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僕と異世界姉妹が魔女の黙示録へ送る復讐譚  作者: ワタナベジュンイチ
第五章:聖書記誕生
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第五章 16:姉妹

ダイバ国 シューニッツ邸


クズモは三人の娘を広間に呼び出した。

長女マリア 次女ジュリア 三女サリサ

シューニッツ三姉妹はダイバ国のみならず、近隣諸国にも名の知れた美人三姉妹だ。


 三人の母親はサリサを産んだ後、不治の病でこの世を去った。以来、マリアは妹達の母親がわりとして二人に接してきた。故にジュリアとサリサからの信頼は厚い。


 金色の腰までの長い髪がマリア。マリンブルーの鮮やかな青い髪が肩甲骨までの長さのジュリア。ツインテールの桃色の髪がサリサ。

 それぞれ姉妹らしく顔はどこか似ているが、マリアは優しい女性。ジュリアは魅惑的な女、サリサがツンツンしているわがままな女の子と称され、実際にその通りの性格だった。


 三人で広間に向かう中、サリサはマリアの腕に絡みつくようにくっついて甘える。


「おねぇさまぁ〜ヴァイガル国で買った高級バニ茶は、もう召し上がっていただけましたかぁ?」


 猫撫で声で桃色の髪の束が左右に揺れながら尋ねるサリサにマリアは微笑んで


「いえ、まだいただいていないわ。せっかくのヴァイガル国のお茶ですもの、二人と一緒にと思って。」


 と優しく答えると



「ジュリアに高級なお茶の味なんてわかるのかしらね」


口を尖らせて嫌味を言うサリサに対し


「あら、高級なお茶に蜂蜜を入れるようなお子様に味がわかるのかしら?」


 と嫌味に毒を少し混ぜて返すジュリア。


「何言ってんのよ! 蜂蜜を入れる飲み方はバニ茶の全てがわかる本に書いてあるのよ! これだから教養のない姉を持つと苦労するわ」


「あらあら、顔を真っ赤にして……言われて悔しいのならそう言えばいいのに……」


 サリサの堪忍袋の尾がキレそうになる寸前に


「おやめなさい。二人とも。これからお父様の所に馳せ参じるのですよ? 痴話喧嘩なら終わってからになさい」


 美しい金色の髪を揺らしながら二人を優しく強く制する。


 マリアの言う事を二人は絶対的に聞く。二人はマリアを姉として、人間として敬愛している。

 小さい頃から母親がわりとしてマリアが二人に愛情を注いできたことに起因する。


 しかし、サリサが甘えるのはここ最近のことでそうする理由があった。


 きっと呼ばれた広間に『あの男』もいるのだろうと思うとサリサは気が重かった。

 ジュリアはなんとなく理解はしていて、サリサが突っかかってくる気持ちも少し理解していた。


 二人は『あの男』を がいるかもしれない思うとマリアの背中が遠く感じた。




 広間に到着すると、クズモと国防参謀の一人であるシエルマ、そして、二人が予想していたあの男もやはりいた。

 シエルマの遠戚の剣士だ。

 剣士は少し額の上がった青年だが、目つきが悪く眉間に皺が寄っていて、まだマリアに近い年齢らしいが一回り年上に見えるほどだった。

 クズモは三人が来たことに気がつくと手招きをして


「やっと来たかね。こちらに来なさい」


 と呼び寄せた。

 マリアは一礼してから歩み寄るが残りのサリサは乗り気ではなかったが、クズモの前では抗うこともなく仕方なしに、ジュリアは表情を読み取られる事がないようにマリアの後ろについて歩み寄った。


