3人目の少年
再び屋根の上に到着した将生は、少しだけお怒り気味のフローラに文句を言われる。
「もう、下りるなら一緒に下ろしてくれればいいのに………」
そうは言ってはいるが、直ぐに戻って来た将生のそばにいる事で、少し安心したような表情を浮かべるフローラは、将生と一緒に修理に取り掛かる。
以前も似たような修理はしたのだろう、あちらこちらに修理跡があるけれど、応急処置ばかりなのは、経営に余裕がない状態が続いているんだと思えた。
トントンとくぎを打ちつける音が響き、板を打ちつけて作業も終わり、後はペンキを塗る作業に移る。
その箇所にペンキを厚く塗っていき、一通り塗り終わると、乾くのを待って、もう1回塗るだけだ。
しかし乾くのには多少の時間は掛かるので、屋根に座り考えた。
それをしゃがんで感心しながら、作業を見ている、そんなフローラに対して将生は疑問に思った事を聞いてみる?
「そういえばマカロフさんが先生って呼んでいたけど、ここで子供達に勉強を教えてる?」
「クスッ、ヤキモチやいてるんだっ?
自分は家庭教師を申し込んで、断られたのに、あぁ………何で私に教えて貰えないんだぁって、それとも怒ってるのかなぁー?」
「えっ、怒ってませんよ!どうせフローラさんの事だから、無償で子供達の事を思っての事だろうし、僕も子供の部類だとは思うけど、1人で冒険者として、お金を稼いでいますし………ただ、フローラさんが子供が好きなんだなって事だけは、わかりました。」
「うんっ、ごめんね………」
修理箇所に2回目のペンキを厚く塗っていき、一通り塗り終わる。
あとは乾くのを待つだけなので、仕事に戻るフローラを地面に降ろして、もう一度塗るだけだ。
しかし、さっきは乾くまでフローラと一緒にいたから、暇を弄ばなかったけど、さすがに1人では暇なので、その間なにをしようかと考えた結果、そして買い食いなどで暇を潰し、陽が傾いてきた頃に将生は戻ってきた。
残りの作業を素早く終わらせた将生は、マカロフに終わったことを告げギルドに行くと、いつもはこの時間帯にはいないフローラが、出迎えてくれた。
「ただいま、終わったよ。」
「お帰りなさい、お疲れさまね。 完了証明書は私が持ってるから、依頼書を出してくれる?」
「うん……」
ポケットから依頼書を取り出しフローラに渡し、報酬を受け取るとかわりにと、買い食いしていた時に買った焼き菓子と飴玉の入った袋をフローラに渡す。
「あと、これあげるよ。」
「これは?」
「子供達に!?風邪ひいている子にもね。」
「ありがとう。でも、風邪ひいてる子って?」
「2階で寝ている子を見たんだけど………」
「あ、あの子は風邪じゃないの」
「重い病気とか?」
「ううん、そういう訳じゃないけど………健康そのものよ。ただ極端に体力がないだけなのよ。」
「そうなんだ!?」
「あっ、ギルド長に呼ばれちゃったから、話はここまでね。今日はありがとう」
「邪魔になってたのかな?ごめん。じゃ、僕は帰るよ。」
さっきとは違い浮かない表情をしていることに不思議に思ったけど、フローラに一礼した将生は宿屋に戻っていった。
△▽△▽その夜、他国では▽△▽△
メリッサ・ドリアーノは、前世の記憶を取り戻してから、1ヶ月近くが経っているが、何もしなかった訳ではない、現に王国の名称や他国の王国貴族の名前を調べて、自分がどんな世界に産まれたのか?
それとも転移したのか?
転生したのか?
輪廻転生をしたのか?
じゃなければゲームの世界に迷い混んだのか?
メリッサが思い当たるのは自分自身が、乙女ゲームのキャラクターではないのかと考えた。
だが、だいたいは学園から始まるのが普通のストーリーなのだ、と言うことは、いまは準備期間だと考えるのが自然だと判断するしかなかった。
そう思ったメリッサは波風たてないように、ゲーム内のストーリーだけを考えて普通に生活していた。
だが、メリッサは自分がいずれ父親に殺されることを知ってしまう。
いや、思い出したと言った方が的確なのだろうか………既に10歳での西側大陸の1番の大国であるアルメディア王国での舞踏会に参加させられた。
アルメディア王国内でメリッサが他殺されるか、そこの王子の婚約者となれば、夫となる人がいる国への侵略の口実を作るため?
