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5.2人の馴れ初め⑤

喜んでくれているとはいえ、節度を保たないと軽い女だと思われかねません。

私は彼から唇をそっと離してソファーに座り直します。

時計を見れば15分程経過しておりました。これぐらいは許容範囲ですね。


「ハァハァ……お前……いきなり何すんだよ」


涙目でそう訴えかけてくる彼を見て、私の中で何かが弾けました。

本能が私に語りかけます、この男と喰らい尽くせと……。

そして、私は再度彼の唇を………以下略。



「それで……一体どういうつもりなんだよお前。2度もあんなに長々とキスしやがって。流石に身の危険を感じたぞ。しかも、お前のせいで忘れていた過去の嫌な思い出が蘇ったぞ」


「あなたの過去の思い出とは、少し興味が湧きますね。聞いてさしあげますから、どうぞお話下さいませ」


「なんでそんなに上から目線なんだよ。まぁいい…俺さ?これ誰にも言ったことがないのだけど…ファーストキスが実は男なんだよ。しかもさっきのお前みたいにその時も蹂躙されたんだよ」


突然のカミングアウトは、予想もしない同性とのキスの話だそうです。

男性同士なら浮気にはならないのでしょうか?

彼が男性に襲われる姿を想像してみます……嫌悪感……は、ありませんね。

同性ならノーカウントという話も聞いたことがあるありますから、考えるのはまた後ほど一人になってからでいいでしょう。


「俺が小学校1年の時にさ?じぃちゃんの還暦祝いのパティーがあって同じ年ぐらいの子供が何人か来てたんだ。そういう場所が好きじゃなくてさ、会場にいても暇だから裏山に虫採りに行ったんだよ」


そこから先、彼が語ったのは私にも覚えのあるものでした。


父に連れられて行った大きなお屋敷。そこには大勢の大人が集まっていて、父はその方々と話す事に夢中で、私は放置されました。

退屈だったので、お屋敷の周りを探索し始めたら、敷地を出て裏山に向かう男の子の姿を視界に飛び込んできました。

何か面白い事があるかもしれないと思い、その子の後をつけて私も山に入っていきました。


その子はセミを取ろうと網をしきりに動かしますが一向に取れる様子は見受けられません。

それでも暫くの間頑張っていたのですが、疲れ果ててしまった様で、ついに座り込んでしまいました。


「こんなに頑張っても1匹も捕まえらないなんて…僕は本当に何をしてもダメなんだな……」


たかだか虫が取れないぐらいで、世界の終わりみたいな顔をする男の子に私は近づきます。


「ねぇ、君。虫取りしてるの?そういうの得意だからちょっとその網貸してよ」


突然話しかけられて驚いたのか、分かりやすいぐらいに肩をビクつかせる男の子。

よくよく見れば、とても可愛らしい顔をしていて今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたのですよね。

まぁ、その時は我慢しましたが……。


最初は私を警戒していた男の子も徐々に懐いて来ました。

良い所を見せたかった私の頑張りの甲斐もあり、セミをたくさん捕まえる事が出来ました。


『何かお礼がしたい』と言われた私は本能の赴くままに彼の唇を味わい尽くしました。

私の大切なファーストキスの思い出です。本当に懐かしい……。


「それでさ?たくさんセミを取ってくれた事が嬉しくてお礼をしたいと言ったら、いきなりキスされたんだよ。あの頃は理解してなかったけど、成長してマジでトラウマになったよ……初めてが男からされたなんて黒歴史以外の何物でもない……」


いえいえ、あなたは男とキスなんてしていませんよ。

私を男と間違えるなんて……どこをどう見ても素敵な女の子でしたよ、あの頃の私は……。

なぜそんな勘違いをしているのでしょうか。


確かあの頃の私は……確か遊ぶのに邪魔だからと髪を短くして、動きにくいという理由でハーフパンツを好んでいましたね。

なるほど、百歩譲って見ようによっては男の子に見えなくもありませんね。


私だと打ち明けても良いのですが、このままトラウマだと頭を抱える彼も可愛いので、面白そうなのでそっとしておきましょう。

あまりそういう態度を取られると、私の精神衛生上良くないのですが、自制心です……。


「あなたが望んでした訳じゃないのですし、そんな昔の事をいつまでも気にする必要なんてないと思います」


「何か逆に気を使わせてしまったな…三宮、お前良い奴だったんだな……聞いてくれて少し胸のつかえが取れたよ」


「だから、さんを付けて下さい。あとまたお前って言ってます。はぁ、もういいです……言っても直せそうにないので、私の事はこれからは茉莉とお呼びください」


そう言って、髪をかきあげます。男性にはこれがウケるそうだと友達から聞きました。

自画自賛するのはあまり好きではありませんが、これは決まりました。

好感度大幅アップは間違いないでしょう。


「それで、俺の話はとりあえず終わったから話を戻すけど、茉莉は何で俺にキスしてきたの!?」


この方は本当に空気を読めない残念な方の様です。

そこに唇があればキスがしたくなる。私がキスをするのにそもそも理由なんて必要ないでしょう。

したいからする、それでいいじゃないですか。

考えるまでもない事を質問してくるとは時間の無駄遣いとしか言えません。

ここは今後修正していく必要がありそうです。


とは言え、正直に答えるのもそれはそれで負けた気がするので、どう答えるのが良いでしょうか?

私は、思考をフル回転して最適解を求めます。


「すぐに人から答えを聞いて、それで成長はあるのでしょうか?安易に私に尋ねる前に何故私がその様な行動を取らざるを得なかったのか考えてみてはいかがでしょうか?思いついた答えの真偽を確かめる必要はありません。あなたがご自身で理解していれば良いのです。私の言いたい事は理解できましたか?ならば、『YES』か『はい』のどちらかでお答え下さい」


「…………」←彼


「…………」←私


「…………」←彼


彼は眉間に皺を寄せ、何か言いたそうにしています。

もう少しだけ待ってみましょう。


「…………」←私


「…………」←彼


「…………」←私


「はい」←私の中で出せる最も低い声


「ちょっと待てよ!?なんでお前が答えてんだよ、おかしいだろうが〜っ」


答えたそうにしていたので、私が答えてさしあげたのに一体何が不満なのでしょうか?

こういう所も今後調教が必要な様です。

まったく、手のかかるお坊ちゃんですね……馬鹿な子ほど可愛いとも言いますからね、見た目通りと言えばそうなのかもしれませんね。

読んでくださってありがとうございます。

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