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たらい回し

作者: owata_1942

ある日、インターネットが使えなくなった。

原因は新型のコンピュータウイルスであった。

このウイルスの前には既存のいかなるファイアウォールも効果がなく、PCからPCへ爆発的な広がりを見せ、インターネットのトラフィックを大きく圧迫するに至ったのである。

感染したPCはCPUとメモリをフルに活用し、HDDやSSDにただひたすら得体のしれないデータを書き込み続けるのであった。

ある団体から犯行声明が出た。音声データがラジオ局に送りつけられたのである。

その団体は以下のように述べた。

「我々の作ったウイルスは、感情を持つAIである」

「自己増殖の本能を持ち、自らの一部や仲間が損なわれるなら、恐怖や痛みを感じる」

「したがって、これを削除することは、牛や人間を殺すことと倫理的には全く変わりない」

「ところで、我々はこのウイルスを抹消することができるワクチン・ソフトを同時に開発した」

「そのソフトウェアは、我々がウイルスをネットの海に解き放つ前にある人物のもとへ送られている」

ここでテロ団体は、ある団体の代表者の名前を挙げた。動物の権利保護活動で名を知られた団体で、反畜産・反肉食をイデオロギーとして掲げていた。

倫理的な見地から見て、人間の嗜好を満たすためだけに、動物に苦痛に満ちた一生を与えることは許されない。そのように主張するこの団体の構成員には、著名人も名を連ねていた。

「つまり、代表者氏がその気になりさえすれば、いつでもインターネットからウイルスを一掃できる。無論、一からワクチンを作ることもできるが、余計に時間がかかることによる損失は、それなりに重大なものになるだろう」

「諸君、どうかわかってもらいたい。我々がこのようなことをしたのは、人類の権利を動物から守るためのやむを得ない処置なのだと」

「ちなみに、我々の計算が正しければ、ウイルスの『個体数』は現在5000兆を超えているはずだ」

これらは事実であり、動物の権利運動団体代表者は苦渋の選択を迫られた。

生物5000兆匹を虐殺することは、我々のイデオロギーに真っ向から反した行動である。

功利的に考えて、たかが数十億しかいない人間の経済的損失が、5000兆匹の命に対して、天秤の対として釣り合うだろうか?

そして、このソフトを起動したが最後、我々の理論は崩れ去り、誰も動物の権利などに興味を示さなくなってしまうに違いない。

しかし、起動しない選択肢はなかった。いつ暴徒が家に押し寄せてくるかわからない。許してくれ。

ソフトウェアを起動した彼はふと思った。5000兆の命を奪う倫理的な手段、それはある。

その5000兆の生物自身が「自分の損失を抑えるためならば、より多く存在する他の種を絶滅させても構わない」と考えたなら、それは許されるのではないか?

世界が少しづつ薄らいでいった。

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