序 朝の草原
冒頭の歌は、『仙道企画1』のメロディで歌えるようになっています
さても愉快な 道連れは
笛と太鼓の 音に浮かれ
緑輝く 草原の道
さざなみ揺れる 湖の畔
見上げる空の 雲白く
小鳥の歌は 枝えだに
辿る旅路は 終わりなく
行先決めずに 歌いゆく
さても愉快な 道連れは
笛と太鼓の 音に浮かれ
昼なお闇くらき 森の奥
雲つく山の 峠道
流れる川の 誘うまま
囁く風の 吹くままに
辿る旅路は 終わりなく
行先決めずに 歌いゆく
旅の楽師アルレッキーナ・ブフォンは、毛織の町ヨトで知り合った2人の青年と歌いながら草原を行く。
アルレッキーナの低い位置で二つ結びにした髪は、灰色がかった金髪だ。生き生きとした緑の瞳が明るい歌声によく似合う。茶色い革の道中帽子には花柄が焼きで入れられ、緑のブーツの花模様は繊細な染めである。筒袖のチュニックに粗いズボンという旅装束で、緑深まる秋の草を楽しげに踏む。
3人は昨日、川辺で開催された筏祭りに寄る為に街道を離れた。今朝は、一旦それた街道へ戻る途中だ。街道を進み目指すのは、羊の煮込みで有名な、肉の町ラグシである。
ラグシで供されるのは羊肉に限らず、その調理方法も豊富だ。ラグシの人は、豚、牛、馬、鶏、野鴨やガチョウ、果は謎の魔法生物に至るまで、この世のあらゆる肉を集めて食べる。塩漬け、乾燥、腸詰、タタキ、煮物に焼き物、そして揚げ物。
年に二度、春と晩秋には、付け合せの薬味や臭み消しの薬草を商う商人が集まってくる。ラグシの香草祭り、として有名な交易市である。残念ながら、今は祭りの時期ではない。
アルレッキーナの腕には太鼓、片手で操る三ツ穴の縦笛が朝の光を反射する。まるで精霊に祝福されたかのように光の粒を纏い、もう一方の手ではバチを振る。
軽やかなリズムはアルレッキーナの翻る袖に戯れ、蔓草模様の縁取りを踊りに誘う。
アルレッキーナの紡ぐ調べに、美しい声が寄り添う。声の主は、旅の魔法使いサッジ•ストレゴーネだ。魔法は歌わなければ使えないが、技術も表現力も問われない。多少調子を外れても魔法は成功する。だから、サッジの歌は純粋に楽しみとして磨いたものだった。
サッジの小柄な身体を包むローブから、半端に伸びた赤毛が溢れる。フードの影には、朝焼け色の長い睫毛に縁取られた薄青の瞳が覗く。夢見るような歌声は、魔法で呼び出した竪琴と共に妖精の国へと誘うようだ。
2人の物語を低い音で支えるのは、流浪の剣士リッター•ヴァンダーシャフト。草原の風に短いブリュネットを逆立たせ、誠実そうな菫色の瞳で遠くの城を眺めている。
若いながらもよく鍛えた大柄な体軀と、流れ者に特有な鋭さを含む眼差しは、歌の詞で幾分和らいで見えた。