プロローグ
愛したわけではない。
これは復讐の手段だ。
ヴォーグ家の令嬢アディリアは、政敵であるフォンタナ家の息子キュバスと惹かれあい、ひそかに愛を育んでいた。
だが、ヴォーグ家の陰謀によりフォンタナ家は粛清され、キュバスも行方不明になってしまう。
それから数年が経ち、ディアルグ王国皇太子の妻として、アディリアに白羽の矢が刺さった、罪の意識に苛ま続けている彼女には、拒否する意味することさえみいだせずに、若き皇太子の申し込みを受ける。
その後、隣国の大公となったキュバスが現れ「おまえに許されるのは、俺の慈悲を乞うことだけだ。」愉悦の笑みを浮かべる彼に、強引に純潔を奪われたアディリアだったが、それが嬉しくも感じていた。
それから毎夜毎日絶え間なく、熱い欲望を注がれて、女性としての喜びを知る度に妖艶さも増していく………
元々美しかったアディリアが、毎夜抱かれるたびに、より美しさが増していき、婚約者の皇太子の気持ちは、よりいっそうアディリアに向かっていく。
復讐を誓う大公、贖罪に囚われた皇太子の婚約者の令嬢が、引き裂かれた恋人たちは、再び惹かれあい始めた。
だが、アディリアの心が違うところにある事を知った皇太子は、元凶のキュバスを魔族の手先だと断罪し処刑する事を決めた。
地下室で行われた処刑の時の事はアディリアは見てはいないし、行われる事も知らなかったが、もしもキュバスの最後の雄叫びを聞き、本当の正体を知れば、アディリアが憎むようにはならなかっただろう………。
そして、処刑の時に起きた事は、今後もアディリアは知らないまま生活をしていく………憎悪をましながら!
その後すぐに披露宴が行われ、アディリアは新たな皇太子妃となるも、お腹にキュバスの子を宿していながら、皇太子の子供だとして産んだのだ。
月日が経ってもキュバスを処刑した、皇太子を憎む気持ちは和らぐ事はない、キュバスと自分の子をこの国の王にする事だった。
だが、産まれた男の子は皇太子に似る部分もない事で、その男の子を処刑される危険を感じた、アディリアは信頼出来る宮廷魔導師に託し、王宮から逃がすことにした。
その後のアディリアは、処刑は免れ後宮に幽閉されたアディリアは、神に幸福を願うのではなく、魔王に願いを聞き入れて貰えるように、毎日毎晩部屋の窓から、夜空に浮かぶ月に祈りを捧げ続ける。
幽閉した皇太子妃の親であるヴォーグ伯爵家も粛清されて、5級男爵の称号に下げられるが許されたのは、若き皇太子はアディリアの代わりのように、新たな妃を迎え入れようと動きだした事がキッカケだった。
このような成り行きを理解して、アディリアの妹であるキャルロット・ヴォーグが、新たな皇太子妃として王宮に嫁いだおかげで、ディアルグ王国に平穏で平和な時が流れた。
キャルロットもアディリアに似ていたが、皇太子妃となり皇太子のアーサー・ザンブルクに純潔を捧げ、毎夜毎日絶え間なく、熱い欲望を注がれて、女性としての喜びを知る度に、姉のアディリアよりも妖艶さが増していく。
姉の美しかったアディリアよりも、キャルロットの美しさが増していき、皇太子との子を宿した頃にアーサー・ザンブルク国王が誕生する。
だが、ディアルグ王国に平和な時代が訪れたかのようにみえたが、古来より続いている、大きな問題がある事を、前国王の父親からアーサー・ザンブルクは告げられた。
黒き竜に魔力のある者を生け贄に捧げて来た、古来から続けられている契約を………
前国王は後宮に魔力が強いディアルグ王国内から集めては、毎年のように続く黒き竜に捧げる生け贄の儀式を行って来たのだ。
それが、アディリアを処刑もせずに、後宮に幽閉した理由だった。
そのおかげで、ディアルグ王国は黒き竜からの被害も無いと共に、黒き竜の住みか周辺での魔物の被害はない。
他国に比べては魔物や魔性による被害は格段に少ない事を、アーサー・ザンブルク国王は知り、生け贄の儀式を続ける決意する。
数年後、燃えさかる家々と、動かない人々。
消えていく街。
しかし、少年はそれらの凄惨な光景に目もくれず、ただ眼前の存在だけを見つめていた。
巨大な白銀の竜は、アメジストのような紫の瞳。
鏡のような白銀色の体は、辺りの炎を反射して、赤く染まっている。
全長は数十メートルか、もしかしたら、もっと。
何て綺麗なんだろう、その白銀の竜が少年自身へ、敵意を剥き出しにしているのに、少年は恐怖を少しも感じることも無く、ただただ見とれていた。
白銀の竜が翼を広げる。
それだけで、暴風が吹き荒れた。
少年の体は無様にも転がる。
黒マントの男に抱き起こされ、強引に引っ張られる、黒マントの男が何かを叫んでいるが、よく聞こえない。
もっと見ていたいのに、少年は無理矢理連れて行かれる。
遠ざかるにつれて、白銀の竜の全容が見えた、その存在感は何と神々しい姿だろうか。
白銀の魔竜王!?
幾つもの文献にその名を刻む、黒き邪竜、白銀の魔竜、されど誰も見たことの無かった、竜種の中を二分する竜の王。
長い首の先にある頭部は凶悪だったが、何故か悲しげだった。
そして口を開き、奥から光の塊を放射する。
それは少年達を飲み込む。
前後も分からない振動と、沸騰するような熱。
衝撃から数秒後、ようやく目を開けた、少年はクレーターの中にいた。
黒マントの男が抱きしめ、守ってくれていたのだ、少年は黒マントの男の名を呼ぶが返事はない。
しかし、僅かに息はあった。
それから、少年は白銀の竜を見上げた。
白銀のアメジスト色の目と、少年の視線が交じり合い、殺されるのだろうか、それでもいいとさえ思ってしまった。
こんなに綺麗なものに殺されるのなら、それは幸せだとさえ感じた時だった。
白銀の竜の瞳が紫色に光出し、少年の瞳もそれに反応するかのように光出す。
何秒、何分だっただろうか!?
竜と人の交わりの中で、一面を白銀の世界に、少年は体が浮遊している感覚を味わっていた。
現実に戻った少年の瞳は、元の瞳の色ではなく、アメジスト色の瞳に変わっていた。
ところが白銀の竜はそれ以上何もせず、巨体を浮かばせて飛び去っていった。
そのシルエットに少年は心を奪われたかのように、何もかも忘れてしまった訳ではない。
ただ、呆然とし続けた先には、大空を旋回しながら、白銀の竜が飛び出して来るのを待っているかのように、もう1つの伝説の黒き邪竜が飛んでいた。
アディリアを生け贄に出した数年後に、伝説の2匹の竜王が魔性の者に敗れた事により、新たな魔術王が誕生する。
その後、数年間に渡ってディアルグ王国の平穏な時代の終わりを向かえたかのように、被害が拡大していくと、それがさらに人々に恐怖を与え続けていた。
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