「マリア様、お久しぶりです」


「ええ。ナハト様。随分とお会いしていない気がしますわ」


 シャクナの遠戚の男はナハト。マリアの『婚約相手』だ。

次期ダイバ国の代表はマリアになるが、結婚相手として相応しい人物を選ぶため、剣舞館と呼ばれる施設で競い合い、勝ち抜いた剣豪だ。


 マリアの婚約相手をえらぶと知って、ジュリアとサリサは猛烈にクズモに食ってかかったが、マリアが嗜めて、運命として受け入れた。

 それが二人には気に入らなかった。クズモのやり方も、マリアが受け入れたことも、ナハトの顔も仕草も気に入らなかった。


 ナハトはそんな妹達のことは意に介さず、マリアだけを見て深々と礼をした。


「私のような者にも慈愛をいただけるマリア様のお心の広さに感服するばかりです」


「まぁ……ありがとう」


 満更でもないマリアに妹達は心の中で悪態をナハトにだけ向けてつく。

 クズモが手を一度叩いて注目を集める。


「挨拶はそこまでにして、二日後の事について話をしておこうと思う。これは国運をかけたものだ。決して軽んじるではないぞ」


「はい。お父様」


「うむ。二日後、剣舞館でお前達三人はドァンクから来た使者と試合を行う。ヴァイガル国につくか、ドァンクにつくか決める試金石と言っていいだろう」


シエルマは鼻で笑って「獣人ごときが我が国と対等に肩を並べられると思うな」と悪態をつく。


 シエルマはヴァイガル国の首脳陣と同じ人間至上主義者だ。

クズモは快く思っていないが、表立って獣人に向かって言うわけではないので目を瞑っている。シエルマの発言は気にも止めず続けた。


「ドァンク側の使者はワモのところで稽古をつけているようだ。そこでお前達も二日後に向けて稽古が必要と思ってな、シエルマとナハトを呼んだのだ」


 ここぞとばかりにシエルマは前に出て胸を叩く


「お任せくださいクズモ様! 獣人になびく人間などシューニッツ三姉妹の敵ではありません!」


「シエルマよ、意気込みは充分だがあまり気負うなよ。命のやり取りは望んではおらん。」


「何をおっしゃいますか! 剣舞館で闘うならば命のやり取りになることもままあります故、三姉妹には最高の稽古をつける必要があります!」


 クズモの懸念はまさにそこだった。三姉妹はダイバ国でも屈指の実力者だ。命を失う前に勝負を決する審判を行うが、全てを知る者であるユウトの事は全く存外で、どうなるか見当もつかなかった。


「……もしお主達の気が乗らないのならおりても良いのだが……」


 クズモから弱音が思わず出るとマリアは


「いいえ、お父様。これは国の命運を左右する闘いです。私達はヴァイガル国を支持しておりますし、闘う理由として充分です」


 と決意を述べるとシエルマも破顔して満面の笑みを見せて笑い声が広間に響き渡る。


「ガハハハ! さすがマリア様! お目が高い!」


 三姉妹は母親を失った病は、獣人からもたらされたものだと聞かされていた。

 獣人の病は人間にかかることはほとんどないのだが、稀に人間にうつることがある。症状は人間はひどくなり、産後の体力のない時期にかかってしまい亡くなってしまったとクズモから聞かされていた。

 三姉妹は、マリアが中心だ。そのマリアが獣人に与することはないという以上、ジュリアもサリサも闘う理由になる。


 ドァンクと手を組むなんてあり得ないとマリアが考えているのなら、二日後の剣舞館での闘いに負けるわけにはいかなかった。


引き分けも負けも許されない。

 マリアの心に火が灯る。


「シエルマ様、また昔のように稽古をつけてくださいますね?」


「ガハハハ!もちろんですとも!」


「ありがとうございますわ。」


 マリアは妹達に向き直ると


「あなた方も真剣に取り組んでくださいね?」


 マリアが言うのなら二人の返事は決まっていた。


「もちろんですわお姉様」

「アタシ達もやるわ!」


「ありがとう」



「ガハハハ! ワモも三姉妹が相手となると分が悪いと思っているに違いない!」


 シエルマは天井に笑い声をぶつけるように笑う中、、ナハトはニヒルに口元を歪めて顎に手を当てて


「私も、絶対にマリア様が負けないようにお手伝いしますよ」


 とまるで執事のように礼をした。


 ジュリアとサリサはナハトが気に入らなかったが、目的が一致して少しだけ溜飲が下がった。


 しかしナハトは不安なことを口走る。


「全てを知る者の首を差し出せば、ヴァイガル国との関係も強まるかもしれませんね……」


 クズモは話が過激な方向に進むのを止めた。


「やめよ。そこまでする必要はない」


だが、クズモを制したのはマリアだった。


「あらお父様。私たちが勝てばヴァイガル国との関係を強めてドァンクに対抗するのでしょう? ならばお土産はある方が喜ばれますわ」


「マリア……」


 マリアは小さく笑って


「違いますか?」


 と、問う。

ジュリアとサリサは、マリアが沸々と怒りが込み上げていると気がついて、口をつぐんだ。

 ジュリアとサリサの母親はマリアだ。しかしマリアにはいない。

 病で死んでしまった母から享受できなかった愛情が足りていないと自覚していたマリアは、怒りの矛先が定まった。


 にわかに冗談に聞こえないマリアの発言にクズモは言葉を失った。マリアはニコリと微笑んで


「全てを知る者など世界の異形。必要ありません。」


 強く言う。

 そしてシエルマとナハトに向き直り


「早速稽古いたしましょう。準備は万全にしておきたいですしね。ねえ、あなた方もそう思いませんか?」


 ジュリアとサリサはマリアの機嫌を損ねないように、頷いた。



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