森の化け物
それにしてもシンディの反応から見る限り、魔法を使う人間は一定の認知度があるようだ。
ただセリーヌやエレイン以外で、まだ魔法を使っている者を見てはいないのだ。
フローラにしても魔法というより、スキルみたいな物だろうし、魔法にしろスキルにしろ使える者の人数は、この世界にはそれ程多くないのかも知れない。
「ただいまぁ~」
そこへ、出掛けていたヘレンが帰宅してきた。
『入って来た瞬間から、嫌悪感を露にした表情で見つめるヘレンは、カラフルなチェック模様の前ボタンのシャツに、ジーンズのようなズボンを穿いている。
ズボン?パンツ?あれ?こっちでは女性は独身者はミニ丈の?んっ?
よく見ると半ズボン姿で、身長は160センチ弱程で、髪は金髪の近い明るい茶色でサラサラとした髪を、肩辺りで揃えている事で、日頃はドジっ子って感じだが、活発なタイプの女性なのかと思わせる。
その容姿を見る限りで言うなら、想像していたよりヘレンは幼くはなく、年は少し年上かもしれない。
みかん色の瞳はクリっとして愛らしいが、肉体的にも着痩せするタイプなのかも知れないと思うのは、日頃はベスト越しで、そこまでは目立っていなかったが、カラフルなシャツインしているせいで、ウエストの細さがはっきりとわかる。
インしたシャツがヘレンの胸の大きさを強調しているので、ヘレンはギルドの制服とは違った色気を漂わせている。
はっきり言おう、エロチックな体つきだ。』
…………バチぃーん!?
「聞こえてるわよ。!!そういう感想は声を出さないで言いなさいよ。」
「痛いのですが………」
「あんたが悪いんでしょ、まったく反省しているようには見えないんだけど………まぁ、いい所に来たわ!」
胸を両腕で隠し、頬を染めているのに何かを思い付いたヘレンは………
「ヘレン、あなたこちらの冒険者の方と知り合いだったの?」
そう言われたヘレンは将生を1度見て、頭から足の下まで見てから、少し間をおいて、自分の感想を話し始めた。
「う~ん、私の知り合いではあるのだけど、これから薬草採取に行こうと思っていたから【護衛】として………どうみても頼りないわね?」
完全にバカにされたし、大事な部分の言葉を強く言われて、少し気持ちは沈むが、それは見た目の話だからしょうがないと諦めて………
「なっ、ダメよっ!薬草の採取なんて危険でしょ!それでなくても盗賊が出るのよっ?」
はっはは………シンディさんもヘレンが、バカにした言葉をスルーしましたけど………
「でも………その為にマーベラを追い掛けて来たのよ、報酬は無くても大丈夫だろうし?」
( ̄□ ̄;)はっ!?報酬の話をしてませんが!?
ヘレンが考えている内容を聞いたシンディは、厳しい口調でそれに反対し、ヘレンは教会の為、マーベラの思いの為にと難色を示す。
そして将生は依頼内容は連れて帰る事であって、森に行く内容ではないし、依頼料金はどうなるのだと悩み考えていた?
そんな事が頭の中に湧いてくる。
「そうだわ、私が代わりにその薬草の採取に森に入るわ!」
「ちょっと待ってシンディさんは、足を怪我してて無理でしょ!」
「それがね、ヘレン聞いて、私の足の怪我をそこの冒険者の方が治して下さったのよ。
だから森に入るのも大丈夫よ………ほら!?」
シンディはそう言って、先程治癒した足の怪我のあった場所を、スカートの裾を捲って、ヘレンに見せる。
あぁ、残念………見えなかった。
ヘレンは少し驚いた顔をして、その怪我をしていた足と、こちらを交互に見る。
「でも、足が治った事は認めるけど、シンディさんは薬草の種類とか、生えてる場所とか知らないでしょ、それに頼り無さそうな冒険者が一緒なんて、全然ダメじゃないっ!」
どうやらシンディの方はあまり薬草の知識に明るくないらしい。
このまま2人が討論してると日が暮れてしまいかねない………。
「護衛として拙者も全力で任務にあたるしょぞんでござる、どうぞシンディ殿には幼きマーベラ姫と、一緒に留守を頼むでごじゃる。」
パチーン………あぅ?
ヘレンに後頭部を叩かれた。
「通じたけど、何処の言葉よ!?
