大空と生け贄の儀式の中で・3
朝起きて家を出て、学校に………思い出せる範囲で記憶を辿っても要領を得ない………当然だ。
何かの爆発の光に包まれて、突然大空から落下して、黒き竜に衝突してしまったのだ。
思い起こしたところで、現状を理解出来るはずもないだろう。
「まるでライトノベルの小説か漫画みたいだ。
とりあえずこの人に聞いてみようっと、まず起こさないとダメだろうけど、この外見だと日本語通じない?」
少し緊張しつつ将生はエレインの肩を叩いて、それで起きないので肩を掴み揺する。
「起きて、起きて!?」
まだまだ寝たりないという様子ではあるが、ゆっくりとエレインは目を開く。
目を開き将生を見るまでの間に、助かったことは夢だったのかもしれないと、ネガティブな考えが生まれていたが、目覚めた場所は籠の中ではなく、黒き竜の腹の中でもなく、眠ってしまった場所………。
上半身を起こして、自分の下に治療した少年がいる事から、夢ではなく本当に助かったのだと、安堵のため息を吐いた。
エレインはどこか痛む箇所はないか聞くため、将生はハダカ、裸だよと言うため、同時に口を開いた。
「ΒΘΟΚΔδ?」「はだかですよ?」
互いに発した言葉がわからない。
互いに聞き間違いかともう一度口を開いた。
将生は明らかに英語ではない言語に言葉が通じないことを確信し、エレインは単純に聞いたことのない言語に首をかしげた。
将生はジェスチャーでどうにか意思疎通できないかと、いろいろな動きを試みる。
だが不思議そうな顔で首をかしげる、エレインにまったく通じていないのだと悟る。
他者が見ていたとしたら、素っ裸の美女が跨いでいる下で、腕だけでおかしなダンスを踊る少年といった図だ。
本人たちは真面目な表情なのがギャップとなり、さらに笑いを誘うかもしれない。
途端に将生は不安と焦りに包まれ、エレインは自分が何も身に付けていなく、素っ裸な事を思い出して悲鳴をあげた。
「きゃー」
将生はエレインが立ち上がり、悲鳴に驚き後ろを向いた。
しばらくは、将生も不安を忘れたのか、エレインの揺れていた乳房を目にして、だらしない表情になっていたが、肩を叩かれて振り返る。
将生にとっては此処が何処だかもわからない上に、素っ裸の美少女が目の前にいたのだから、どうしてこんな事になっているのかわからない。
直ぐに、その不安は表情にも表れる。
通じないとわかっていても必死に言葉を発して話しかける。
将生の目が潤み、不安がっているとわかったエレインは、将生が落ち着くように頭を撫でる。
エレインが幼い時に泣いていると、侍女頭に撫でて貰い気持ちがおちつ、泣きやんだの思い出した。
怖がらなくてもいいと微笑みを浮かべ、ゆっくりと撫でる。
貴方の敵ではないと想いを込めて撫で続けているが、将生の思考は着ている上からでも揺れるエレインの乳房の谷間に、視線は釘付けだった。
思わぬエレインのおかげで少しは落ち着けた将生は、もういいとエレインの手をとって、撫でるのをやめさせる。
「ありがとう」
通じないとわかっていても、ありったけの思いを込めた言葉を投げ掛けた。
エレインは笑みを浮かべたまま首をかしげた。
エレインが自分の胸に手をあて言葉を発する。
「エレイン?」
名前だけでも知らせようとしたのだ。
もう一度名前を言って、次は将生を指差した。
なにをしているのだろうと将生は首をかしげたのを見て、エレインはもう一度同じことを繰り返す。
さらにもう一度繰り返したことで、将生はようやく名前を言っていると推測できた。
「………マ・サ・キ?」
指差された時に自分の名前を言う。
エレインが発した自分の名前に頷き、再び指差され名前を言われ頷いた。
そうして微笑んだエレインに安堵した。
名前だけでも伝える事が出来て、意思疎通が絶対に不可能ではないと証明され、不安が少しだけ晴れたのだ。
名前を伝えることが出来たエレインは、将生を不安にさせないよう表情は笑みのままでこれからどうするか考え込む。
王宮に帰って、生け贄の使命から逃げ出したのだと、勘違いされるだろう。
父親の国王のアーサー・ザンブルクは受け入れるかもしれないが、貴族のみんなはなんて事をしたのかと怒り出すに決まっている。
そうなると国に迷惑がかかる。
黒き竜は死んだのだと説明しても信じてはくれないだろう。
何人もの猛者が挑み死んでいったのだから、倒せない存在なのだと思い込んでいる。
人間の将生を連れて行っても信じてくれそうにない。
15才の将生の外見だけではとても倒せそうには見えないのだ。
それに信じて貰えても貴族達にいいように利用され、使い潰される可能性すらありえる。
なにせ伝説の黒き竜を倒した英雄と言ってもいいのだから、使いようによっては、他の国との外交の切り札にもなりうる。
命の恩人にそんな目にあってほしくはない。
(それに、交渉事が得意そうにも見えないし、取り敢えずはセリーヌのところに行きましょう。
あそこなら集落から、離れているから隠れるのにちょうどいいし、セリーヌも他に私の事を言わないし。
問題はここから離れてるってことよね。
この子素直についてきてくれるかしら?)
