たどり着いた先
更に2人は歩き続けて、何時間歩いたんだろうと思い始めた頃には日も沈み、月が夜空を照らし始めて来た。
平野を歩いていれば多少歩きづらいだけですんだが、今歩いている場所は林の中だ。
暗い中を歩くのはエレインも不安があるかのように、慎重に歩き進めていく。
頼りは夜空に浮かぶ、月の淡い光が木の枝をすり抜け、2人の周囲を僅かに照しているだけだが、そんな淡い光でも将生が一緒にいるだけで気持ちが、少し楽になっている気がした、エレインだった。
歩き続けて、小さな泉を見つけたエレインはここを野宿地点にしようと、2人で拾ってきた枯れ枝を地面に置くと将生の様が親のまねをする子のようで、エレインは再び笑みを漏らした。
枝からとった枯れ葉に、治療魔法以外は不得意なエレインが使える、最大級の火属性魔法は僅かな小さな火の玉が飛んで行き、燃え広がったところで枯れ枝を追加して、たき火を起こす。
火があれば獣が近づきづらいし、夜がふけて冷え込んだ時の為に燃やし、夕食は山から持ってきていた果物だ。
味は薄いが空腹は満たせるので、2人は分け合い食べる。
食事を終え、汗や汚れが気になったエレインは水浴びぐらいは、出来るだろうと立ち上がる。
そのエレインに将生はどうしたんだろうと視線を向けた。
エレインはこれから体を拭いてくると伝えようとする。
命の恩人で、1度は見られた裸体だが、さすがにまた見られるのは恥ずかしいので、ここで待つようにとジェスチャーをしてみた。
将生は首をひねり「………」無言の反応だった。
上手く伝わっていないかと思ったが、将生は直ぐに頷いて焚き火を木の枝で突っついている。
伝わったのかと不安を拭いきれないエレインは顔をしかめる。
そんな顔をした、エレインに将生は何かしでかしたかと、不安そうな表情になる。
勘違いしている事は2人には、理解出来てはいないが、エレインは慌てて将生に近寄り、どう伝えればいいかわからないので、微笑んでみたりとするが、2共に会話不可能という事の不便さを再認識した。
(うーん、水場に来る事はないわよね。?)
エレインは将生に手を振り、1人で泉に向かう。
将生はトイレに行くのかと、手を振り返した。
泉の畔にたどり着いたエレインは、1度振り返り将生がついて来ていない事を確認してから、ワンピースを脱ぎ、枝に掛けると泉に入って行く。
水を浴びながら、さっき首をひねりながらも将生に伝わって良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。
エレインにとっては素っ裸で、泉に入る事は初めてだったが、泉の水が疲れた体を癒すかのようで、肩まで浸かりたがったが、地べたに座っても泉は浅く、腰までの深さしかなかった。
さほど広くはない泉に、1人の裸でいるエレインを妖精のように、立ち止まって見ている将生の思考は停止している。
汗や汚れを拭きとって少しさっぱりしたエレインが岸に戻ろうと、振り返った時に、将生の存在に気が付いた。
再び見てしまったエレインの裸体は、月の淡い光に照らされて、ハッキリと見えている。
ふくよかな乳房にしては、小尻にのわりに引き締まった腰は、エロチックではなく、神秘的な美しさだと将生は思った。
エレインも将生の存在に気付いたが、身動き出来ずに立ち尽くしていた。
顔を赤くした将生が慌ててなにかわからない動作と言葉を発して、走り去っていった。
「ごめんなさい………」
「hyjk;:jn!」
焚き火のある場所に戻って来たエレインだったが、気まずい雰囲気の中で、言葉を発するも意思を伝えることも出来ずに、沈黙の時を過ごさなければならなかった。
そうして不自由な雰囲気の中でも、意思伝達をしなければと、何度か話しかけるが、言葉は通じない時間が流れ、することがなくなる。
言葉が通じれば会話を楽しむことが出来ただろうが、互いに聞きたいことはたくさんある。
会話可能ならば、それこそ夜通し話をしていただろうか?だがそれはもしもの話だ。
今は黙っているしかない。
エレインは静かな森の空間での、焚き火の音や虫のざわめきを聞くうちに、瞼が重くなっていく。
元々が睡眠不足ということもあるが、ここまでくるのに精神的にも体力的にも疲れていた。
2人共に座って、大木に背中を預けたまま寝入ってしまったエレインを見て、将生はそのままにしていたが、時間が経過すると将生に寄りかかったエレインの頭を自分の太腿にのせる。
「これで少しは寝やすくなると思うけど?………無理していたのかな?」
起こさないように小声で呟いた。
将生はゆっくりと座ったままで見上げると、頭上には木々の隙間から星が見える。
ここまで綺麗な夜空は生まれて初めて見たのだが、今の将生にはそれを楽しむ余裕はない。
「それにしてもここどこなんだろうか?………可能性としては異世界なんて事も考えられるけどまさかね?」
思い出すのは家族の事や記憶が途絶えた時の教室の事や、間近に迫っていた剣道の大会の事や、好きだった女の子の事を考えると、気持ちが沈んできて、重い重いため息が吐き出されるのだが、自分の太ももに頭を乗せて寝ている、エレインの事も考える。
「こんなに綺麗な人でも、何か訳ありなんだろうけど、何か問題を抱えている人が目指してる場所って………」
将生は再度重いため息が吐き出した。
