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好きにすればいい

 職場に、いつも男たちに女扱いされない女がいた。

馬鹿にされるのはもちろん、頭が良くないし、仕事もぱっとしない。

挙句の果て、バイトの若い男なんかにいいように弄ばれているらしい。

そんな噂を聞いていた。

フロア自体が、僕とは別れているものだから、詳しくは知らなくて

存在は分かる程度だ。

 ある同僚と廊下を歩いていて、たまたますれ違った。

僕達の前を、他部署の男とその女が何やら話をしている。

「お前いい加減にしろよっ」

その、女に云っているのは、他部署の男。

怒鳴りつけてから、お尻あたりに軽くだが蹴りを入れている。

蹴られた女はへらへらと笑っていた。

「ちっ、もういいよ。行けよ」そして他部署の男がこちらに歩きだす。

「おっ、なんだお前らこれから飯か」

僕の同僚とは仲がいいみたいで、話かけて来た。

「ああ、ところでお前いいのかよ」同僚が聞く。

「何が」

「蹴りはまずいだろ、蹴りは」と同僚は笑いながら云った。

「あの馬鹿女、ホントに馬鹿だからよう。いいんだよ」

その後、同僚と他部署の男はしばし下らない会社のゴシップに華を咲かせていた。

 僕のほうは興味もなく、その傍で立っているだけだ。

馬鹿と呼ばれた女が、俯きながら歩いて行ったのを僕はなんとなしに目で追っていた。そして、やはり特に興味が沸くでもなく昼飯は何を喰うかなと考えていた。


 それから、しばらくして例の女とちょっとだけだが仕事をすることになった。

その時は別に足を引っ張られることなく、無事に終わった。

 何となしに談笑の中、実はその女と僕の最寄の駅が同じことを知った。

女は家族と住んでいるらしいが、僕はアパートに一人暮らしだ。

さらに趣味が同じことも分かった。僕はスターウォーズが大好きでグッズのコレクターだ。僕のかなりマニアックな話について来れたことに驚いていた。

 ただ、それっきり特に接することもなく幾日が過ぎていった。


 ある日の会社帰り、電車に乗っている最中、

非通知で電話が掛かって来た。僕は少し躊躇ってから、電話に出ることにした。

電話の主は、あの女からだった。 

「何故この番号を?」僕は訊くと僕の番号を知っている他の同僚に聞いたらしい。そして、これから僕の家に行っていいかと訊いてきた。

「何云っているんだ?どうかしたのか」と僕は云う。

そして、女はすみません何でもないです。と電話を切った。


 僕は最寄の駅に着き、少し迷ってからあの女と同じ部署の奴に電話を掛けてみる。そして、あの女の携帯番号を知っているか尋ねて、訊き出す。

何やら詮索されたが、「ちょっとな」と云って電話を切る。

 女に電話を掛けてみる。すると、電源を切っているか、電波が届かないと案内が流れる。関係ない、帰るか。と帰路に着く。

 あの女は、駅から僕の家よりちょっと先の方にあるが、方向は一緒だったことを思い出してながら歩いていた。

通り道のベンチに啜り泣く女がいた。僕はそのまま通り過ぎる。

 少し歩いてから、やっぱりあの女だよなぁ。と思い立ち止まり。

少し迷ってから女のところまで戻った。

「何やっているんだお前」

僕がそう云うと、女は何でもないです。と云っていたが、やがて話し始めた。

 要は男と喧嘩したらしい。

僕は泣くほど辛い事があるかね、と思ったが放っては置けないから家まで送ろうとした。すると、女は僕の家に連れて行って欲しいと云う。

 僕はどうしたらいいか困り、とりあえず落ち着ける場所に行こうと云い。

駅前まで戻り、お店に入ろうか考えたが、カラオケボックスに入ることにした。

 とりあえず、女の話を気が済むまで聞いてやることにした。

男との話だけではなく、なんて多くの悩みを抱えているんだと思うほど、女は話をした。女は家族とうまくいっていないことや、自分には自傷癖があることや、学生の頃に同級生の女の子と関係を持ったことなども話した。僕はただ聞いているだけだった。

 3時間くらい聞いただろうか、話を終えたようなので、店を出ることにした。

歩きながら、やっぱり家には帰りたくないと云うので、僕のアパートに行くことにした。僕は疲れていたのもあり、することもないので寝ることにした。

 女に風呂を勧めたが、いらないと云うので自分だけ入ることにした。

風呂から上がり、悪いけど寝るよと女に告げ、電気を消した。

 布団は一人分しかないので、女と一緒に布団に入ることになった。

うとうとしかけた時、女の声を掛けられた。

「まだ起きていますか」僕が、ああ。と答えると女は先程の続きをしゃべり始めた。その中には自殺したいとも考えているとのことだった。

 僕は聞きながら、女を少し抱きしめてあげることにした。

「こうすると落ち着くだろ」と云いしばらくそうしていた。

女は僕の唇に唇を合わせて来た。僕はそれは出来ないと云う。

女は自分には魅力がないからですか、と尋ねて来たので正直に答えることにする。

「僕は中学生くらいの頃に、体を弄ばれたことがあってね。姉が家に友達を何人か呼んでさ、姉はその頃高校生だったけれだ、多感な年頃だよな。弟の僕を部屋に呼んで、友達と一緒に僕の体を弄んだんだ。それ以来僕は、女性とそういう関係になることが出来なくなったんだよ。」

 

 女は、その後静かに一人で泣いていたが、僕は気にせず寝ることにした。

朝起きると僕は出掛ける用事があったので仕度を始める。

 女は物音で起き出したが、今日は休みだと云う。

僕はもう少し寝ていても構わないよ、と云ったが僕と一緒に出て帰るという。

別れ際に女は、また会ってもらっていいかと聞いてきたから、僕はいいと答えた。それ以後、会社で話すこともなかったし、僕も職場を変えたり、あの女の番号も登録していなかったので、結局はそれっきりだった。

 

 







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― 新着の感想 ―
[一言] 得意の一期一会系だね。このタイプが一番好きだ。
[一言] 淡々とお話が進んで、そのまま終わってしまった。って感じですね…。彼女の方は好意を持っていたんでしょうね?『僕』は特に何も感じていなかったみたいですけど。『僕』が何も感じていなかったのは、彼女…
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