2 羊飼いの乙女
今回は、仙道企画その3の課題曲にちゃんとはまるように書いた歌詞が掲載されています。欄外にある企画バナーの「概要」をクリックすると、曲へのリンクが有ります。
※うたいかた
課題曲の笛と太鼓部分をイントロに
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歌詞
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歌い上げたあとをアウトロに
(イントロと同じメロディ)
アルレッキーナたちは草を踏み分けて街道へと戻る。朝露が靄となって天へと昇る草原は、やがてなだらかな丘となる。サッジが細い目をますます細めて斜面に向けた。爽やかな風に乗って可憐な歌声が微かに届いたからである。
「羊飼いかなあ」
アルレッキーナは笛から口を離して丘を見る。街道を臨む丘の麓には、数軒の田舎屋が並ぶ。家々の裏手では、鮮やかな緑に白い点々が広がっていた。時折聞こえる牧羊犬の吠え声と、間伸びした羊の鳴き声が、静かな朝に命を吹き込む。
まだ遠い斜面には、とても人影を見分けるには至らない。しかし羊を放して犬だけ置くのも不自然だ。いくつかの群れをそれぞれ管理する羊飼いがいるのだろう。
そんなにも遠くから、はっきりと歌詞が聞き取れる歌が流れてくる。音は微かなのに、不思議なことに言葉はしっかりと伝わるのだ。牧歌的な曲調だが、後半はやや切なく歌い上げていた。
乙女は歌う。
我が元に 慕い寄る
愛し風 広野に
翻る
白き足 麗しの
蒼く泳ぐ髪よ
君が声 雲流れ
晴れ渡る 空よ
弾け飛ぶ
煌めきは 汝が瞳
手を取りて歌わん
ただ君のみ わが腕に抱きて
宵闇さえ 親しく
光の波 羊の涙
露置く 丘に
撫で行く 優しき君が風の
側近くに
永遠の誓い
草に
恋し君が面影追わん
「なにか謂れがありそうだな」
リッターが言うと、サッジは頷き、
「歌詞に魔法が染みている」
と告げた。
「どんな魔法なの?」
アルレッキーナが好奇心丸出しで聞けば、
「災いから守る古い魔法の旋律だよ」
と、サッジは答える。魔法のメロディに言葉を乗せれば、呪文とは違うけれども歌を贈られた人を守ってくれる。古い古い魔法だという。
「作った人の言い伝えが残ってるかもしれないね」
サッジは、魔法使いの血が騒ぐのか、僅かに覗く薄青の瞳をきらきらさせて息を弾ませた。
3人は繰り返される歌を頼りに、羊飼いの乙女を探す。アルレッキーナは笛とバチを片付けて、早足気味のサッジを追う。大柄なリッターは、のしのしと遅れずについてゆく。
轍の残る街道に踏み入り、田舎屋の間を抜けて丘へと登る。犬の声が近づく。羊も騒ぎ出す。白い塊の向こう側で、先の曲がった木の杖が立ち上がる。灰茶色のフードつきマントで風を避け、羊の番をしていたようだ。
「おぉい、羊飼いさぁん」
サッジが美声を張り上げる。
少女は身の丈を遥かに超えた木の杖を握って、こちらを警戒している。痩せっぽちのこの娘が、先ほどの歌声の主だろうか?立った拍子に外れたフードから、茶色い髪のおさげが跳ねた。