他ならない父であり義母が、自国の王と王妃がそう口にしているのを、婚約が決まる前から、メリッサは耳にしてしまった………
そして、現実に幼いメリッサは殺されかけた。
そんな設定を、自分が知っている乙女ゲームの知識にはなかった。
自分自身が前世の記憶を持って、生まれた意味もわからなくなったまま、時の流れに身を任せるしかないと、諦めと絶望感をメリッサを包み込んでいた。
自分自身の親である国王と王妃が、送り込んでくる刺客の手で殺される事は、前世の記憶にある、数々の乙女ゲームには存在する定番のシナリオとは違うのだと!
では、自分のキャラが求められた真の役目はナンなのか?考えれば、考える度にネガティブになっていく、メリッサ自身に立ち向かう手段は無い事を悟っていた。
怖いと思わなかったわけではない。
けれど頼るべき大人もいない身では、逃げることも逆らうこともかなわなかった。
後数日で、此方の世界では成人する年齢を迎えたら、言われるがままに何処かの国を攻める口実の為に、後宮に入るか、その国の王か王子に宛がわれるように嫁ぎ、人形のように王宮に飾り置かれ、時が来れば父の思惑によって死ぬ。
ヒロインでも悪役令嬢の役でも、モブにもなれない、ただの口実の為だけに死ぬキャラとして………それが自分の運命なんだと、権謀術数という名の意味する「権」は権力、「謀」は謀略、「術」は技法、「数」は計算という魔物に呑み込まれてしまうのだと………
10歳の時に味わった殺される恐怖が数年後の15歳の時………そして、再び!?それは義母親の薦めで婚姻候補の1人に決まってから、アルメディア王国ではない。
ザンブロッタ王国での、舞踏会で滞在した時に再び始まった。
他国で、逃れようもないメリッサを守る為だけに、命を落としていった周囲の大人たちを目にするうちに、自然と理解した。
15年と少しという短い人生には、多くの辛い事と、少しの良い事があった………
いや、前世の記憶を取り戻して、数日間で味わった殺されるという恐怖に抗う事も出来ない。
メリッサという人物になり、儚すぎる運命に元の世界では、一般家庭で育った世間で言えば、中二病ぎみの人間が抗う事を拒むように時だけが進んでいく。
きっと、これからも同じだろう。
前世の時も同じように、世の大半の人間は、何も意味もないまま人生を全うするだけ、それでも権謀術数の4つの意味する死があるだけましなのかもしれない。
そう覚悟を決めたが、実際に刺客を目の前にし、抜き身の剣を突きつけられた、今の現状には恐怖に身体が凍りついて動けない。
そのとき、声にならない声で呼んだひとつの名前は、1ヶ月前までメリッサ自身だった、もう1人の私だった。
直後、その当人がメリッサの目の前へ躍り込んできて、一太刀のもとに刺客を斬り捨てた時には、夢かと思った………なぜならその人は、遠く離れた祖国にいるはずだったから………
「この国は、おまえを死なせなくとも手に入れることができる。そう父上と義母上に申し上げた。」
血塗られた剣を手にふり返った相手は、凜とした声でそう告げてきた。
「おにいさま………」
大好きな兄の顔を、もっとよく見たいと、今の私ではない元々のメリッサの思考が・気持ちが・心が訴えてくる。
この気持ちは兄妹愛ではなく、この気持ちは恋をしている乙女の気持ちなのだから、その意味は兄妹なのに兄を愛しているという事なのは、今のメリッサ………いや、山本瑞希としては認められない。
そう思うのに、実際には緊張の糸が切れて目の前が暗くなってしまう。
くずれ落ちた妹の体を優しく抱き留める兄の腕に安堵し、体中の力が抜ける。
だからこそ、メリッサは気付かなかった。
世界で一番頼もしい、兄の服についた血の一部は、兄の主張を聞き入れなかった国王でもある、父親のもので、あるという事と!
これがメリッサ・ドリアーノの、いや元の世界で本来の兄を嫌っていた弟の、山本瑞希の思考だけが転移した、1つのストーリーの分岐点だったことを?
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