方針を決めたエレインは立ち上がると、つられるように将生も立ち上がる。
万が一、セリーヌが渋った時の事を考え、エレインは土産を持っていくことにした。
土産とは竜の鱗だ。
滅多に手に入らない物だし、黒き竜が死んだことの証明にもなる。
将生がぶつかり割れている頭部の箇所に手をかけて力いっぱい引っ張る。
人間の女性の力では、剥がす事は困難で、思いっきり引っ張っても肉から剥がれない。
「んーっはがれないわ、困ったなぁ。 マサキさん?手伝ってくれるの?」
エレインの行動を見て、鱗が必要なのかと考えた将生は手伝うことにした。
エレインが苦労している姿を見て、剥がすのは大変なのだろうと思って両手を使ったのだが、シールのように簡単に剥がす事が出来た。
エレインはよほど力がないんだなと思いつつ、これならば片手でも大丈夫だと判断し、次々と鱗を剥いでいく。
そんな将生を見てエレインは驚きの表情を浮かべている。
(見かけによらないのね………)
楽に剥がせるような筋力を将生が持っているとは思っていなかったのだ。
だがその驚きもすぐに納得に変わった。
あの邪竜………黒き竜を殺せるのだから、見た目と違いすごい力を持っているのだろうと。
両者ともに勘違いが入っているのだが、指摘する者もおらず、出来る者もいない。
そのまま勘違いする事となった。
数十枚ほど剥がさしたところで、将生はエレインに止められた。
鱗を渡すような仕草をするエレインに、将生は剥がしたばかりの鱗を渡す。
エレインは鱗を包む物を探したが見当たらない、そんなキョロキョロしていると、長細い筒のような物と四角い袋を見つけた。
同じく将生も見付けて、それが自分の物だと気が付き近寄ると、バックの中身は何も無い?落ちてくる時に中身が出てしまったのか、どちらにしろ竜の鱗を入れるのには、ちょうどいい。
鱗をカバンに入れ終わると肩にかけ、もう1つの竹刀ケースも、もう片方の肩にかけた。
そしてエレインはセリーヌの家がある方向を指差し、将生の腕をひっぱり歩き出す。
腕を掴まれて歩き続けているが、何処に向かっているのか、わからない将生は時折不安にかられたが、そのつど不安を察したエレインが気遣うように顔を向けてくるので、1人ではないと不安を晴らすことが出来ていた。
情けないところを見せたくはないという見栄もあった。
不安は見抜かれていたので、あまり意味のない見栄だったが。
(弟がいたらこんな感じなのかしら?)
将生が気丈に振る舞う様子が微笑ましさを感じて、そんな事を思ったエレインはクスッと笑みを浮かべていた。
歩き続けていれば当然お腹も空いてくる。
そんな時はエレインが森の中の果物などを見つけ出して、先に食べて見せる事で大丈夫だと示した。
喉が渇き、見つけ出した小川では水の透明度に将生が綺麗だと驚くも、何で驚いているのかエレインにはわからない様子だった。
疲れると休憩し、困った事があればエレインが解決するというパターンで2人は歩き続けていき、山を下りきると2人は城下町を発見した。
一晩くらいは泊めてくれるのではと、安堵の表情を浮かべた将生が、城下町の方へ歩み進み出すとエレインが止める。
どうしてと振り返った将生は初めてエレインの困った顔を見た。
城下町から、それるように歩くエレインに、将生は素直について行くしか出来ないでいた。
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