝撃で、肺の中の空気が無意識に口から飛び出した。バウンドして投げられた衝撃の力は2回、3回と転がって消化され仰向けになって終わった。


「イッッッてぇ…」


身体中に響いたたたきつけられた力は、ユウトの左腕に大きく影響して痛めつけられ、腕を上げようとすると激痛が走った。


「クッ……いっってぇ……」


左手を動かしたり痛いところを痛みに耐えて右手の指で左手や腕を押しこんでも、異常はなかった。ただ左腕の芯からじわじわと痛みが這い出してくる感覚があった。

痛む左腕をさすりながら岩の上を見た。

コケはなにもなかったかのように静かにそこにあった。



「おい!そこの人間!」


不意に大声で声をかけられて体がビクッと反応した。

声は後ろから聞こえた。


ゆっくりと振り返ると、三人がこちらを向いて立っていて、自分の事かと指をさして確認した。


「そうだ、そこのおめえだ、ここで何してやがる。」

 

真ん中に立っている人物に尋ねられた。


三人とか人物いう言い方が正しいいかどうかはわからない。

なぜなら、見た目からして人間ではないからだ。


一人は恐ろしくでっぷりとした体格で、体重は、まず100キロはある。絶対にある。いや、下手すると200も超えていそうだ。


鼻先がつまみ上げられたように上を向いて、目は垂れ下がり、見える肌はシワが見えて尚且つ色が桜の花びらのように桃色をしていた。


もう一人はひょろりとしているが、身長は高く、つばの長い麦わら帽のようなものをかぶっている。

肌はテレビで見る戦隊モノの怪獣でしか見たことないような緑色で、不思議とみずみずしさを感じるようなテカリがある。

なにより顔が人間のものではなかった。ぱっと見カエルのように見えた。二足歩行のカエルである。


最後に、茶色の毛にみっしりと包まれている着ぐるみのような奴。こいつが牙を剥いてこちらを見ており、さっき声をかけた奴だ。

体の後ろでは、これも同じように茶色に包まれた細長い尻尾が、手持ち無沙汰で茶色いやつの後頭部の左右を見え隠れしていて、見た目は完全に猿だ。


パッと見てわかることは、彼らは人間とはかけ離れた容姿をしているが、人間のように二足歩行をして、人間にわかる言葉を話し意思疎通をしようとしている。



左腕の鈍痛は、今置かれている環境が夢ではなく、現実であることを加味して考えると、認めたくないがひとつしかなかった。



ーーたぶん…いや、きっとそうだ…異世界に飛ばされてるんだ…コレ…ーー


茶色の体毛にみっしりと包まれた猿はユウトを指差しながら鼻を鳴らす。


「わりいがここであったのが運の尽きだ。俺達がおめえを見逃す方法は2つだ。金を出すか、金目の物をだすかだ。」

猿の獣人が、自分の身長ほどもある棍棒を弄びながらそう言った。


「も…もし持っていなかったら…どう、なります…か?」



「あぁ!? 決まってんだろ。売るんだよ!お前を!」


「う…売る!?」


「ドァンクあたりだといい値で買ってくれそうなやついそうだしな。」


きっきっきと歯を自慢しているかのようにむき出しにして猿の鳴き声で笑う。

金の話になった際に両方のポケットを触ってみたがお金は持っていない。


そもそも現実世界のお金がこの世界で通用するはずもなく、提案された2つの要求は残念ながら答えられそうにない。

猿の獣人が言う、『売られる』という意味は、奴隷としてなのだろうか。


いや、売るという言葉でもう一つの可能性があった。もしかしたら男色家がドァンクというところに集まっているのかもしれない。


…そもそも売る相手は人間なのだろうか…

この世界なら獣人に売られてしまうこともあるかもしれない。

そうか、この世界でだれかの本当の奴隷となって生きていくのか…



……


………




ーーいやいやいやいや無理無理無理無理!

なんとかしてこの場を切り抜けなければ…ーー




「んでぇ!金目のものはだすのかい!」


「サイ兄チィ、もうこいつ食っちまおうぜ。オラはらへった…」


豚の獣人が腹をなでよだれを垂らしながら舌なめずりしている。


「うるせえ!キーヴィ!おめえは口開けば飯飯飯飯!飯のことばっかりじゃねえか!」


猿の獣人はサイ、豚の獣人はキーヴィというらしい。

サイのげんこつがキーヴィの頭に落ちた。

あいた!という声が森を響き渡る。


「痛ぇ! 兄チィ暴力はいけねぇよ」

「っるせぇ!黙ってろおめぇはよ!」


げんこつを落とされた場所を両手でさすりながら涙目になっているキーヴィを横目に、カエルの獣人が喉を小刻みに膨らませながら呆れた面持ちで首を横に振った。


「兄上。今はこの小僧の事に注力すべきでは? あまり身内の失態を悟られるのは無意味かと…」

 