まったく、はい、決まりね。
シンディさんは留守番ね、ほら行くわよ。」
ヘレンは早口で、一方的にそう告げて、部屋の隅に置いていた籠を取って戸口から出て行った。
将生もそれを追って、バックを持って家を出る。
出る時にシンディからは危険な森ですから、ヘレンをくれぐれも宜しくお願いします、と言われた。
いざとなれば、ヘレンをお姫様抱っこして、叩かれた怨みを晴らすように、腕と指先で女体の感触を楽しみながら、跳んで跳んでの逃げの一手だ。
『主さま………マテーラ村に来てから、キャラが変わってますし………気持ち悪いです。』と、夜刀さんにツッコミされながら、村内を見廻すと、ヘレンが村の門の傍でこちらに手を振っていた。
一緒に村の門を潜り、村の木壁に沿って北側へ移動する。
「ねぇ、マサキが来たのって、フローラ様に言われたからでしょ?
それに、私を連れ戻すように言われたんしゃない?
でも、この機会にマーベラの思いを叶えてあげたいの、だから取りに行くわよ。」
ヘレンは言った後に少し可笑しそうに笑った。
「シンディさんって、マカロフさんの娘さんで、元々は教会のシスターだったの、私もお世話になった分だけでも、シンディさんに恩返し出来ればと思ってるのよ。」
「だから、ロサリオのネックレスをしていたの?。
じゃあ、薬草を沢山集めないとダメじゃないの?
その薬草って、そんなに生えてるの?
これから向かう先はかなり危険なの?」
「の?が多過ぎるわよ、これから行く森はね、奥に行くと川沿いに馬車道が北のザンブロッタ王国からアルメディア王国を通り、このディアルグ王国まで続いているの。
その馬車道を通る荷馬車を盗賊達が狙っているのだけど、最近は森の中まで盗賊が現れて危険らしいわ、手前の方ならまだ大丈夫よ。
それでも他の森に比べて被害者が多いから、長居すると危ないだろうけどね。」
フローラにヘレンも、出身地はマテーラ村で、穏やかだった森の中を詳しいと言うので、ヘレンの後ろに付いて歩みを進めながら、これから向かう森の説明を聞いていた。
しばらく進むと辺りは雑木林になり、歩を進め奥へ行く程、周辺の木々の圧力が増してくる。
先を行くヘレンが何かを見つけて、動かす足が速くなる。
そこは周りの土地より少し陥没した箇所で、底の地面にはゴツゴツとした岩がいくつも転がっている。
その岩の間を縫うように地面に根を下ろした小さな植物が絨毯じゅうたんの様に生えていた。
ヘレンはそこへ下りて行くと、地面に根を生やしたその植物を引っこ抜いて持って来た籠に入れだした。
その植物は草丈が50センチ程で、円錐形の複総状花序に、管状花のみからなる淡褐色の頭花を多数付けている。
「これはカズザキヨモギって薬草だよ。
切り傷の出血や虫に刺された時とかに、生の葉の汁を塗って使う薬草なんだ。」
薬効の説明をしながら、地面に生えたカズザキヨモギを採取していく、ヘレンと自分のいる辺りを見廻して様子を探るが、近くに獣や盗賊の気配はないようだ。
薬草採取を手伝う為に、自分も窪地に降りて草丈50センチのカズザキヨモギを採取し始める。
そんな様子を見ていたヘレンが、可笑しそうに微笑んだので、微笑み返した。
籠に半分程のカズザキヨモギが集まった。
まだ窪地には沢山のカズザキヨモギが生えていたが、ヘレンは次の採取地を目指すと言ってきた。
どうやら今回はそちらの採取の方がメインと言う事らしい。
再び森の中へと分け入り進んで行くと、下草の勢いが増し、木々の葉がその密度を濃くしていき、暫く森の中を進んでいると、急に開けた場所に出た。
なだらかな傾斜の下から、風に乗って良い香りが運ばれてくる。
「やった、ちょうどチャイブが満開の時だわ」
嬉しそうに声を弾ませて喜び、広がり咲き並ぶ目的のチャイブに、一目散に駆け出していく。
それを慌てて声を張ってヘレンの行動を静止させようと試みる。
葉の先端にポンポンと咲く姿は可愛らしい、チャイブの赤紫色のボール状に小花を咲かせている。
その時、すぐ脇の大木が風で動いたとは思えない動きをしたのだ。