「わからないことはまだある。
歩き続ける事は出来るだろうけど、疲れがないっていうのは、どうなんだろう?」
答えが返ってくることを期待していない呟きに、当然のごとく返答はなかった。
エレインの肩にそっと手を添えて、そのままぼんやりとしていた将生はいつのまにか寝息を立て始めた。
寝ている間に将生の瞼から涙が流れる。
不安や郷愁が高まって無意識に溢れ出ていた。
火が消えて夜の寒さに、エレインが目覚める。
起きたエレインは将生の太ももを枕にしていた事にすぐに気付いた。
礼を言おうと将生の顔を見たエレインは涙の乾いた跡を見つけた。
「泣いていたのね?貴方にも何かの事情があるのかしら。?」
そう呟いたエレインは将生の頬に、そっと手のひらを添えた。
隙だらけの2人は獣や魔物にとって格好の餌な筈だが、しかしそれらが近寄ってくることはなかった。
むしろ近寄らず息を潜めている。
原因は持ってきた黒き竜の鱗だ。
黒き竜の匂いを放つ存在に近寄る気にはならないだけで、匂いで危険がわからないのは人間くらいだ。
山を出て4日目の昼過ぎ、ようやく2人はセリーヌの家に辿り着く。
将生は薄汚れてはいるがさほど疲れをみせてはいないが、一方でエレインは疲労困憊の一歩手前というところまできている。
整備された道を歩かず、人目を避ける為に、林などを通って来た為だった。
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いっぽうで、新井将生が肉体を維持したまま空から落下した時に、同じ教室にいた、もう1人の少年は魂だけの転移をしていた。
………んっ?死んだんじゃないのか?
教室での次元空間の爆発を認識していた、1人の少年の周りには人の気配がなかった。
「いてっ………うぅー」頭の中に色々な情報が、アニメを早送りで見ているかのように、情報と知識が頭の中にアップロードされていく為の痛みなのか、頭痛が酷い………思わず頭を抱えてしゃがみこむ。
頭痛の痛みが和らいで、自分がアラン………アラン・フォンタナという人物なんだと???
「死んだのに………なんで?」
両親は白々しくも、クロフォード家に養子になるように、強く薦めてきて、そのクロフォード家が、今後に掛かる学費や生活費を全額負担してくれるので、大変楽になるという事だった………昔でいう口減らし。
遠縁のクロフォード家が跡取りが居なくなるから、養子に立候補したら承諾されただぁー!
………なんだこの世界は………
つぅーか、記憶を辿るとアランってヤツ、本当の家族じゃないから煙がられてて、学校でも虐められていたってか!?
ふ~ん、じいちゃん子で……フムフム、オスカー爺さんから剣術を習ってたのか???おお、魔法も使えるみたいだな?
「よし、今、暫く彼の者の目を眩ませ。閃光」ピカッ「おお、すげえ………」
効果は名前のとおり、眩い閃光で相手の目を眩ませる。閃光弾のようなもの………おい、光るだけかよ?
んっ?アランって、この光魔法しか使えないのか………んっ?なるほど、幼き頃の記憶がなくなって、1人だけの肉親も亡くなり、親戚だった今の両親に預けられたから、その前に他の魔法も使えたかも知れないけど、思い出せないと………
それで、戦士や剣士には向いてないから、剣術の練習に打ち込んでたって訳だ。
でぇ、女の子みたいな顔付きで、容姿もそんなかんじだから、虐められていたと………兵士や冒険者にもなれないなら、稼げないだろうから、未来の希望も少ないから、捨て子のように、養子に出しましたと?
可哀想なヤツ………んっ?
俺じゃん………なんなんだぁー、いったいどうなってるだよ???
はぁー。
でぇ、僕………いやいや俺は義理の両親と折り合いはよくなかったが、ここまで育ててくれた義理の両親に対して感謝はしているからといって、開いた距離が縮むこともなく、肩をすくめて養子に行くことを受け入れた。
うむ、優しいヤツだね。
はぁ、行きますか………指定された場所にたどり着いて、しばらく佇んでいると迎えが来た。
車で来るかと思ったら、馬車だったので、どこかの成金かと思ったが、もっともそれは過大評価で、ちらりと見えた内装はなにもない………馬車の御者席に乗っていたのは、中年の男性だった。
「アラン・フォンタナ様ですか?」
中年男性は丁寧な物腰で訪ねてきた。
「そうですが」
「お迎えにあがりました。どうぞ」
男性は後部にある馬車のドアを開けた。
促され、アランは馬車に乗り込むと、中年の男性は御者席に座り、無言で馬車を走らせる。
しばらくすると「こちらでお待ち下さい。」
言われるままにアランは馬車から降りると、目の前の光景にしばらく、唖然としていた。
目の前に広がる庭園が、花と花の間に石畳の道を作り、奥にある屋敷に続いている。
「おお……」
足下は石畳で周囲は花や木に芝生が広がる、なんて立派な公園みたいだと、前世の記憶が甦るので、頭を振ってから深呼吸をする。
とりあえず、石畳の道を屋敷に向かって歩き出す。
御者席に乗っていた、中年の男性も後ろから歩幅を合わせるようについてきている。
しばらく歩くと大きく育った木に、日差しが遮られてたりが繰り返すと、屋敷の前にメイドなのかと思わせる人が立ていた。
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