「ケッ!ユーマも一言多いぞ。どうせ売りさばく小僧に悟られたところでなんも関係ねーだろぅがよぉ!」

 

「サイ兄チィ!なんでユーマはげんこつねぇんだ? 」

 

「あーうるせえうるせえ!ユーマは頭使う係だから殴らねぇんだ!」

 

「ずりぃーぞ!兄チィ!」

 

「うるせぇ!黙ってろ!」

 

キーヴィの頭に更にげんこつが落ち、あいた!という声がまた森に響き渡る。

 

「ユーマばっかりえこひいきするのずりぃぞぉ」

 

「えこひいきじゃねぇ!おめえの頭のネジ締め直してやってんだ!ありがたく受け取っとけこの野郎!」

 

握りこぶしを振り回しながら顔を真っ赤にして怒り散らすのだが、キーヴィは首を傾げて「ネジ?」とサイの言葉を切り取り考え始めた。ネジとげんこつの関係性なんてあるはずもないのだが、キーヴィはサイの言ったことを反芻すよう繰り返し、腕を組んでうーんとうなり始めた。

 

「兄上。」

 

「あぁん!今度はなんだこのやろう!」

 

ユーマは静かに指を指した。



「小僧が逃げました。」


指差した方向はユウトのいた場所だったが、もうそこには姿はなかった。言い争いをしているうちにゆっくりと後ずさりして、二度目のげんこつが落ちる前には背を向けて走り去っていたのをユーマは見ていた。

サイはわなわなと震え始めこの三人の結束力のなさに憤る。

 

「サイ兄チィ、げんこつでネジはしまんね…」

 

キーヴィは言いたいことをサイに伝える前に、本日3度目のあいた!が、最も大きく森に響き渡った。



*******


ユウトは走りながら、引きこもり生活で衰えに衰えていた腕も足も肺も限界を迎えていた。


逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!と同じ言葉が脳内を駆け巡る。

後ろを振り返る事もせず、ただひたすらに街道との距離を縮める。本能的にそれが最も助かる可能性が高いと判断した。


ーー人がいるところへ…誰か…誰か…

誰か助けて!

声が届くところまで行けば…ーー


木々の影が減り、目の前が明るく開けてきた。


ーー森を抜けれる!ーー


光に向かって最後の力を振り絞った。

そして光の中へ、森の外へ駆け抜けていった。



その瞬間だった。



ひゅん!と風を切る音がユウトの体にまとわりつき、体の自由を奪った。

ヒヤッと冷たいものが腰のあたりをベルトのように包み込むと、抜けたはずの森に強引に引き寄せられた。


「うあああああああああああああああ!!」


ユウトの叫び声がユウトと共に森へと消えていった。



引き寄せたのはユーマだった。

戻ってみればなるほど、カエルだけに舌が伸びて捕まえられたのかと種明かしはあっけないほどかんたんに理解できた。


勢いよく戻って来たときにキーヴィの腹に半分くらい埋まり、ぽんっと弾かれユウトの体に巻き付いていた舌が音も立てずにユーマに戻りハンカチで2度、3度と口を拭う。


力をほぼ使い果たしたことで、倒れ込んで起き上がることすらできないユウトを三人が見下ろしていた。


先ほどと違うのはサイが真っ赤な顔をして、牙をむき出しにし、怒りを顕にしていること。流石に察しの悪い人間でもこれはわかるだろう。

終わったと。



「手こずらせやがってよぉ!このクソ小僧が!」

 

「サイ兄チィ。こいつが逃げないようにオラ上に乗ってもいいか?」

 

「バカかおめぇは!潰れて死んでしまうだろーが!おめえの重さは地面が断末魔あげるレベルだって何度いやぁわかるんだオメーはよぉ!」

 

「すまねぇ忘れてた…ああ!げんこつは勘弁してくれよぉ…」

 

サイが拳を握りしめ、今にも殴り掛かりそうな剣幕だが、キーブィは怯えてげんこつを遮るように手を頭の上に置いた。そんな様子に少し毒気の抜かれたサイはユウトを見下ろし、ピクリとも動けず息を整えることに懸命なユウトを見てニヤリと笑み。

 

「さて、こいつの身ぐるみをはいで売りさばこうぜ。その金でうまいもん喰うぞ。」

 

待ってましたと言わんばかりにキーヴィが飛び上がって喜びの声をあげたが、ユーマは軽く首を横に振る。


「なんでぇユーマ。おめぇは気に入らねえのか?」




「兄上。招かざる客のようです。」


ユーマが指を指した森の奥に少女と女性が立ってこちらを見ていた。

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