メインとはなりづらそうな、小花を咲かせている一帯を上から覗くような大木の枝は、それは花や実を付ける枝でもなく、枝を構成している大木も木でもなく、れっきとした魔物が放つ気配を宿していた。
「ヤバい、ヘレンさん戻って!」
「えっ?」
駆け寄って枝の真下に来たヘレンに反応したのか、それとも将生の大声に反応したのか、その物体?生き物?魔物が動き出す。
いくつもの枝が個々に意思を持っているかのように、枝と枝が上下左右と揺れるように動かしていた。
『主さま、あれはフオルンです、種別や同種的には、ツリーフォークやエントがいますが精霊、妖精、植物に属しています。
けれど言葉を失い理性と知性が衰えた、エントの亜種だと思われます』
その大木は体長は根子が地中の中に埋まっているので把握は出来ないが、大木の高さは5メーターは超えている。
フオルンの枝は細い物から、太い枝まで自由に動いていて、まったく予想がつかない。
獣や魔物なら、たいていは頭があり、目があり、視線や眼球の動きで予想は出来るが、このフオルンというのは、頭もなければ目もないのに、理性を失い知性が衰えているときている。
だが、雰囲気で此方を窺う様子が感じがするのは、他の木………いや、普通に自然の木や草からは聞こえない、鳴き声といってもいい、音を叫んでいるかのように鳴らしていた。
「ヒョォォオォォオォ!」
さすがに危険な森と言うだけあって、普通の人間では対処に困る魔物だろうか?
チャイブの小花に向って走り出していたヘレンは、その奇妙に動く大木の姿を見るや、踵を返して慌てて駆け戻って来る。
ここでもそうだとは断定できないが、今まで戦って来た魔物には個々に戦い方のパターンが存在する。
だが、攻撃パターンを探る為にわざと、敵の攻撃を喰らう様な真似も出来ない。
素早く前に出て、ヘレンが自分の体の後ろに行くように、左腕で促し背中で隠した。
腰に下げた黒き剣を抜くと右手だけで上段に構える。
ヘレンもいるので、とりあえずは遠距離からでも最高打撃を与えられる、攻撃型の戦技で一撃を叩き込んでやろうと意識を集中させる。
『主さま、フオルンを倒すなら剣ではなく、火属性魔法の効果が1番と思われますが………』
「夜刀さん………僕が攻撃的な魔法を使えないの知ってて言ってるよね。?」
『えっ、コッホン、ですからここは一気に逃げるしか無いかと思われます。
現れたフオルンはすでに知性もないようなので、気配を感じ取れなくなれば、追いかけては来ないと思われます。』
「わかった、今はそうするしかないよね。」
将生は黒き剣を鞘に戻すと、背中にいるヘレンに振り返えり、強引にお姫様抱っこすると、足の裏に風の渦を作り出す。
一気に風の渦を破裂させて翔び出し、すぐさま下から竜巻ほどの風を吹かせた。
「きゃっ!?」
ヘレンを抱き抱えたまま木々の間を抜けるように跳び、風力を弱めてゆっくり下に降りて、再び跳ぶを繰り返して移動する。
将生とヘレンは、互いに落とさないよう抱き抱え・落ちないように抱き付いて、しっかりと密着しているが、ヘレンは上空に達する時に見える景色に感動している。
一方の将生はヘレンの胸の片方が将生の胸に密着し、抱き抱えている指先が、もう片方の乳房の弾力を伝えてくる感触に将生は感動している。
2共に違った感動をしているが、さすがに着地する時は怖いのか、ヘレンは瞳を閉じて「きゃぁ~」と、将生に強めに抱き付きながら、叫ぶのを繰り返す。
さすがに風魔法を使う時は将生も真剣な顔にはなるが、ヘレンの乳房に触れる、指先で繰り返し弾力性を堪能する、ヘレンには見えてはいないが………顔が歪み、心の中で歓喜の叫びを発していた。
そして最後に着地した場所から、森の中の山道を進んで行くと道の先の方から、人が争う様な喧噪と剣戟を打ち合う音が聞こえて来る。
山道を逸れて、藪の中に2人で身を沈めながら草木を鳴らさない様に静かに進んで行くと、少し先で一台の荷馬車とその周囲の人の集団が、何やら武器を抜いて殺気立っているのが見えた。
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