6.2人の馴れ初め⑥
「なぁ、暑くないか?」
私達は先程のやり取りの後、音楽の話や学校の話などの取り留めのない会話を楽しんでいました。
確かに暑いですね……それもそのはず。
私が時折部屋を見回していると、トワがエアコンのリモコンをコソコソと何度も操作していたのが原因でしょう。
操作の度にピッ……ピッ……て音が鳴り、テーブルの上にリモコンがあるのに、気づかれないとでも思っているのでしょうか?
私は彼の将来を案じながらも、とりあえず話を合わせておきます。
「そうですね、先程から少し暑い様な気もしますね」
「だ、だよな。良かったら……セーターを脱いでもいいぞ」
今の季節は冬。部屋に入る時にコートは脱ぎましたが、冷え性の私はその下もしっかり着込んでいます。
「部屋の温度が高いのではないでしょうか?トワも暑いのならば少し温度を下げましょうか」
そう言ってテーブルの上に置いてあるリモコンに手を伸ばします。
「待て待て…待てって」
彼の制止の声を無視してリモコンを掴みます。
液晶には設定温度28度となっておりました。24度ぐらいにしておきましょうか。手早く操作をしてリモコンをテーブルに戻します。
「設定温度が高かったので調整しました。暫くしたら適温になると思いますよ」
「そ、そうか……ありがとう……」
何故か落ち込んでいる様に見えますが、どうせよからぬ事を考えてたのでしょうから放っておきましょう。
「トワ……あなた汗をかいてますよ?少しの間、上を脱いだ方がよろしいのではないでしょうか?」
彼は上下スウェットを着ておりましたが、それ1枚という事はないでしょう。
上を脱いでTシャツになれば、直ぐに汗も引くでしょう。
「ああ、そうだな。ちょっと暑いから脱ぐか」
彼はスウェットを捲りあげますが、その際Tシャツも一緒に捲り上げられた事により、私の視界に彼の裸が飛び込んできました。
「じゅる……」
「じゅる?なぁ、何か変な音が聞こえなかったか?」
おっといけません。女性が出してはいけない音がつい漏れてしまいました。
「そうですか?私には何も聞こえませんでしたが……」
「そっか、俺の聞き間違いか……。やっぱ上脱ぐと一気に涼しくなるな。なぁ、茉莉もやっぱりセーターだけでも脱いだらどうだ?」
暑いとは言っても、私はトワみたいに汗をかいている訳ではないので、その申し出を再度断りました。
「あーもう本当に鈍い奴だな。分かった、俺の負けだ。セーターを脱いでくれ頼む」
彼のお願いには絶対に従う……父との約束でしたね。仕方ありません、セーターを脱ぐだけなら大した事ではありませんので黙って従う事にしましょう。
(ごくり……さっきの感触からデカいとは思っていたが……予想以上にデカい)
彼は私の胸を凝視しています。
本人は私に聞こえないように言ってるつもりでしょうが、距離が近いのですから丸聞こえです。
「そうですか?別に大きくありませんよ。Dカップですので……」
私はどちらかと言うと線が細いので、胸が大きく見える様です。年の事を考慮すればまだまだ大きくなる可能性はありますが。
「き、聞こえてたのか!?」
「これだけ近くにいるのですから、聞こえないと思っていた方がおかしいです」
「く、くぅ……。こうなりゃヤケだ。おっぱい触らせてくれ頼む!!」
鼻息荒く私の胸に手を伸ばしてきます。
その手はそのまま私の胸を鷲掴みに……する寸前の所でピシャリと叩き落としました。
「おい、何するんだよ!?」
「それはこちらのセリフです。どこの世界におっぱい触らせてくれと言われて触らせるバカが居ると思っているのですか?」
「お前は俺に絶対服従の約束だろうが!?」
「はて?私はそんな事を言ったでしょうか?」
「言ったよな!?さっきだってお願いしたセーター脱いだだろうが!!」
「あれは暑かったので、トワの提案に乗っただけです。お願いされて脱いだわけではありません」
大変です、どうやら乙女の危機の様です。流石に胸を触られるのはアレなので、私は知らぬ存ぜぬを突き通す事にします。
「お前、父親とも約束したよな!?け、契約違反だ!!」
「契約?確かに契約はお互いの口約束でも成り立ちます。ですが、この契約方式は揉める事が多いのと、証拠がないと裁判でも不利になるのはご存知ではないのですか?何より私はそんな契約をした覚えはありません」
「そ、そんな……」
「そんな……と言われましても。では逆にお聞きしますが、いきなり私がトワの下半身を触らせて欲しいと言ったらどう思いますか?なんだこの女……って不審に思いませんか?それ以前に、まずは嫌だと思うでしょう?」
「え……茉莉が触ってくれるの?むしろお願いしたいんだけど!?」
予想外の答えに、思考が一瞬止まりました。この男は一体何を言ってるのでしょうか?
よく知りもしない異性からそういう行為をされるのは普通嫌なのではないでしょうか……。間違っているのは私の考えの方なのでしょうか?
今まで培ってきた常識が……ガラガラと崩れていく音が聞こえた様な気がします。
「出来るだけ優しく触ってくれよ……触り方とかはしてもらいながら教えるから」
そう言って立ち上がろうとする彼を引き止めようと、スウェットパンツを慌てて掴みました。
私の咄嗟の行動に気づかなかった彼はそのまま立ち上がってしまいました。どうやら間に合わなかったようです……。
大変です、今度は事故が起こりました。スウェットパンツと共に彼のパンツも一緒に降ろしてしまいました。
一難去ってまた一難とは……よく言いますし、不可抗力です。
なので、私は悪くありません。
そして、私の生まれて初めて見る男性のアレを視界に捉えております。
私も年頃の娘です、そういう事に全く興味がなかった訳ではありません。
ここは、『きゃっ』とか言って、手で顔を隠し隙間から覗く素振りをした方が良いのでしょうか?
想像してみましたが私のキャラではありませんね、辞めておきましょう。
折角の機会ですので、凝視する事に決めました。
彼まだ…生えておらず、ツルツルした綺麗な肌でした。体も小さいですし、きっとこれからなのでしょう。
さて、次は……アレも拝見させていただきましょう。
比較対象がないのでよく分かりませんが、思っていたより小さいですね。
こちらもこれからなのでしょうか?
とりあえずサイズは覚えたので、由美さんに今度聞いてみる事にしましょう。
「なっ……なっ……何すんだよお前ぇぇぇぇぇぇ〜」
急いでスウェットを戻す彼。
大丈夫ですよ、心優しい私は生えていない事を揶揄う様な女ではありません……安心して下さい。
「そのうち生えますから、大丈夫です」
そっとフォローを入れる優しさも持ち合わせております。
「くそおおおおおおおおおおおお、覚えてろぉぉおおおお」
何故か捨て台詞を吐いて、彼はリビングと繋がる部屋の方に去って行きました。
相変わらず部屋も暑かったので、喉が渇いた私はとりあえず冷蔵庫に向かう事にしました。
結局彼は、父が戻るまで部屋から出てくる事はありませんでした。
女性を放置して部屋に篭もるというのはいただけませんね。
気遣いのなさ……更にマイナス評価をしておきましょう……。
読んでくださってありがとうございます。
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